日本地震学会2024年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S07. 地球及び惑星の内部構造と物性

[S07] PM-1

2024年10月23日(水) 13:30 〜 15:00 D会場 (2階中会議室201)

座長:森重 学(東京大学地震研究所)、大滝 壽樹(産業技術総合研究所)

14:00 〜 14:15

[S07-03] 方位依存レシーバ関数とマルチモード表面波のベイズ推定による上部マントル不連続面マッピング:豪州大陸への応用

*垂水 洸太郎1、吉澤 和範1,2 (1. 北海道大学理学院自然史科学専攻、2. 北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

豪州大陸は,北方に約7cm/yearで移動している現在最も速く動く大陸プレートである.西部から中央部までは太古代から原生代に形成された安定大陸塊(クラトン)によって構成され(西豪州・北豪州・南豪州の3つのクラトンからなる),中央部には約13億年前のクラトン同士の衝突による変動帯(縫合帯)が存在する.一方,大陸東縁部は顕生代初期の沈み込みに伴う比較的若い造山帯からなる.長期の地球史を反映した様々なテクトニクスの影響を受けてきた豪州大陸下の地震波速度構造や不連続面分布を明らかにすることは,大陸リソスフェア構造の更なる理解に加え,地球の進化史や現在のマントルダイナミクスとの関係を知る上で重要な手掛かりを与え得る.

上部マントルの速度構造を境界面と同時に推定するためには,速度不連続面に感度を有する遠地実体波のレシーバ関数(RF)と3次元地震波速度の空間分布の推定に有効な表面波位相速度の分散曲線(SWD)を同時に用いたベイズ推定が有効であり,近年その応用が進められている(e.g., Calo et al., 2016, EPSL; Taira & Yoshizawa, 2020, GJI; Gama et al., 2021, EPSL).これら従来の大陸域のRF研究では,観測点周辺での水平成層構造が仮定され,遠地実体波の入射方位に応じたPs変換点の位置変化等は通常考慮されない.しかし,クラトン領域の縁辺部では,地震波速度が水平方向に急激に変化することが多く,RFも顕著な方位依存性を示す.そのため,P波入射方位の依存性を考慮したP-RFとマルチモード表面波を同時インバージョンすることで,観測点周辺のローカルな境界面深度の空間変化の検出が期待される.本研究では,方位依存RFとマルチモードSWDのベイズ推定に基づく同時インバージョン法を,豪州大陸の約30箇所の定常広帯域観測点に適用し,豪州大陸下のリソスフェア・アセノスフェア境界(LAB)と,さらにその下に存在するLehmann面(L-D,アセノスフェア底と考えられる)の広域な空間分布を推定した.

本研究で得られたLAB分布では,豪州東部では浅く(60–90 km),大陸中央部に向かって急激に深くなり,クラトン部と縫合帯との境界部分では平らで深い位置に分布する(120–170km).この特徴は,S波のRF(S-RF)や表面波トモグラフィによる先行研究(Fishwick et al., 2008, Tectonics; Yoshizawa, 2014, PEPI; Birkey et al., 2021, JGR)と調和的である.また,豪州中央部(北豪州クラトンの南部付近)では,アセノスフェアを特徴づけるS波速度の低下が不明瞭となる一方で,水平流動を反映する鉛直異方性(Vsh>Vsv)が強くなる特徴が見られる.S波速度が浅部から深部に向かって高速化するL-Dは,単一の境界面ではなく,複数の境界面として検出された.豪州全体で主に200–250kmと300km付近の2つの深さで見られるが,南豪州クラトンと大陸東縁部では150km付近にも高速度ジャンプが観測される.また,その各深さにおいて,鉛直異方性が段階的に弱くなる.L-Dを境に物性的に転移クリープ(鉛直異方性Vsh>Vsvを伴う)から拡散クリープ(Vsh~Vsv)へと変化を示すことが知られており(Karato, 1992, GRL; Gaherty & Jordan, 1995, Science),大陸の高速移動に伴うリソスフェア下部の顕著な変形領域が,底部に向かって弱まることが示唆される.一方,260km付近に見られる速度不連続面は,上部マントル内での輝石の相転移を反映している可能性も考えられる(e.g., Akashi et al., 2009, JGR).