日本地震学会2024年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S15. 強震動・地震災害

[S15P] PM-P

2024年10月22日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (2階メインホール)

[S15P-07] 青森県周辺地域における複数の定常観測網記録を用いた地震波干渉法解析(序報)

*前田 拓人1 (1. 弘前大学)

2000年以降にHi-netをはじめとした基盤的地震観測網の整備により,日本列島内陸部ではおおむね20 km 間隔の高感度地震観測網が敷かれたが,その中でも東北地方北部,とくに青森県周辺は相対的に観測点密度が疎な地域であった.ところが,稠密かつ連続な高感度地震観測網AS-netが2014年から設置され,その状況が大きく変化した.AS-net観測点は青森県東部の下北半島を中心に,西部の津軽半島ならびに北海道函館南部までの地域に36点設置されており,既存のHi-net等の記録と併合処理することにより,当該地域の浅部地殻構造の精緻化,ならびにそれに基づく強震動予測の高度化に寄与すると期待される.本報告ではその序報として,AS-netおよびHi-net観測点記録間を含む地震波相互相関に基づく地震波干渉法解析を試みた.

観測記録は岩手県北部から北海道南部のHi-net観測点およびAS-net観測点の3成分高感度連続地震波形記録を用いた.2016年の1年間の連続記録に対し,まずは1時間ごとにBensen et al. (2007)により提案されている標準的な信号処理プロセス,すなわち地震計特性の補正,振幅の平滑化による地震イベントの影響の低減化,スペクトルホワイトニング,を施した後にサンプリング周波数20 Hzでの相互相関関数を計算し,それを全観測期間について重合することで平均的な相互相関関数を得た.特に本研究では将来的なイベント解析への応用も見越して,AS-netの地震計の位相特性を逆畳み込みし,Hi-netのそれを畳み込むような作用を持つ時間領域デジタルフィルタを設計し,適用したうえで相互相関処理を行った.

ところが,特にAS-net観測記録の相互相関関数について,1秒毎および60秒毎の顕著な人為ノイズが重畳し,脈動の相互相関から期待される表面波の抽出が困難であった.これは,データロガーの機器動作に伴う平均的には1デジタルカウント以下の振幅を持つ微弱なノイズが相互相関処理により強調されたもの(Takagi et al., 2015)であることが判明した.特にAS-net観測点は地震計の振幅特性が自然周波数1 Hz以下で周波数の3乗に比例して急激に低下するため,脈動の帯域においては相対的にロガーノイズの影響をより強く受けるものと考えられる.そこで,ロガーノイズが日定常性を持つとの仮定のもと,観測地震波形記録の日差分に対する相互相関関数を計算する(Takagi et al., 2020)ことでその影響の低減化を試みた.Hi-net観測点同士,ならびにHi-netとAS-net観測点間の相互相関関数についてはこの処理によって上下動で周期3−20秒程度,水平動トランスバース成分で5−15秒程度の範囲で人為ノイズの影響は十分小さくなり,明瞭な表面波伝播が確認できた.AS-net観測点同士の相互相関関数についてはそれでもロガーノイズの影響が残るため,解析からは除外した.ただしそれでも,AS-netとHi-netの観測点間の相互相関関数が加わったことにより,観測点間を結ぶ波線がHi-netのみの解析よりも大幅に向上した.

このデータセットに基づき,まずは上下動Rayleigh波記録について,狭帯域フィルタのエンベロープ振幅に基づく群速度分布解析(FTAN; Dziwonski et al., 1969)ならびに平滑化Fourierスペクトルの零点を与える周波数に基づく位相速度解析(Ekström et al., 2009)を実施し,周波数毎の2点間群速度・位相速度の分布をJMA2001モデルならびに全国1次地下構造モデルから期待される群速度・位相速度分布と比較した.推定結果の空間はおおむね整合的であるが,特に高周波の位相速度推定においては,スペクトル推定誤差にともない推定する零点の読み取りが系統的にずれる可能性があり,今後トモグラフィ解析に進む前にSPAC法などとの解析信頼性の相互検証が必要となるであろう.

謝辞:本研究には研究開発法人防災科学技術研究所Hi-netならびに公益財団法人地震予知総合研究振興会AS-netの連続波形記録を用いた.公益財団法人地震予知総合研究振興会の笠原敬司博士と野口科子博士にはAS-netデータの利用について貴重なアドバイスを頂いた.記して謝意を表します.