11:00 AM - 11:15 AM
[S02-08] Instrumental and geographical effects on strain observation in seafloor boreholes
海洋研究開発機構(JAMSTEC)では、海底深部掘削孔を用いた地殻変動と地震動の連続リアルタイム観測を行っている。海底下に深く掘られた掘削孔では、ノイズレベルが低く、プレート境界により近い環境で観測することができる。中でも、間隙水圧計の観測からは、浅部で発生したゆっくり滑りを検出することに成功している(Araki et al., 2017; Ariyoshi et al., 2021)。
高品質な観測をさらに広い範囲に展開するために、新たな長期孔内観測システムが開発され、昨年より展開が開始された。新たな長期孔内観測システムでは、実績のある間隙水圧計を継続して採用した一方、地殻変動・地震観測用のセンサには新たに開発した孔内光ファイバ歪計を採用した(荒木・他, 2024, JpGU; 町田・他, 2024, JpGU)。最初の観測点は、2023年11月に地球深部探査船「ちきゅう」によって紀伊水道沖の深さ約500mの掘削孔内に投入され、2024年1月より連続観測が開始された。
本研究では、新たに採用された孔内光ファイバ歪計の機器特性や近傍の地殻構造が観測振幅に与える影響を有限要素法で推定し、観測値と比較して考察した。機器特性については、孔内計測特有の、歪計のセンサ部と掘削孔周辺の媒質の相互作用の影響度を見積もった。近傍の地殻構造については、観測点を設置した場所が、海盆状の地形に位置することに注目し、その形状が観測値に与える影響を見積もった。なお、有限要素法の計算には、COMSOL Multiphysics 6.1を利用した。
機器特性の推定では、周辺媒質のみのモデルと掘削孔や測器を組み込んだモデルの歪場を比較することで、測器の感度を推定した。孔内光ファイバ歪計は、コイル状の光ファイバケーブルの伸縮を計測することで地殻の歪を計測する。センサとなる光ファイバは、円筒形のステンレス製マンドレルに巻き付けられる形で固定されており、さらに、円筒の中には構造部材が存在する。これらは金属製で、周辺の堆積層より硬いため、測器の存在はセンサの変形を阻害し、本来計測されるべき値よりも小さな値が得られると予想される。
有限要素法による計算結果は、本来計測されるべき値より小さな値が計測されることを示唆した。計測値の期待される値に対する割合は、歪の種類や方向によって異なり、0.5から0.6倍程度の値であった。この係数は、近地深発地震の直達S波の振幅を近傍の海底に設置された光ファイバ歪計の観測値と比較して得られた割合と調和的であった。
近傍の地殻構造による影響の評価では、海盆地形の存在による歪場の変化を調べた。測器の投入された掘削孔は最深部が約650m、幅が約6kmの緩いV字状の堆積層中に位置する。堆積層の周辺は、相対的に硬い付加体である。そのため、海洋潮汐による均一荷重や波長の長い内部重力波が引き起こす歪は、堆積層と付加体の応答の差を反映して、増減することが予想される。この効果を評価するために、海盆地形を単純化して組み込んだモデルと、水平2層のモデルに対して、潮汐を模擬した均一な荷重と、内部重力波を模擬した波長8kmの周期的な荷重を与え、面積歪と体積歪の分布を比較した。
有限要素法による計算の結果、面積歪では特に大きな地形の影響が見られた。潮汐応答を模した均一荷重に対する応答では、面積歪の分布は、堆積層の下部のV字に沿うように大きな歪を示した。海盆周辺の海底と比較すると、海盆内は2倍以上の面積歪が生じることが示唆された。内部重力波を模した場合の応答では、地形を含めないモデルで見られていた周期的な面積歪の大小のパターンが、V字状の地形によって大きく乱されていた。直上の海底に対して、海盆内では伸縮が反転し振幅が約2倍になる場合もあった。海盆が存在するモデルの計算結果を間隙水圧計や孔内光ファイバ歪計の観測値と比較した。潮汐応答について、体積歪と間隙水圧計の比較では先行研究と調和的な値が推定され、面積歪と孔内光ファイバ歪計の比較では、約3倍観測値の方が大きかった。内部重力波の応答では、体積歪の比較では先行研究と調和的な値が推定されたが、面積歪の比較では、観測値が推定値より約50倍大きかった。今回見られた差は有限要素法の計算条件やモデルの単純さに起因するものと考えられる。特に内部重力波の応答で大きな差が見られた理由の一つには波長依存性があると考えており、今後検討を行っていく予定である。
高品質な観測をさらに広い範囲に展開するために、新たな長期孔内観測システムが開発され、昨年より展開が開始された。新たな長期孔内観測システムでは、実績のある間隙水圧計を継続して採用した一方、地殻変動・地震観測用のセンサには新たに開発した孔内光ファイバ歪計を採用した(荒木・他, 2024, JpGU; 町田・他, 2024, JpGU)。最初の観測点は、2023年11月に地球深部探査船「ちきゅう」によって紀伊水道沖の深さ約500mの掘削孔内に投入され、2024年1月より連続観測が開始された。
本研究では、新たに採用された孔内光ファイバ歪計の機器特性や近傍の地殻構造が観測振幅に与える影響を有限要素法で推定し、観測値と比較して考察した。機器特性については、孔内計測特有の、歪計のセンサ部と掘削孔周辺の媒質の相互作用の影響度を見積もった。近傍の地殻構造については、観測点を設置した場所が、海盆状の地形に位置することに注目し、その形状が観測値に与える影響を見積もった。なお、有限要素法の計算には、COMSOL Multiphysics 6.1を利用した。
機器特性の推定では、周辺媒質のみのモデルと掘削孔や測器を組み込んだモデルの歪場を比較することで、測器の感度を推定した。孔内光ファイバ歪計は、コイル状の光ファイバケーブルの伸縮を計測することで地殻の歪を計測する。センサとなる光ファイバは、円筒形のステンレス製マンドレルに巻き付けられる形で固定されており、さらに、円筒の中には構造部材が存在する。これらは金属製で、周辺の堆積層より硬いため、測器の存在はセンサの変形を阻害し、本来計測されるべき値よりも小さな値が得られると予想される。
有限要素法による計算結果は、本来計測されるべき値より小さな値が計測されることを示唆した。計測値の期待される値に対する割合は、歪の種類や方向によって異なり、0.5から0.6倍程度の値であった。この係数は、近地深発地震の直達S波の振幅を近傍の海底に設置された光ファイバ歪計の観測値と比較して得られた割合と調和的であった。
近傍の地殻構造による影響の評価では、海盆地形の存在による歪場の変化を調べた。測器の投入された掘削孔は最深部が約650m、幅が約6kmの緩いV字状の堆積層中に位置する。堆積層の周辺は、相対的に硬い付加体である。そのため、海洋潮汐による均一荷重や波長の長い内部重力波が引き起こす歪は、堆積層と付加体の応答の差を反映して、増減することが予想される。この効果を評価するために、海盆地形を単純化して組み込んだモデルと、水平2層のモデルに対して、潮汐を模擬した均一な荷重と、内部重力波を模擬した波長8kmの周期的な荷重を与え、面積歪と体積歪の分布を比較した。
有限要素法による計算の結果、面積歪では特に大きな地形の影響が見られた。潮汐応答を模した均一荷重に対する応答では、面積歪の分布は、堆積層の下部のV字に沿うように大きな歪を示した。海盆周辺の海底と比較すると、海盆内は2倍以上の面積歪が生じることが示唆された。内部重力波を模した場合の応答では、地形を含めないモデルで見られていた周期的な面積歪の大小のパターンが、V字状の地形によって大きく乱されていた。直上の海底に対して、海盆内では伸縮が反転し振幅が約2倍になる場合もあった。海盆が存在するモデルの計算結果を間隙水圧計や孔内光ファイバ歪計の観測値と比較した。潮汐応答について、体積歪と間隙水圧計の比較では先行研究と調和的な値が推定され、面積歪と孔内光ファイバ歪計の比較では、約3倍観測値の方が大きかった。内部重力波の応答では、体積歪の比較では先行研究と調和的な値が推定されたが、面積歪の比較では、観測値が推定値より約50倍大きかった。今回見られた差は有限要素法の計算条件やモデルの単純さに起因するものと考えられる。特に内部重力波の応答で大きな差が見られた理由の一つには波長依存性があると考えており、今後検討を行っていく予定である。