[S22P-10] 震源インバージョン解析および経験的グリーン関数法を用いた2024年能登半島地震(Mw7.5)の広帯域震源モデルの構築
2024年1月1日16時10分に石川県能登地方の深さ約15kmを震源として能登半島地震(Mw 7.5)が発生した。この地震は内陸地殻内で発生した北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型であった。この地震により、輪島市や志賀町で最大震度7が観測されたほか、能登半島の広範囲で震度6弱以上の強い揺れが観測された。防災科学技術研究のISK006では2828.2Gal(三成分合成)を記録し、ISK003やISK001、ISK005でも同様に1000Gal(三成分合成)を超える強い揺れが記録されている。この地震による住家被害は全壊6,227棟、半壊20,589棟(消防庁、2024/7/30)であり、2016年熊本地震に匹敵する程の甚大な被害であった。被害地点に対する強震動の生成メカニズムの分析は広帯域地震動が再現可能な震源のモデル化において極めて重要な情報になると考えられる。本検討では、経験的グリーン関数法を用いて強震動生成域(SMGA)を推定することを試みる。ただし、SMGAはグリッドサーチや最適化手法(例えば遺伝的アルゴリズム)を用いて多数のパラメータを多数回計算して最適なパラメータが推定される。本検討では、事前に強震観測記録を用いた震源インバージョン解析によりSMGAの位置の範囲を限定して広帯域震源モデルの推定を行った。 断層面は気象庁の地震発生後1週間以内の余震の情報を参考に3個のセグメントを設定した。震源インバージョン解析にはJi et al. (2002)の非線形インバージョン手法を用いた。解析にはK-NET及びKiK-net、気象庁、F-netの計21点の強震観測記録を使用した。断層面は4km×2km の小断層に離散化させ、各小断層内の破壊伝播効果を考慮するために計21個(走向方向に7個、傾斜方向に3個)の点震源を付与した。各点震源からの地震動は、一次元構造モデルを仮定して波数積分法(Zhu and Rivera、2002)により計算を行った。その際、2023年能登半島地震(Mw 6.2)の震源過程の推定の際に調整した一次元構造モデル(Yoshida et al., 2024)を使用した。解析対象周波数は0.05~0.5Hzとした。気象庁は2024年能登半島地震に対して16時10分9.54秒(Mj 5.9)の前震と16時10分22秒(Mj 7.6)の本震による2個のイベントを決定している。本検討では16時10分22秒(Mj 7.6))の本震記録に絞って解析を実施した。すなわち、前震の影響は本検討の震源インバージョン解析には含んでいない。破壊開始点は前震の情報に固定し、波形残差が最小となるように破壊開始時刻と基準となる破壊伝播速度をグリッドサーチにより決定した。その結果、破壊開始時刻を16時10分20秒、基準となる破壊伝播速度を2.6km/sに設定したときに残差が最小となった。 震源インバージョンの結果、地震モーメントは2.51×1020Nm(Mw 7.5)、最大すべり量は輪島市の南西側深部で7.5mとなった。断層破壊は破壊開始点からバイラテラルに破壊し、南西方向への平均的な破壊伝播速度は2.6km/s程度、北東側へは1.6km/s程度となり、破壊方向によって破壊伝播速度に違いが見られた。すべり量の大きい領域は、主に輪島市の南西側、輪島市と珠洲市の中間付近、珠洲市の北東側の海域であった。Somerville et al. (1999)の規範に基づき、不均質すべり量分布からアスペリティ領域を抽出するとともに、アスペリティ領域による地震動への寄与を確認した。その結果、主要な地震動はアスペリティ領域からの寄与を大きく受けてることを確認した。一方,輪島市南西部(例えば、富来等)の地震動はモーメントレートの大きい領域からの寄与を受けていることを確認した。これらの情報を参考に、解析対象周波数を10Hzまで拡張してSMGAを推定する。SMGAの位置、サイズ、応力降下量、ライズタイムの必要パラメータを最適化手法である焼きなまし法により探索する。使用する要素地震やSMGAの最適なパラメータ、アスペリティ領域とSMGAの対応関係について学会で報告する予定である。 謝辞:本研究ではK-NET、KiK-net、F-net、気象庁の強震観測記録を使用しました。記して感謝いたします。