日本地震学会2020年度秋季大会

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Award lecture

Regular session » S20. Commemorative lectures from SSJ award recipients

[S20]AM

Thu. Oct 29, 2020 9:00 AM - 12:00 PM ROOM A

chairperson:Ryosuke Ando(University of Tokyo)

10:13 AM - 10:33 AM

[S20-02] Three-dimensional dynamic rupture propagation including fault weakening processes and stress conditions

〇Yumi Urata1 (1.National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience)

(1)はじめに
地震の発生と成長は、断層面に働く応力状態と断層の摩擦挙動によって決まる。地震発生層の応力場と岩石摩擦に関する研究は、主に地震学・地質学・測地学的な観測や観察、室内実験によって進められてきた。一方、地震の発生と成長の物理を理解するため、ミクロな物理過程からマクロな応力蓄積・断層破壊までの幅広い時空間スケールを扱う、数値シミュレーション研究が行われてきた。著者は、理論・数値モデル研究を主軸に、実験・観測データを組み合わせることで、断層摩擦と応力を推定し、地震の発生と成長の物理モデルを構築することに取り組んできた。

(2)断層摩擦発熱と流体の相互作用が動的破壊過程に与える影響の解明
断層摩擦の急激な弱化によって、断層はすべりやすくなり、大地震に至る。断層摩擦の急激な弱化の要因の一つとして、断層摩擦発熱による間隙流体圧の増加(thermal pressurization、以下TP、Sibson 1977)がある。TPは理論的・地質学的には予想されていたが、地震時の断層破壊に与える影響は未評価であった。そこで著者らは、TPを3次元の動力学断層破壊伝播の数値計算に組み込み、TPによってすべり量や破壊伝播速度が増加、断層破壊が連動しやすくなり、結果として地震規模が大きくなることを定量的に明らかにした(Urata et al. 2008, 2012)。また、TPは分岐断層系での破壊伝播経路を変え(Urata et al. 2014)、津波の発生にも影響を及ぼしうる。さらに、TPの関連現象である、ダイラタンシー(断層破壊による空隙生成)や水の物性論から予想される相変化を動的破壊伝播計算に導入し、それらの効果の強さや複雑な影響を明らかにした(Urata et al. 2013, 2015)。これらの研究により、地震の成長に関する理解を深化させた。

(3)岩石摩擦実験における断層面の摩擦の推定
小スケールの岩石摩擦実験から構築された速度状態依存摩擦則が、大スケールの自然地震でも成り立つのかは、地震学の大きな問題の一つである。一方、大型岩石を用いた摩擦実験(Fukuyama et al. 2014)では、固着すべりが起こるために、一般的な方法で摩擦パラメータを推定することができない。そこで、固着すべりの数値シミュレーションによって大型岩石摩擦実験データを再現することで、不安定すべり中の摩擦パラメータを推定する手法を確立した。その結果、スケールの効果として、従来の摩擦則で記述できない、断層面の状態の変化があることを明らかにした(Urata et al. 2017a)。

(4)大地震が連続発生するための応力と断層摩擦の力学条件の解明
大地震の発生を規定する要因である応力場や断層面における摩擦パラメータ等を実際の観測データから明らかにすることは、大地震の発生前に現実的な地震シナリオを想定する観点からも重要である。著者らは、2016年熊本地震について、大地震を連続発生させうる力学条件を解明した。まず前震による応力変化と本震破壊による応力解放に必要な力のバランスの理論的考察によって、応力と断層摩擦のとりうる範囲を推定した。次に、地震観測データから推定された応力の向きを用い、応力と断層摩擦を変化させた約150ケースで本震の動力学断層破壊シミュレーションを実施した。本震を再現できるのはわずか数ケースであり、本震を再現しうる応力場および断層摩擦の推定に成功した(Urata et al. 2017b)。この結果は、観測データから制約される応力場と動的破壊伝播シミュレーションを組み合わせることで、巨大地震の現実的な発生シナリオを合理的に提示しうることを示している。