11:15 AM - 11:30 AM
[S17-04] A meteotsunami on 1 July 2020 recorded by the S-net deep ocean pressure gauge network
はじめに
近年,海底圧力計を用いた沖合の津波観測網 (e.g., Kanazawa et al. 2016) の発展により,沖合での広域・高密度な津波観測が可能になりつつある (e.g., Kubota et al. 2020).2020年7月1日の17:00–19:00 UTC (7月2日 2:00–4:00 JST),東北日本の沖合に展開された日本海溝海底地震津波観測網S-netの海底圧力計のうち福島〜岩手沖の観測点で北に向かって伝播する圧力変動波群を記録した (図1).しかし,この時間帯に津波を励起するような顕著な地震は報告されていない.本研究では,S-netにより観測された圧力変動波群の特徴を整理し,その要因を考察した.
S-net水圧記録の特徴とその原因
まず,S-net圧力観測波形の特徴を整理した.図1aに周期100–3600 s のバンドパスフィルタを適用した観測波形を,図1b,1cにS-net観測点における最大波の振幅とその到達時刻をそれぞれ示す.水深の比較的浅い (H0 ≤ ~1000 m) 観測点で振幅が大きい (≥ 1 hPa).また,最大波の到達時刻 (図1c) から,ほぼ真北 (方位角 ~350–360°) に向かって見かけ速度c′ ~80–90 m/sで伝播していた.この波群の押し波・引き波それぞれの継続時間はおよそ600 s (卓越周期T0 ~1200 s) であり,押し波部分の南北方向の空間広がりを概算するとc′T0/2 ~ 50 km程度と推測される.
津波を引き起こす要因としては地震時の断層すべりによって生じる海底地殻変動が最も一般的である.それ以外にも海底地すべり (e.g., Baba et al. 2019; Heidarzadar et al. 2020),海底火山活動 (e.g., Fukao et al. 2018; Sandanbata et al. 2018) が知られているが,周辺の海陸の地震計で顕著なシグナルが検知されていないことを考慮するとこれらが原因ではないと思われる.ある空間広がりをもつ大気圧擾乱が移動すること (気圧波) によっても津波が励起されることが知られており,「気象津波」と呼ばれている (e.g., Hibiya and Kajiura 1982).今回S-netで観測された圧力変動も,大気圧擾乱の移動によって生じた気象津波であると考えるのがもっともらしい.
気象津波シミュレーション
東北沖を北に移動する低気圧を仮定して津波シミュレーションを行い,観測を説明する大気圧変動モデルを検討した.大気圧擾乱の移動により生じる気象津波のふるまいは,津波の長波方程式に大気圧擾乱の空間微分に比例する項が加えられた形で表される (e.g., Hibiya and Kajiura 1982; Inazu et al. 2012; An et al. 2012; 齊藤・他2020 地震学会).ここでは,東西に十分広く,南北50 kmの空間広がりをもつガウス分布型の低気圧 (ピーク振幅 -1hPa) が真北 (方位角0°) に移動すると仮定し,移動速度を様々変えて計算を行った.また,気象津波において海底水圧計が観測する圧力変化は津波 (海面高変化) だけでなく大気圧変化による成分も加わることを考慮し,両者による圧力変動を足し合わせたものを観測と比較した.
低気圧の移動速度を,V = 100 m/s と仮定することで,観測される波形の特徴や見かけ速度を再現することができる.気象津波の成長する条件として,低気圧の移動速度Vと津波の伝播速度c0が近い値となる (c0 ~ V) とき,低気圧の移動距離 (あるいは津波の伝播距離) の増大に伴って振幅が大きくなる (Proudman 1929).長波近似における水深1000 mでの津波伝播速度c0 = (g0H0)0.5 ~ 100 m/sとなることから,今回S-netにおいて観測された気象津波の波源は,水深 ~1000 mの等深線に沿って南北に分布すると考えられる.
さらに,計算された海面高変化と海底圧力変化の分布の時空間変化を比較すると,気象津波の波源域外では両者の分布は一致するが,波源域内では大気圧擾乱の影響により分布が異なっていた.この結果は,海底水圧計の気象津波記録から海面波高分布を正しく得るには,海面での大気圧分布の情報が必要であることを示している.
近年,海底圧力計を用いた沖合の津波観測網 (e.g., Kanazawa et al. 2016) の発展により,沖合での広域・高密度な津波観測が可能になりつつある (e.g., Kubota et al. 2020).2020年7月1日の17:00–19:00 UTC (7月2日 2:00–4:00 JST),東北日本の沖合に展開された日本海溝海底地震津波観測網S-netの海底圧力計のうち福島〜岩手沖の観測点で北に向かって伝播する圧力変動波群を記録した (図1).しかし,この時間帯に津波を励起するような顕著な地震は報告されていない.本研究では,S-netにより観測された圧力変動波群の特徴を整理し,その要因を考察した.
S-net水圧記録の特徴とその原因
まず,S-net圧力観測波形の特徴を整理した.図1aに周期100–3600 s のバンドパスフィルタを適用した観測波形を,図1b,1cにS-net観測点における最大波の振幅とその到達時刻をそれぞれ示す.水深の比較的浅い (H0 ≤ ~1000 m) 観測点で振幅が大きい (≥ 1 hPa).また,最大波の到達時刻 (図1c) から,ほぼ真北 (方位角 ~350–360°) に向かって見かけ速度c′ ~80–90 m/sで伝播していた.この波群の押し波・引き波それぞれの継続時間はおよそ600 s (卓越周期T0 ~1200 s) であり,押し波部分の南北方向の空間広がりを概算するとc′T0/2 ~ 50 km程度と推測される.
津波を引き起こす要因としては地震時の断層すべりによって生じる海底地殻変動が最も一般的である.それ以外にも海底地すべり (e.g., Baba et al. 2019; Heidarzadar et al. 2020),海底火山活動 (e.g., Fukao et al. 2018; Sandanbata et al. 2018) が知られているが,周辺の海陸の地震計で顕著なシグナルが検知されていないことを考慮するとこれらが原因ではないと思われる.ある空間広がりをもつ大気圧擾乱が移動すること (気圧波) によっても津波が励起されることが知られており,「気象津波」と呼ばれている (e.g., Hibiya and Kajiura 1982).今回S-netで観測された圧力変動も,大気圧擾乱の移動によって生じた気象津波であると考えるのがもっともらしい.
気象津波シミュレーション
東北沖を北に移動する低気圧を仮定して津波シミュレーションを行い,観測を説明する大気圧変動モデルを検討した.大気圧擾乱の移動により生じる気象津波のふるまいは,津波の長波方程式に大気圧擾乱の空間微分に比例する項が加えられた形で表される (e.g., Hibiya and Kajiura 1982; Inazu et al. 2012; An et al. 2012; 齊藤・他2020 地震学会).ここでは,東西に十分広く,南北50 kmの空間広がりをもつガウス分布型の低気圧 (ピーク振幅 -1hPa) が真北 (方位角0°) に移動すると仮定し,移動速度を様々変えて計算を行った.また,気象津波において海底水圧計が観測する圧力変化は津波 (海面高変化) だけでなく大気圧変化による成分も加わることを考慮し,両者による圧力変動を足し合わせたものを観測と比較した.
低気圧の移動速度を,V = 100 m/s と仮定することで,観測される波形の特徴や見かけ速度を再現することができる.気象津波の成長する条件として,低気圧の移動速度Vと津波の伝播速度c0が近い値となる (c0 ~ V) とき,低気圧の移動距離 (あるいは津波の伝播距離) の増大に伴って振幅が大きくなる (Proudman 1929).長波近似における水深1000 mでの津波伝播速度c0 = (g0H0)0.5 ~ 100 m/sとなることから,今回S-netにおいて観測された気象津波の波源は,水深 ~1000 mの等深線に沿って南北に分布すると考えられる.
さらに,計算された海面高変化と海底圧力変化の分布の時空間変化を比較すると,気象津波の波源域外では両者の分布は一致するが,波源域内では大気圧擾乱の影響により分布が異なっていた.この結果は,海底水圧計の気象津波記録から海面波高分布を正しく得るには,海面での大気圧分布の情報が必要であることを示している.