11:00 〜 11:15
[S08-15] 豊後水道〜日向灘のフィリピン海プレート上面における摩擦特性の空間分布:小地震の応力降下量による推定
1. はじめに
豊後水道から日向灘にかけての九州東方沖では、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う地震が繰り返し発生している。2024年8月8日にも日向灘でMj7.1の地震が発生した(Mj:気象庁マグニチュード、本地震を以後、2024年日向灘地震と表記する)。本研究では、2003年6月から2022年12月に九州東方沖で発生した小地震のうち、2.で説明するとおり、フィリピン海プレート上面のプレート境界面における摩擦特性を反映していると考えられる142地震(4.0 <= Mj <= 5.0)を選び出し、応力降下量の解析を行った。
2. 解析地震の選択基準
本研究では深さ方向の震源決定精度を考慮して、Baba et al. (2002), Hirose et al. (2008), Nakajima and Hasegawa (2007) の推定したフィリピン海プレート上面から±15 km の深さで発生した小地震(4.0 <= Mj <= 5.0)を選択した。結果として、142地震について解析することができた。
解析対象地震の規模の下限と上限は、以下の理由から設定した。マグニチュードが3.5を下回る地震では、特に低周波数帯の信号-ノイズ比が悪かった。そこで、経験的グリーン関数(EGF)として用いる地震をMj3.5とし、コーナー周波数の決定精度を確保するため、解析対象地震はEGFと0.5以上のマグニチュードの開きをもつ地震(Mj >= 4.0)とした。また、応力降下量は各地震の断層面の大きさに応じた平均的値として求められるため、解析対象地震の断層面が大きすぎると、空間不均質性の議論に不適である。よって、解析対象地震の規模の上限はMj5.0(断層面の長さは約数km)とした。
本研究では、MjがモーメントマグニチュードMwに等しいと仮定しているが、この仮定の妥当性についても検討済みである。また、解析対象地震のうち、防災科学技術研究所によってメカニズム解が求められている地震については、フィリピン海プレートの沈み込みと調和的な節面を持つことを確認済みである。
3. 応力降下量解析
Yamada et al. (2021) の手法を用いて、応力降下量の解析を行った。まず、2003年から2022年に発生したMj3.5の地震のうち、解析対象の小地震(4.0 <= Mj <= 5.0)の震源から最短距離にある地震の観測波形をEGFとした。次に、解析対象の地震の観測波形スペクトルをEGFのスペクトルで割り(デコンボリューション)、震源スペクトルがオメガ2乗モデルに従うとの仮定のもと、解析対象地震のコーナー周波数を求めた。最後に、断層面が円形であり、かつ破壊伝播速度がS波速度の90%であると仮定して、Madariaga (1976) のモデルを用いてコーナー周波数から応力降下量を計算した。
4. 結果および考察
小地震の応力降下量の解析結果から、プレート境界の摩擦特性、特に剪断強度の空間不均質分布を推定することができる(Yamada et al., 2021)。各地震の応力降下量の解析結果をもとに、緯度・経度それぞれ0.1度ごとに平滑化した応力降下量分布を図1.に示す。
領域Aは豊後水道下のスロースリップ発生域に相当する。特筆すべき特徴は見られないが、北側に応力降下量が大きい領域が存在することから、この北側隣接領域の剪断強度が高いことが示唆される。また、1996年日向灘地震(Mj6.9とMj6.7が1.5ヶ月隔てて発生)の震源域(図1の領域B:Yagi et al., 1999)の南隣に、応力降下量が大きい領域が見られる。すなわち、この領域では剪断強度が高く、1996年日向灘地震の際にバリアとして働いたのかもしれない。2024年日向灘地震の震源はこの領域Bの南端部に相当する。宮崎県北部よりも鹿児島県の方が大きめの震度を記録したことを考慮すると、2024年日向灘地震は星印で始まった破壊が南側へ進展し、図1の領域B南側の応力降下量が大きい(剪断強度が高い)領域を破壊し、Mj7.1の地震となった可能性も考えられるが、今後の精査が必要である。なお、この応力降下量が大きい領域の東隣領域(図1の領域C)では、浅部スロー地震・スロースリップが発生していることが報告されている(Yamashita et al., 2015; 2021)。
北海道南東沖(Yamada et al., 2017)や東北地方東方沖(Yamada et al., 2021)の太平洋プレートの沈み込みに伴う小地震の解析結果と比べると、本研究で解析した豊後水道〜日向灘の領域では、全体的に応力降下量が小さい。これは、九州東方沖のフィリピン海プレート上面の剪断強度が相対的に低いことを示唆していると考えられる。
謝辞:
本研究では、Hi-net(防災科学技術研究所)、気象庁、鹿児島大学、九州大学、高知大学の観測点の地震波形データと、気象庁の一元化震源およびP, S検測値を使用しました。記して感謝いたします。
参考文献:
- Baba et al. (2002), PEPI, https://doi.org/10.1016/S0031-9201(02)00044-4
- Hirose et al. (2008), JGR, https://doi.org/10.1029/2007JB005274- Madariaga (1976), BSSA, 66 (3): 639–666
- Nakajima and Hasegawa (2007), JGR, https://doi.org/10.1029/2006JB004770
- Yagi et al. (1999), GRL, https://doi.org/10.1029/1999GL005340
- Yamada et al. (2017), PEPS, https://doi.org/10.1186/s40645-017-0152-7
- Yamada et al. (2021), EPS, https://doi.org/10.1186/s40623-020-01326-8
- Yamashita et al. (2015), Science, https://doi.org/10.1126/science.aaa4242
- Yamashita et al. (2021), EPS, https://doi.org/10.1186/s40623-021-01533-x
豊後水道から日向灘にかけての九州東方沖では、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う地震が繰り返し発生している。2024年8月8日にも日向灘でMj7.1の地震が発生した(Mj:気象庁マグニチュード、本地震を以後、2024年日向灘地震と表記する)。本研究では、2003年6月から2022年12月に九州東方沖で発生した小地震のうち、2.で説明するとおり、フィリピン海プレート上面のプレート境界面における摩擦特性を反映していると考えられる142地震(4.0 <= Mj <= 5.0)を選び出し、応力降下量の解析を行った。
2. 解析地震の選択基準
本研究では深さ方向の震源決定精度を考慮して、Baba et al. (2002), Hirose et al. (2008), Nakajima and Hasegawa (2007) の推定したフィリピン海プレート上面から±15 km の深さで発生した小地震(4.0 <= Mj <= 5.0)を選択した。結果として、142地震について解析することができた。
解析対象地震の規模の下限と上限は、以下の理由から設定した。マグニチュードが3.5を下回る地震では、特に低周波数帯の信号-ノイズ比が悪かった。そこで、経験的グリーン関数(EGF)として用いる地震をMj3.5とし、コーナー周波数の決定精度を確保するため、解析対象地震はEGFと0.5以上のマグニチュードの開きをもつ地震(Mj >= 4.0)とした。また、応力降下量は各地震の断層面の大きさに応じた平均的値として求められるため、解析対象地震の断層面が大きすぎると、空間不均質性の議論に不適である。よって、解析対象地震の規模の上限はMj5.0(断層面の長さは約数km)とした。
本研究では、MjがモーメントマグニチュードMwに等しいと仮定しているが、この仮定の妥当性についても検討済みである。また、解析対象地震のうち、防災科学技術研究所によってメカニズム解が求められている地震については、フィリピン海プレートの沈み込みと調和的な節面を持つことを確認済みである。
3. 応力降下量解析
Yamada et al. (2021) の手法を用いて、応力降下量の解析を行った。まず、2003年から2022年に発生したMj3.5の地震のうち、解析対象の小地震(4.0 <= Mj <= 5.0)の震源から最短距離にある地震の観測波形をEGFとした。次に、解析対象の地震の観測波形スペクトルをEGFのスペクトルで割り(デコンボリューション)、震源スペクトルがオメガ2乗モデルに従うとの仮定のもと、解析対象地震のコーナー周波数を求めた。最後に、断層面が円形であり、かつ破壊伝播速度がS波速度の90%であると仮定して、Madariaga (1976) のモデルを用いてコーナー周波数から応力降下量を計算した。
4. 結果および考察
小地震の応力降下量の解析結果から、プレート境界の摩擦特性、特に剪断強度の空間不均質分布を推定することができる(Yamada et al., 2021)。各地震の応力降下量の解析結果をもとに、緯度・経度それぞれ0.1度ごとに平滑化した応力降下量分布を図1.に示す。
領域Aは豊後水道下のスロースリップ発生域に相当する。特筆すべき特徴は見られないが、北側に応力降下量が大きい領域が存在することから、この北側隣接領域の剪断強度が高いことが示唆される。また、1996年日向灘地震(Mj6.9とMj6.7が1.5ヶ月隔てて発生)の震源域(図1の領域B:Yagi et al., 1999)の南隣に、応力降下量が大きい領域が見られる。すなわち、この領域では剪断強度が高く、1996年日向灘地震の際にバリアとして働いたのかもしれない。2024年日向灘地震の震源はこの領域Bの南端部に相当する。宮崎県北部よりも鹿児島県の方が大きめの震度を記録したことを考慮すると、2024年日向灘地震は星印で始まった破壊が南側へ進展し、図1の領域B南側の応力降下量が大きい(剪断強度が高い)領域を破壊し、Mj7.1の地震となった可能性も考えられるが、今後の精査が必要である。なお、この応力降下量が大きい領域の東隣領域(図1の領域C)では、浅部スロー地震・スロースリップが発生していることが報告されている(Yamashita et al., 2015; 2021)。
北海道南東沖(Yamada et al., 2017)や東北地方東方沖(Yamada et al., 2021)の太平洋プレートの沈み込みに伴う小地震の解析結果と比べると、本研究で解析した豊後水道〜日向灘の領域では、全体的に応力降下量が小さい。これは、九州東方沖のフィリピン海プレート上面の剪断強度が相対的に低いことを示唆していると考えられる。
謝辞:
本研究では、Hi-net(防災科学技術研究所)、気象庁、鹿児島大学、九州大学、高知大学の観測点の地震波形データと、気象庁の一元化震源およびP, S検測値を使用しました。記して感謝いたします。
参考文献:
- Baba et al. (2002), PEPI, https://doi.org/10.1016/S0031-9201(02)00044-4
- Hirose et al. (2008), JGR, https://doi.org/10.1029/2007JB005274- Madariaga (1976), BSSA, 66 (3): 639–666
- Nakajima and Hasegawa (2007), JGR, https://doi.org/10.1029/2006JB004770
- Yagi et al. (1999), GRL, https://doi.org/10.1029/1999GL005340
- Yamada et al. (2017), PEPS, https://doi.org/10.1186/s40645-017-0152-7
- Yamada et al. (2021), EPS, https://doi.org/10.1186/s40623-020-01326-8
- Yamashita et al. (2015), Science, https://doi.org/10.1126/science.aaa4242
- Yamashita et al. (2021), EPS, https://doi.org/10.1186/s40623-021-01533-x