9:30 AM - 9:45 AM
[S15-03] Improvement of Green's Function of the Stochastic Green Function Method -Part 1: Effects of Moho Reflection and Layered Crust Structure -
1.はじめに
現在、統計的グリーン関数法(以下、統計的G法)は短周期の強震動計算に多用されている。しかしながら、グリーン関数は一般に一様全無限体の遠方近似解であり、震源直上を除けば、その適用性には大きな限界がある(例えば、日本建築学会、2016)。一方、地盤が半無限成層と仮定できれば、波数積分法などにより高速かつ厳密な広帯域の地震動が計算可能であり、理論的グリーン関数を用いる方法(Hisada, 2008)なども提案されている。ここでは地殻の層構造やモホ面からの反射波を考慮して、統計的G法による遠方近似解と平行成層地盤の理論グリーン関数による波形の比較を行う。
2.モホ反射面および地殻層構造を考慮したグリーン関数の違いによる波形性状の比較
表1に使用する地盤モデルを示す。地殻下部とマントルの2層構造(Model 1)、および、地殻の上部・下部とマントルの3層構造(Model 2)とし、地殻境界の深さを6 km、マントル上面(モホ面)の深さは30 kmとする(損害保険料率算出機構、2009)。震源モデルはMw5.0のBooreの点震源モデルであり、10 kmの震源深さに横ずれ断層からSH波を発出する(Hisada, 2008)。S波の放射係数は等方の0.63(=√2/5)を用い、水平2成分に等分配する。位相スペクトルは、全周波数で0位相としてパルス波として波形を追跡可能とする。観測点の震央距離(X)は、0.1、50、100、200 kmの4点で波形を25Hzまで計算する。
1)モホ反射面の有無による波形の比較
表1のModel 1の地盤構造でモホ反射面の有無による波形を計算する。モホ面でS波が全反射する臨界角は59°であり、震央距離(X)は83.2kmから反射波が現れる。図1にモホ面と地表による1~3回の全反射波を示す。図2に統計的G法(遠方近似S波の振幅を2倍)、一様半無限、および、モホ面を考慮した半無限2層地盤による加速度波形の水平成分を示す。X=0.1、50 kmでは直達実体波のみ生じ、3種の波形に差異は生じないが、X=100kmではモホ面からの1回の反射波が、X=200 kmでは地表とモホ面からの1~3回の反射波が、それぞれ現れて全く異なる波形の性状を示す。
2)モホ反射面、および、地殻層構造の有無による波形の比較
表1のModel 2の地盤構造でモホ反射面の有無による波形を計算する。図3の例に示すように統計的G法において、上部地殻への鉛直入射による透過係数を用いると振幅を過大に評価する。実際には図4に示すように斜め入射により透過係数は低減する(Aki and Richards, 1984)。そこで統計的G法の波形計算では、上部地殻への斜め入射を考慮した透過係数を使用する。次に上部地殻によるSH波の1次元増幅率を乗じ、最後に入射面と地表面での震源距離の違いによる幾何減衰の振幅補正を行う(ここでは到達時間の補正は行わない)。一方、半無限成層地盤では地殻2層に加えて、モホ面の有無による2種の計算を行う。計算波形を図5に示すが、鉛直入射となるX=0.1 kmでは3種の結果は同じである。一方、X=50 kmでは直達波の振幅はほぼ同じであるが、上部地殻内での全反射波が統計的G法と1次元増幅率では再現できない。さらにX=100, 200 kmではモホ面から非常に大きな反射波が生じ、統計的G法では振幅と継続時間を過小評価することが確認できる。
3.おわりに
統計的G法による遠方近似S波と、統計的震源モデル法による半無限成層地盤の理論的グリーン関数法とを用いて、モホ反射面と地殻の層構造の有無による波形の比較を行った。統計的G法は震源直上近傍では直達入射S波や1次元増幅率などで近似できるが、遠方になるほど地殻構造やモホ面からの全反射波の影響が大きくなり、振幅と継続時間も過小評価することを確認した。発表ではSV波やランダム位相の加速度波形など、より詳細な内容を紹介する予定である。を含む、より詳細な内容を紹介する予定である。
参考文献
・Aki, K., P. Richards: Quantitative Seismology, Theory and Methods, Vol.1, 1980.
・Boore, D.M.: Stochastic simulation of high-frequency ground motions based on seismological models of the radiated spectra. BSSA, 73, pp.1865–1894, 1983.
・Hisada, Y.:Broadband strong motion simulation in layered half-space using stochastic Green’s function technique, V.12, pp.265–279, Journal of Seismology, 2008.
・日本建築学会:資料編Ⅰ 強震動予測に関するベンチマークテスト、地盤震動と強震動予測-基本を学ぶための重要項目-、2016.
・損害保険料率算出機構:1923年関東地震の震度分布の再現, 地震保険研究 19, 2009.
現在、統計的グリーン関数法(以下、統計的G法)は短周期の強震動計算に多用されている。しかしながら、グリーン関数は一般に一様全無限体の遠方近似解であり、震源直上を除けば、その適用性には大きな限界がある(例えば、日本建築学会、2016)。一方、地盤が半無限成層と仮定できれば、波数積分法などにより高速かつ厳密な広帯域の地震動が計算可能であり、理論的グリーン関数を用いる方法(Hisada, 2008)なども提案されている。ここでは地殻の層構造やモホ面からの反射波を考慮して、統計的G法による遠方近似解と平行成層地盤の理論グリーン関数による波形の比較を行う。
2.モホ反射面および地殻層構造を考慮したグリーン関数の違いによる波形性状の比較
表1に使用する地盤モデルを示す。地殻下部とマントルの2層構造(Model 1)、および、地殻の上部・下部とマントルの3層構造(Model 2)とし、地殻境界の深さを6 km、マントル上面(モホ面)の深さは30 kmとする(損害保険料率算出機構、2009)。震源モデルはMw5.0のBooreの点震源モデルであり、10 kmの震源深さに横ずれ断層からSH波を発出する(Hisada, 2008)。S波の放射係数は等方の0.63(=√2/5)を用い、水平2成分に等分配する。位相スペクトルは、全周波数で0位相としてパルス波として波形を追跡可能とする。観測点の震央距離(X)は、0.1、50、100、200 kmの4点で波形を25Hzまで計算する。
1)モホ反射面の有無による波形の比較
表1のModel 1の地盤構造でモホ反射面の有無による波形を計算する。モホ面でS波が全反射する臨界角は59°であり、震央距離(X)は83.2kmから反射波が現れる。図1にモホ面と地表による1~3回の全反射波を示す。図2に統計的G法(遠方近似S波の振幅を2倍)、一様半無限、および、モホ面を考慮した半無限2層地盤による加速度波形の水平成分を示す。X=0.1、50 kmでは直達実体波のみ生じ、3種の波形に差異は生じないが、X=100kmではモホ面からの1回の反射波が、X=200 kmでは地表とモホ面からの1~3回の反射波が、それぞれ現れて全く異なる波形の性状を示す。
2)モホ反射面、および、地殻層構造の有無による波形の比較
表1のModel 2の地盤構造でモホ反射面の有無による波形を計算する。図3の例に示すように統計的G法において、上部地殻への鉛直入射による透過係数を用いると振幅を過大に評価する。実際には図4に示すように斜め入射により透過係数は低減する(Aki and Richards, 1984)。そこで統計的G法の波形計算では、上部地殻への斜め入射を考慮した透過係数を使用する。次に上部地殻によるSH波の1次元増幅率を乗じ、最後に入射面と地表面での震源距離の違いによる幾何減衰の振幅補正を行う(ここでは到達時間の補正は行わない)。一方、半無限成層地盤では地殻2層に加えて、モホ面の有無による2種の計算を行う。計算波形を図5に示すが、鉛直入射となるX=0.1 kmでは3種の結果は同じである。一方、X=50 kmでは直達波の振幅はほぼ同じであるが、上部地殻内での全反射波が統計的G法と1次元増幅率では再現できない。さらにX=100, 200 kmではモホ面から非常に大きな反射波が生じ、統計的G法では振幅と継続時間を過小評価することが確認できる。
3.おわりに
統計的G法による遠方近似S波と、統計的震源モデル法による半無限成層地盤の理論的グリーン関数法とを用いて、モホ反射面と地殻の層構造の有無による波形の比較を行った。統計的G法は震源直上近傍では直達入射S波や1次元増幅率などで近似できるが、遠方になるほど地殻構造やモホ面からの全反射波の影響が大きくなり、振幅と継続時間も過小評価することを確認した。発表ではSV波やランダム位相の加速度波形など、より詳細な内容を紹介する予定である。を含む、より詳細な内容を紹介する予定である。
参考文献
・Aki, K., P. Richards: Quantitative Seismology, Theory and Methods, Vol.1, 1980.
・Boore, D.M.: Stochastic simulation of high-frequency ground motions based on seismological models of the radiated spectra. BSSA, 73, pp.1865–1894, 1983.
・Hisada, Y.:Broadband strong motion simulation in layered half-space using stochastic Green’s function technique, V.12, pp.265–279, Journal of Seismology, 2008.
・日本建築学会:資料編Ⅰ 強震動予測に関するベンチマークテスト、地盤震動と強震動予測-基本を学ぶための重要項目-、2016.
・損害保険料率算出機構:1923年関東地震の震度分布の再現, 地震保険研究 19, 2009.