日本地震学会2020年度秋季大会

Presentation information

Poster session (Oct. 30th)

Special session » S23. Frontier of observational seismology-Future of dense seismic observation

S23P

Fri. Oct 30, 2020 4:00 PM - 5:30 PM ROOM P

4:00 PM - 5:30 PM

[S23P-05] Comparison between seismic velocity change and pore-fluid pressure in the Nankai Trough

〇Toshinori Kimura1, Eiichiro Araki1, Takashi Tonegawa1 (1.Japan Agency for Marine-earth Science and Technology)

はじめに

南海トラフ長期孔内計測での地殻変動観測により、これまで明らかになっていなかった南海トラフプレート境界型巨大地震発生域直上での地殻変動現象が確認された。Araki et al. (2017) は長期孔内観測点で観測された間隙水圧記録から、巨大地震発生域の断層が1週間~3週間ほどで数センチ動く「ゆっくり滑り」(SSE)が1年周期ほどで繰り返し発生しており、それによりプレート沈み込みに伴い蓄積される歪量のおよそ半分程度を開放していることを明らかにした。SSEなどの地殻変動現象を地震発生域広域の断層面で時空間的に把握することは、巨大地震発生・準備プロセスの理解に直接的につながるアプローチである。一方、海底で広域・稠密な地殻変動観測を実現することは技術・コスト面が大きな制約条件になり困難が伴う。ここで、海底地震観測は歪・傾斜・間隙水圧等計測などの直接的な地殻変動観測と比較して安価・容易に観測範囲、密度を増やすことができる。例えば、南海トラフ域では計50点を超える海底・孔内地震観測点が存在する。また、いずれの観測点も海底ケーブルに接続されておりリアルタイムデータ処理・モニタリングが可能である。本研究では,南海トラフの孔内観測点の地震計連続観測データに地震波干渉法の処理を適用し海底下の地震波速度構造の時間変化を検出する。さらに,得られた地震波速度構造の時間変化と孔内観測点で観測された間隙水圧データを比較し,地震波速度構造の時間変化が海底下の地殻変動観測のプロキシになり得るか議論する。

観測・解析手法

南海トラフ熊野灘には三点の長期孔内観測点 C0002G, C0010A, C0006G が水深 2000~4000 m の海底下最大1000mの深度にトラフ軸に直交方向にアレイ設置 (10km~20km間隔) されている。これら三点の孔内観測点はSSEおよび深部低周波微動が発生する領域の直上に位置しており,孔内間隙水圧計ではSSE発生に伴う間隙水圧変化が繰り返し観測されている。また,長期孔内観測点には歪計・傾斜計・地震計・温度計・間隙水圧計が設置されており稠密地震津波観測網DONETの海底ケーブルを利用してリアルタイム観測を実現している。2018年4月には全ての観測点でリアルタイム観測が開始された。本研究では,これらの孔内観測点の三成分短周期地震計(ジオフォン)で観測された常時微動記録を利用し,観測点間の疑似波形記録を計算する。また,C0002G観測点では海底-孔内に設置された地震計鉛直アレイの観測データも利用する。本研究では一時間ごとの常時微動記録に対して0.5-2Hz のバンドパスフィルタを適用後,全ての観測点の水平動の記録をRadial成分, Transverse成分に回転し全ての観測点・成分間でのDeconvolution波形を計算した。得られた一時間ごとの疑似波形記録は24時間の移動平均を計算し,それらに含まれる直達波・反射波イベントの時間変化をマッピングすることで地震波速度変化を議論する。

結果・まとめ

解析の結果得られた観測点間の疑似波形記録にはいくつかの明瞭なイベントが確認された。特にC0010A-C0002GのRadial成分同士のDeconvolution波形では8秒付近に最も明瞭な反射波らしきベントが確認できるが,これはC0010A-海面反射-C0002Gのパスを通るP波の走時とよく一致している。その他にも時間によらずイベントが連続しており,地震波速度構造,特にP波速度構造に対応した波形記録がRadial成分のDeconvolution処理から得られている可能性が高いと考えられる。C0002Gの鉛直地震計アレイ (地震計間の距離900m) のDeconvolution処理では,水平動成分の処理では2点間のS波速度に対応したイベント,鉛直成分の処理ではP波速度に対応したイベントが確認できた。これらの地震波速度変化と,孔内間隙水圧データを比較した。図は南海トラフC0002G観測孔で観測された間隙水圧(上)と鉛直地震計アレイデータから得られた地震波速度の時間変化(下)を示す。図中灰色線はSSEの発生タイミングを示す。三重沖地震 (Mw6.0,2016年4月1日)に伴い発生した間隙水圧変化と地震波速度変化が対応しているが、その他の小規模SSE発生時には明瞭な速度時間変化は確認できない。今後,より広域の観測点間のDeconvolution波形の時間変化と複数の孔内観測点での間隙水圧記録比較およびSSEとの関係について議論する予定である。

謝辞

本研究の一部は科学研究費助成事業 (研究課題番号: 20K14589 ) からの助成を受け実施した。