The 2024 SSJ Fall Meeting

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Poster session (Oct. 21st)

Regular session » S09. Statistical seismology and underlying physical processes

[S09P] PM-P

Mon. Oct 21, 2024 5:15 PM - 6:45 PM Room P (Main Hall (2F))

[S09P-08] Estimation of stress field in the northeast Noto Peninsula: Influence of fluid on earthquake occurrence

*Sayaka Takano1, Yoshihiro Hiramatsu1, Yohei Yukutake2 (1. Kanazawa University, 2. Earthquake Research Institute, The University of Tokyo)

はじめに
 石川県能登半島北東部では2018年6月頃から地震が増え始め、2020年12月から地震活動が活発化した。震源域は4つのクラスターを形成し、南、西、北、東クラスターの順番で活発化が起きた。2023年5月5日にはMj6.5の地震が東クラスターで発生した。この群発地震の震源メカニズム解は、西・北・東クラスターでは、北西-南東方向に主圧力軸を持つ逆断層型の震源メカニズム解が卓越し、能登半島北東部の広域応力場に調和的であった。一方、南クラスターでは横ずれ断層型や正断層型の震源メカニズム解が多く確認された(髙野・他, 2023, 地震学会)。本研究ではこれらの震源メカニズム解から推定された地震発生領域の応力場と各地震の震源メカニズム解から、Slip tendencyとミスフィット角を計算し、地震発生における流体の影響を議論する。

データおよび手法
 気象庁の一元化震源データと験測値データ、定常観測点の地震波形データ(気象庁、防災科学技術研究所、東京大学、京都大学)を使用した。震源データは、2018年から2024年2月に発生した地震にDD法(Waldhauser and Ellsworth, 2000)を適用し再決定されたものである(Nishimura et al., 2023)。本研究では、気象庁一元化震源データにおいて2018年1月~2023年3月までに能登半島北東部で発生したMj2.8以上の地震解析対象とした。但し、各クラスターの活動初期のみMj2~3の地震も解析対象に含めた。WINシステム(卜部・束田, 1992)を使用してP波とS波の到達時間、P波の初動極性を再験測し、P波とS波の振幅値データを同時に使って震源メカニズム解を推定した(Ide et al.,2003; Imanishi et al., 2006; Yukutake et al., 2010)。本研究では、Kagan角(Kagan, 1991)の誤差が20度以下の震源メカニズム解のみを以下の解析に使用した。各クラスターの震源域の応力場の推定には、STRESSINVERSEコード(Vavryčuk, 2014)を使用した。Vavryčuk(2014)では震源メカニズム解の2つの節面のInstability(節面の不安定性)を計算し、Instabilityが高い値の節面を地震時の断層面と仮定し、応力テンソルインバージョンを行う。推定された応力場を用いて、震源メカニズム解のミスフィット角とSlip tendency(Yukutake et al., 2015)を計算した。

結果と考察
 西・北・東クラスターの応力場は、北西―南東の水平方向の最大主応力、鉛直方向の最小主応力であり、能登半島北東部の広域応力場(Terakawa and Matsu’ura, 2010)と調和的であった。この応力場で計算されたミスフィット角は小さく、Slip tendencyは大きい。また震源分布から、この3つのクラスターには広域応力場に調和的な主に南東傾斜の断層面の存在が示される(e.g., Amezawa et al., 2023; Yoshida et al., 2023)。Instabilityが高い節面(差が0.1以上)は、Slip tendencyの高い節面(差が0.1以上)やmisfit角の小さな節面(差が20度以下)と同様、特に北クラスターにおいて南東傾斜した断層面と一致する。これらから、西・北・東クラスターの地震は、広域応力場と調和的な応力場の下で、広域応力場に対して動きやすい向きである主に南東傾斜の断層に、流体が侵入したことで発生したと考えられる。また3Dモール円(Terakawa et al., 2010, 2013)上では、破壊基準線とモール円の接点付近に集中的にこれらの地震が分布することから、断層面に働く間隙流体圧は相対的に小さいと考えられる。南クラスターの応力場は他の3つのクラスターとは異なる向きであった。特に、南クラスターの深部(震源が15㎞以深)では、鉛直方向に近い最大主応力、北東―南西の水平方向の最小主応力であり、局所的な応力場であることが確認できた。他のクラスターと比べて、この局所的な応力場から計算されるミスフィット角は大きく、Slip tendencyは小さい。したがって、南クラスター深部では、高い間隙流体圧により局所的な応力場に適さない向きの断層面上でも地震が発生したと考えられる。南クラスター深部での他のクラスターとは異なる結果は、地殻変動源による応力変化や高間隙圧の流体の影響が大きいと考えられる。なお、上記の結果はInstabilityもしくはSlip tendencyの大きな節面、またはミスフィット角の小さな節面のいずれを断層面として選択しても成り立つ。南クラスターの深部の地震では、地震活動が活発化した2020年末に大きかったミスフィット角がその後小さくなる傾向や、東クラスターにおいて、Slip tendencyの小さな地震が2021年に比べて2022年に増える傾向があるようにも見えるが、単なるデータのばらつきである可能性が高い。

謝辞
 本研究では、気象庁の一元化震源データ、気象庁・防災科学技術研究所Hi-net・東京大学地震研究所・京都大学防災研究所の地震波形データを使用しました。応力インバージョンは、Vavryčuk(2014)のSTRESSINVERSEコードを用いて計算しました。ここに記して感謝いたします。