[S01P-05] レイリー波の極性を利用した一次脈動の発生源推定方法の改良
一次脈動は地球の常時振動の1つであり、卓越周期はおよそ10秒から20秒を示す。発生メカニズムとしては、卓越周期がうねりの周期とよく一致していることから、浅海域での海洋波と海底地形の直接的な作用が考えられている。しかし、Park & Hong (2020)や河上・須田 (JPGU 2024)のように一次脈動の発生源が特定の領域で集中して観測されるなど、未解明な部分も多い。河上・須田 (JPGU 2024)では2017年から2021年に発生した41個のハリケーンについて一次脈動の発生源を求めた結果、ドミニカ共和国の北岸、メキシコ湾ニューオーリンズ周辺、メイン湾周辺で特に強い発生源が推定された。しかし従来の方法では、観測点分布が発生源の推定結果に大きく影響するという問題点があった。そこで、本研究では各観測点で得られる発生源の方位をより強く反映した推定方法を提案する。まず以前に解析した2017年〜2021年に発生した41個のハリケーンの期間について一次脈動の発生源を再推定し、結果を比較した。また今年の6月に発生しカリブ海を通過した大型ハリケーンBerylについても追加で解析を行った。
地震計記録として、IRIS Data Management Center (DMC)のWEBサイトで公開されている北米大陸および中南米に配置された広帯域地震計ネットワークの3成分連続地震計記録を使用した。取得した地震計記録から1時間ごとにスペクトルを作成し、一次脈動のスペクトルピークが顕著な観測点を解析に使用した。2017年から2021年の5年間に大西洋で発生したハリケーンについては、National Hurricane Centerのデータベースを参照し、41個のハリケーンを解析対象とした。2024年6月末に大西洋で発生したハリケーンBerylに関するデータは、NOAAのInternational Best Track Archive for Climate Stewardship (IBTrACS)から入手した。
発生源の推定には、Park & Hong (2020)と同様にRayleigh波の極性を利用する方法を用いた。この方法では、ある方位に回転させた水平成分と位相をπ/2シフトさせた上下動成分との相互相関係数が最も大きいとき、その方位に発生源があると考える。今回は、発生源を推定するために、北緯10度~50度、 西経50度~100度の範囲において0.5度間隔で仮想的な震源を地表に設定し、観測点から各仮想震源との方位に対応する水平成分を用いて、位相をシフトさせた上下動成分との相互相関係数を計算した。従来の方法では、任意の仮想震源に対して各観測点で計算された相互相関係数を平均し、相対的に平均値の大きい領域を発生源として推定していたが、本研究では以下の手順に従って発生源を推定した。
① 任意の観測点と仮想震源において計算された相互相関係数の値が、その観測点における最大値の90%以上を満たす場合のみ、その仮想震源での評価にその観測点を使用する
② 各仮想震源から見た方位を1度毎に分割し、分割した方位それぞれにおいて、その方位に含まれる観測点で計算された相互相関係数を平均する
③ ②で方位ごとに平均した相互相関係数の合計で相対的に評価する
この方法では、各仮想震源に対して様々な方位に高い相関係数を示す観測点が存在した場合、その仮想震源が発生源として推定されるようになっているが、同一方向に存在する観測点が複数含まれる場合は、それらを平均して評価することになるため、観測点分布の影響を抑制することができる。
新しい発生源推定方法によりハリケーンで励起された一次脈動の発生源を推定した結果、観測点分布の影響が改善され、各観測点で推定された方位を推定結果により多く反映することができた。また、ハリケーンBerylで励起された一次脈動の発生源は、カリブ海に侵入する際にはウィンドワード諸島周辺で推定され、その後、ドミニカ共和国の南岸、ジャマイカ周辺、ケイマン諸島周辺、ベリーズ沿岸の順にハリケーンの移動に伴って発生源が推定された。特に、ケイマン諸島付近をハリケーンが通過する際にはケイマン諸島周辺に加えてカリブ海の南西沿岸でも発生源が推定されており、本研究で提案した方法では複数の励起源が存在した場合でも推定可能であることが示された。
謝辞:本研究はJST 次世代研究者挑戦的研究プログラムの支援を受けています。また、地震計記録としてF-netのデータを利用しました。関係各位に感謝します。
地震計記録として、IRIS Data Management Center (DMC)のWEBサイトで公開されている北米大陸および中南米に配置された広帯域地震計ネットワークの3成分連続地震計記録を使用した。取得した地震計記録から1時間ごとにスペクトルを作成し、一次脈動のスペクトルピークが顕著な観測点を解析に使用した。2017年から2021年の5年間に大西洋で発生したハリケーンについては、National Hurricane Centerのデータベースを参照し、41個のハリケーンを解析対象とした。2024年6月末に大西洋で発生したハリケーンBerylに関するデータは、NOAAのInternational Best Track Archive for Climate Stewardship (IBTrACS)から入手した。
発生源の推定には、Park & Hong (2020)と同様にRayleigh波の極性を利用する方法を用いた。この方法では、ある方位に回転させた水平成分と位相をπ/2シフトさせた上下動成分との相互相関係数が最も大きいとき、その方位に発生源があると考える。今回は、発生源を推定するために、北緯10度~50度、 西経50度~100度の範囲において0.5度間隔で仮想的な震源を地表に設定し、観測点から各仮想震源との方位に対応する水平成分を用いて、位相をシフトさせた上下動成分との相互相関係数を計算した。従来の方法では、任意の仮想震源に対して各観測点で計算された相互相関係数を平均し、相対的に平均値の大きい領域を発生源として推定していたが、本研究では以下の手順に従って発生源を推定した。
① 任意の観測点と仮想震源において計算された相互相関係数の値が、その観測点における最大値の90%以上を満たす場合のみ、その仮想震源での評価にその観測点を使用する
② 各仮想震源から見た方位を1度毎に分割し、分割した方位それぞれにおいて、その方位に含まれる観測点で計算された相互相関係数を平均する
③ ②で方位ごとに平均した相互相関係数の合計で相対的に評価する
この方法では、各仮想震源に対して様々な方位に高い相関係数を示す観測点が存在した場合、その仮想震源が発生源として推定されるようになっているが、同一方向に存在する観測点が複数含まれる場合は、それらを平均して評価することになるため、観測点分布の影響を抑制することができる。
新しい発生源推定方法によりハリケーンで励起された一次脈動の発生源を推定した結果、観測点分布の影響が改善され、各観測点で推定された方位を推定結果により多く反映することができた。また、ハリケーンBerylで励起された一次脈動の発生源は、カリブ海に侵入する際にはウィンドワード諸島周辺で推定され、その後、ドミニカ共和国の南岸、ジャマイカ周辺、ケイマン諸島周辺、ベリーズ沿岸の順にハリケーンの移動に伴って発生源が推定された。特に、ケイマン諸島付近をハリケーンが通過する際にはケイマン諸島周辺に加えてカリブ海の南西沿岸でも発生源が推定されており、本研究で提案した方法では複数の励起源が存在した場合でも推定可能であることが示された。
謝辞:本研究はJST 次世代研究者挑戦的研究プログラムの支援を受けています。また、地震計記録としてF-netのデータを利用しました。関係各位に感謝します。