日本地震学会2020年度秋季大会

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Room A

Regular session » S15. Strong ground motion and earthquake disaster

[S15]PM-1

Thu. Oct 29, 2020 1:00 PM - 2:15 PM ROOM A

chairperson:Yo Fukushima(IRIDeS, Tohoku University), chairperson:Yoshiaki Hisada(Kogakuin University)

2:00 PM - 2:15 PM

[S15-05] Study on rupture propagation effect of small and medium-sized earthquakes used as elemental earthquakes of empirical Green's function method

〇Junpei Kaneda1, Shinya Tanaka1, Yoshiaki Hisada2 (1.Tokyo Electric Power Services Co., Ltd., 2.Prof.,Kogakuin Univ.)

1.はじめに
 経験的グリーン関数法(以下、EGF)は過去に発生した地震の観測記録の再現に関しては実績もあり広く用いられている地震動評価手法の一つである(例えば、三宅ほか(1999))。しかし、地震動予測を行う場合、要素地震をどのように選定するか明確な基準はない。池浦(1997)では本震と要素地震の位置や地震タイプが近いことや、地震規模の差が2程度以内であることを挙げている。海溝型地震や長大断層による地震ではM8以上となることから要素地震としてM6程度の地震を用いることとなる。しかし、M6級の地震は数km程度の面積を持つことになるため、震源の破壊過程の影響が無視できない可能性がある。熊谷(2019)では2008年岩手県沿岸北部の地震(Mw6.8)の浅野・岩田(2009)による震源モデル(主たるSMGAの断層面が6km×6km)の破壊開始点をわずかに変更することで特定の方向に位置する観測点の再現性が向上することを示している。同様に断層モデルを用いて破壊伝播効果の影響について検討している研究として、例えば香川(2015)や引田ほか(2015)があるが、これらの研究で用いている断層長さは数十kmとやや大きい。一方、中村・八代(2002)は、ほぼ同一の位置・規模の2地震のスペクトル振幅比から、M5級の地震でも周期1秒以下の短周期で震源の破壊過程の影響があることを示しているが、用いられた震源の破壊過程はあきらかにされていない。

 本研究では、震源の破壊過程があきらかにされているM6前後の地震を対象として、観測記録の傾向を分析するとともに、EGFによる観測記録を再現したうえで、破壊開始点や破壊伝播速度を変更した波形合成を行うことで、破壊伝播効果の影響について検討を行う。なお、本研究は破壊伝播効果の影響を含んだ要素地震を用いた波形合成が本震へ与える影響を確認することを目的としている。

2.検討方法
 本研究ではHikima and Koketsu(2005)で震源の破壊過程が求められている2004年新潟県中越地震の本震と規模の異なる4つの余震を対象とする。

 初めに震源から見て異なる方位に位置する複数の観測点で得られた記録を用いてフーリエスペクトル比を算定し、破壊伝播方向との関係について整理を行う。次に、Hikima and Koketsu(2005)を基本とした特性化震源モデルを作成し、EGFにより観測記録の再現を行う。最後に破壊開始点を変更した波形合成を行い、破壊伝播効果が地震動の計算結果に与える影響をあきらかにする。
 なお、本稿ではHikima and Koketsu(2005)のevent5(Mw5.9)(ここではEq.1とする)に関する検討結果を示す。また、要素地震は断層面に近い位置で発生した2004/10/27,17:15(Mw3.7)を用いた結果を示すが、今後複数用いる予定である。対象とする地震と観測点を図1、表1に示す。

3.検討結果
 3.1 観測記録のフーリエスペクトル比
  図1に示す観測点を対象に算定したフーリエスペクトル比(Eq.1/Eq.2)を図2に示す。要素地震の地震規模が小さいことから対象周波数は0.5Hz~10Hzとし、Parzen Window 0.2Hzで平滑化を行った。算定したフーリエスペクトル比は、0.5Hz~2.0Hz程度で震源から観測点の方位によって違いがみられたため、ここでは破壊進行方向のforward側とそれ以外のbackward側として分けて平均値を算定している。ここで、破壊進行方向はHikima and Koketsu(2005)において、すべりの大きい部分が破壊開始点の南西に位置していたことから、破壊開始点から南西方向に破壊が進行すると仮定した。0.5Hz~2.0Hz程度ではforward側はbackward側の2倍程度大きくなっていることがわかる。Mw3.7の要素地震がほとんど方位性が無い点震源と仮定すると、Mw5.9程度の地震でも破壊伝播効果の影響が0.5Hz~2.0Hz程度にあらわれていると考えられる。

 3.2 EGFに基づく破壊伝播の影響に関する分析
  前節で示した破壊伝播効果をEGFによる波形合成で確認する。対象地点はforward側のNIGH19観測点とbackward側のNIGH08観測点、両地点の中間地点に位置するFKSH06観測点の3地点である。波形合成の手法は入倉ほか(1997)に基づいて行った。震源モデルは図3に示すHikima and Koketsu(2005)を基に特性化したモデルを用いる。なお、断層の分割数は要素地震の地震規模を考慮して再分割している。また、ここで用いる要素地震の波形はS波到達から5秒程度までとし、後続波は考慮しない。破壊開始点はHikima and Koketsu(2005)の位置と、南西側に2km移動した位置を用いる。破壊開始点を変更した評価結果を比較し、破壊伝播効果の影響を確認する。図4にEGFによる波形合成結果のEW成分を示す。上段の速度波形では特徴的な位相は再現できている。NIGH19では破壊開始点を南西へ2kmだけ移動すると位相が大きく乱れ、また、フーリエスペクトル比(EGFによる波形合成結果/Eq.2)から1Hz付近の振幅が半分程度になり、破壊伝播効果の影響が大きいことがわかる。この結果は前節のforward側とbackward側のフーリエスペクトル比の違いと概ね対応している。NIGH08地点では破壊開始点を移動したことで破壊が遠ざかる方向から近づく方向になり、振幅が増幅している。一方、FKSH06では破壊開始点を変えたことによる破壊伝播効果の影響は小さい。破壊進行方向に直交する地点のためと考えられる。

4.今後の検討方針
 今後はHikima and Koketsu(2005)の異なるイベントと要素地震で同様の検討を実施し、さらに破壊伝播速度を変えた場合の計算を行い、破壊伝播効果の影響を評価したいと考えている。また、要素地震の切り出し時間を変えて、表面波が多く含まれる後続波が波形合成の過程でコヒーレントに重なり合う場合の影響についても調べる予定である。


謝辞
 防災科学技術研究所による地震記録を使用させていただきました。東京電力ホールディングスの引間和人博士には、2004年新潟県中越地震本震、及び余震の震源インバージョン結果をご提供頂きました。東電設計㈱南雲秀樹氏には適切なご助言をいただきました。図の作成にあたっては国土地理院の地理院地図とGMTを使用しました。ここに記して、お礼を申し上げます。