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[S07-02] 中部日本下太平洋プレート直上の含水層
玄武岩質の海洋地殻に取り込まれた水は、海洋プレートの沈み込みによって地球内部へと供給される。その後玄武岩質地殻は相転移に伴い脱水し多量の水を排出する。この時、マントルウェッジの一部がこの水を取り込み、スラブ直上に含水鉱物(蛇紋岩)層を形成することがモデル計算から示されている(Iwamori, 1998; Iwamori, 2000)。特に東北地方ではレシーバー関数解析によりマントルウェッジの含水鉱物層の底部と考えられる速度境界面が明瞭にイメージされている(Kawakatsu and Watada, 2007)。一方で東北地方は太平洋沿岸から日本海沿岸までのスラブ沈み込み方向に沿った陸域が狭く、ほとんどの観測点が陸上に設置されていることから日本海の下に位置する深さ150 km以深のスラブ直上の含水鉱物層の広がりは未だ直接イメージされておらず、よくわかっていない。そこで本研究では、スラブ直上マントルウェッジの含水層の広がりを直接イメージするため、スラブ沈み込み方向に沿って充実した観測網を有し、深部構造のイメージングにより適していると考えられる中部日本を対象にレシーバー関数イメージングを行った。2005年4月から2023年3月までに発生した地震のうち、マグニチュード5.5以上で震央距離が30-90°の範囲にあるものの波形を使用した。機器補正(Maeda et al., 2011)を行った後、SN比の良い波形について0.1-0.5 Hzの範囲についてウォーターレベル法(water level =0.001)を用いてレシーバー関数を計算し、得られたレシーバー関数をIASP91一次元速度モデル(Kennett and Engdahl, 1991)を用いて断面上に投影した。この時太平洋プレートの形状(Nakajima et al., 2009)を仮定し、傾斜を考慮した波線追跡(Kawakatsu and Yoshioka, 2011)を行った後、傾斜した構造解析に特化した新しい振幅補正手法とスタッキング手法を提案し適用する。解析の結果、中部日本下の広範囲において、沈み込む太平洋プレート直上に深さ約150 kmから410kmまで連続な正の振幅がイメージされた。この正振幅は含水層底部の速度不連続を表していると解釈できる。この結果は中部日本においてもスラブ直上に含水層が発達し、マントルウェッジが深部流体輸送の一端を担っていることを示すとともに、流体がマントル遷移層まで持ち込まれることを示唆している。また、含水層が蛇紋岩の安定領域を越える深さまで連続であることから、深部の含水層はphase Aに相転移している可能性がある。phase A層の存在は中部日本下で太平洋プレートが低温状態を維持しているというシミュレーションの結果(Iwamori, 2000)とも整合的であり、phase A層の存在領域から逆に太平洋プレートの温度分布を推定できる可能性がある。