4:00 PM - 5:30 PM
[S15P-04] The rupture process of the 2016 Kumamo earthquake considering long-period pulses and ground deformations in the near field
1. はじめに
本研究では2016年熊本地震の最大イベントの震源過程を、震源断層近傍における「長周期パルス」(長周期のパルス波)の成因を主眼として再解析する。長周期パルスは、兵庫県南部地震のような大きな速度パルスで特徴づけられるだけでなく、大きな地殻変動(静的変位)を含むという特徴も持っている(岩田, 2016)。しかし、震源断層近傍にある西原村や益城町の震度観測点の速度波形データを含めて震源インバージョンを行っている研究は非常に限られるだけでなく (Kobayashi et al., 2017)、その限られた研究でも震源断層近傍の地殻変動データが取り入れられることはなかった。そこで本研究では、西原村や益城町における加速度記録から地殻変動を抽出する試みを行い、Kobayashi et al. (2017)のデータセットにそれら地殻変動データを追加して、震源過程のジョイントインバージョンを行う。
2. 震源断層近傍の地殻変動データ
西原村の震度観測点(以下93048)と益城町の震度観測点(以下93051)の加速度データに対して、台形積分を2回行うことによって変位波形を得ることを基本とする。まず加速度データについては余震と思われる箇所の手前まで55秒間のデータを用い、1回積分することによって速度波形を得た。得られた速度波形は、加速度波形の基線変化によって発散してしまっているので、基線補正を行った。基線補正前の速度波形をv1(t)、基線補正後の速度波形をv2(t)とする。まず試行錯誤的に発散が始まる時間tcを決定する。Tを速度波形の全長、vmを発散の傾斜線上のTでの値として、以下のようにv2(t)を決定した。
v2(t)=v1(t) (t<tc)
v2(t)=v1(t)-vm(t-tc)/(T-tc) (t>tc)
そして補正した速度波形をもう一度積分することによって得られた、変位波形の終わり20秒の平均値を地殻変動の大きさとして決定した。
3. 震源インバージョン
インバージョン手法、グリーン関数計算法、断層モデルについてはKobayashi et al. (2017)と同じものを用いた。インバージョンを行った結果のすべり分布は図中(a)のようになった。このすべり分布から計算された合成地殻変動(SYN)と観測地殻変動(OBS)の水平成分を図中(b)で比較したが、93048と93051を含め両者は概ね合っている。(a)のすべり分布をKobayashi et al. (2017)のものと比較すると、震源断層近傍の地殻変動データを追加することにより、F1におけるすべりの一部がF2に移動し、かつF2の浅い部分に集中する傾向が見て取れる。その結果、Kobayashi et al. (2017)と同じようにF1上の小断層X-(i)、F2上のZ-(i)~(iv)からのcontributionだけで93048の合成速度波形を描いてみると、それだけで長周期パルスを8割方説明できていることがわかる(図中(c))。また、Z-(i)~(iv)それぞれのcontribution(点線)はほぼ同時刻に到達して、directivity効果を起こしていることが見て取れる。一方、93051直下の小断層Y-(i)~(v)のすべりはKobayashi et al. (2017)と大きく変わるところがないので93051に対する結論に変化はない。以上をまとめると、通常の震源インバージョンの結果により震源断層近傍の長周期パルスと地殻変動を説明できて、特別な震源モデルを考える必要はない。他の地震と比較すると、熊本地震の場合、浅いアスペリティと上向きの破壊伝播が特徴になっている。
本研究では2016年熊本地震の最大イベントの震源過程を、震源断層近傍における「長周期パルス」(長周期のパルス波)の成因を主眼として再解析する。長周期パルスは、兵庫県南部地震のような大きな速度パルスで特徴づけられるだけでなく、大きな地殻変動(静的変位)を含むという特徴も持っている(岩田, 2016)。しかし、震源断層近傍にある西原村や益城町の震度観測点の速度波形データを含めて震源インバージョンを行っている研究は非常に限られるだけでなく (Kobayashi et al., 2017)、その限られた研究でも震源断層近傍の地殻変動データが取り入れられることはなかった。そこで本研究では、西原村や益城町における加速度記録から地殻変動を抽出する試みを行い、Kobayashi et al. (2017)のデータセットにそれら地殻変動データを追加して、震源過程のジョイントインバージョンを行う。
2. 震源断層近傍の地殻変動データ
西原村の震度観測点(以下93048)と益城町の震度観測点(以下93051)の加速度データに対して、台形積分を2回行うことによって変位波形を得ることを基本とする。まず加速度データについては余震と思われる箇所の手前まで55秒間のデータを用い、1回積分することによって速度波形を得た。得られた速度波形は、加速度波形の基線変化によって発散してしまっているので、基線補正を行った。基線補正前の速度波形をv1(t)、基線補正後の速度波形をv2(t)とする。まず試行錯誤的に発散が始まる時間tcを決定する。Tを速度波形の全長、vmを発散の傾斜線上のTでの値として、以下のようにv2(t)を決定した。
v2(t)=v1(t) (t<tc)
v2(t)=v1(t)-vm(t-tc)/(T-tc) (t>tc)
そして補正した速度波形をもう一度積分することによって得られた、変位波形の終わり20秒の平均値を地殻変動の大きさとして決定した。
3. 震源インバージョン
インバージョン手法、グリーン関数計算法、断層モデルについてはKobayashi et al. (2017)と同じものを用いた。インバージョンを行った結果のすべり分布は図中(a)のようになった。このすべり分布から計算された合成地殻変動(SYN)と観測地殻変動(OBS)の水平成分を図中(b)で比較したが、93048と93051を含め両者は概ね合っている。(a)のすべり分布をKobayashi et al. (2017)のものと比較すると、震源断層近傍の地殻変動データを追加することにより、F1におけるすべりの一部がF2に移動し、かつF2の浅い部分に集中する傾向が見て取れる。その結果、Kobayashi et al. (2017)と同じようにF1上の小断層X-(i)、F2上のZ-(i)~(iv)からのcontributionだけで93048の合成速度波形を描いてみると、それだけで長周期パルスを8割方説明できていることがわかる(図中(c))。また、Z-(i)~(iv)それぞれのcontribution(点線)はほぼ同時刻に到達して、directivity効果を起こしていることが見て取れる。一方、93051直下の小断層Y-(i)~(v)のすべりはKobayashi et al. (2017)と大きく変わるところがないので93051に対する結論に変化はない。以上をまとめると、通常の震源インバージョンの結果により震源断層近傍の長周期パルスと地殻変動を説明できて、特別な震源モデルを考える必要はない。他の地震と比較すると、熊本地震の場合、浅いアスペリティと上向きの破壊伝播が特徴になっている。