[S22P-11] 事前情報および事後情報から推定される2024年能登半島地震の震源断層モデルと強震動
1.はじめに
内陸活断層による強震動予測は一般的に広く検討されているが,陸域に近い海域活断層による強震動予測の検討事例は少ない.一方で,津波予測の観点からはプレート境界の地震のみならず海域の活断層についても想定が試みられてきた(例えば「日本海における大規模地震検討会(国土交通省,2014)」).特に日本海東縁においては複数のプロジェクトで断層モデルが想定されてきた.2024年能登半島地震の震源域周辺でも複数のプロジェクトにより断層モデルが事前に設定されていたが,断層モデル形状はそれぞれ異なったものであった.本発表では,既往のプロジェクトで設定された断層モデル群による強震動の予測可能性の後ろ向き予測(retrospective forecast)に加えて事後に能登半島地震で得られた情報をさらに反映することで震源断層モデルを更新し,強震動の検討を行った結果を報告する. 2.断層モデルの設定
本研究では日本海の海域活断層をモデル化している既往のプロジェクトから主に「海域における断層情報総合評価プロジェクト(以下,海域断層PJ;文部科学省開発局・海洋研究開発機構,2016)」の断層モデル群を参照し検討を行う.このプロジェクトの断層モデル群は活断層調査から得られた断層トレースを間引きしたりグルーピングすることなくすべてモデル化しており,活断層分布と近似的であるため,能登半島地震本震前の予測可能性を検討するためのベースモデルとして使用した.
先ず事後情報を用いず,海域断層PJの断層モデル群のみで,能登半島北部の断層モデルの事前想定を検討した.能登半島北部に位置する2枚の断層(Figの中のISH12,ISH13)の連動はあらかじめ想定できるが,西側および東側の断層との離隔は大きく,それ以上の連動を想定することは難しい.このモデルの規模は入倉・三宅(2001)のスケーリング則からMw7.22となり能登半島地震(Mw7.5)に対しては小さい.そのため予測される地殻変動および強震動も大幅な過小評価となる.
次にこのモデルに対して事後情報および海域活断層に関する他のプロジェクトの断層トレースを参照し,2024年能登半島地震の断層モデルを設定した.「日本海における大規模地震に関する調査検討会 海底断層ワーキンググループ報告書(海底活断層WG;2014)」の断層トレースからE159を追加することで東側への連動が可能となった.また,能登半島の西側には余震分布を参照し,南北走向の断層面を追加した.傾斜角および断層下端深度は余震分布から設定した.さらにInSAR等の観測結果から変位の大きかった場所に大すべり域を設定した.すべり角はGNSS観測による大きな西向きの変位を再現できるように試行錯誤的に設定した.このモデルは地震規模をMurotani et al, (2014)の経験式から設定し,Mw7.7である.
3.変位および地震動の計算結果
変位について,強い西向きの変位と海岸部分の大きな隆起について概ね再現できる結果となった.地震動については,ISK001(大谷),ISKH02(柳田),ISKH06(志賀)等の観測点においては比較的よく再現できているのに対して,ISK005(穴水)など,地盤増幅の影響や不整形地盤によるエッジ効果等の影響がある観測点においては大幅な過小評価となった.
東端の逆傾斜の断層(N_Noto_2A,2B)の影響についても確認を行った.これらの断層は隣接する断層(E159以西の断層)に対して異なる傾斜角を持っているが,余震はこの断層においても明瞭に確認されている.この2つの断層がどちらも動いた場合(Case1), N_Noto_2Aのみ動いた場合(Case2),どちらも動かなかった場合(Case3)の3つで佐渡島の観測点2点で比較した.その結果,Case3は過小評価となった.また,断層面積としては大きいCase1のほうがCase2よりも地震動はやや小さく観測値に近い結果となった.この結果については,NIG003(佐和田)で地盤増幅の効果が大きいと思われ,信頼性はあまり高いとは言えない.
4.まとめと課題
既往の断層モデルをもとに,能登半島地震の断層モデルの検討を行った.複数プロジェクトの断層情報および余震分布を参照することにより能登半島地震を概ね説明可能な断層モデルを設定することができた.断層情報はひとつのカタログのみでなく複数のカタログを参照し,微小地震分布や地殻構造を吟味して検討することにより事前情報のみでも本震の断層モデルをある程度想定することが可能であったと考えられる.ただし西端の南北走向に近い断層については既往の断層データからは想定することができなかった.また,今回使用した断層モデルの再検討の方法および強震動の計算方法は2016年熊本地震でも使用してきた方法であるが,海域活断層についても同様に検討できる可能性が示された.今後は海域と陸域のデータの違いや活断層の性質の違いについても確認してく必要がある.
(謝辞)海域断層PJの断層情報は防災科学技術研究所により実施されたサブテーマ3より提供を受けました.また本研究は応用地質(株)により設置された寄付研究講座研究費で実施されました.
内陸活断層による強震動予測は一般的に広く検討されているが,陸域に近い海域活断層による強震動予測の検討事例は少ない.一方で,津波予測の観点からはプレート境界の地震のみならず海域の活断層についても想定が試みられてきた(例えば「日本海における大規模地震検討会(国土交通省,2014)」).特に日本海東縁においては複数のプロジェクトで断層モデルが想定されてきた.2024年能登半島地震の震源域周辺でも複数のプロジェクトにより断層モデルが事前に設定されていたが,断層モデル形状はそれぞれ異なったものであった.本発表では,既往のプロジェクトで設定された断層モデル群による強震動の予測可能性の後ろ向き予測(retrospective forecast)に加えて事後に能登半島地震で得られた情報をさらに反映することで震源断層モデルを更新し,強震動の検討を行った結果を報告する. 2.断層モデルの設定
本研究では日本海の海域活断層をモデル化している既往のプロジェクトから主に「海域における断層情報総合評価プロジェクト(以下,海域断層PJ;文部科学省開発局・海洋研究開発機構,2016)」の断層モデル群を参照し検討を行う.このプロジェクトの断層モデル群は活断層調査から得られた断層トレースを間引きしたりグルーピングすることなくすべてモデル化しており,活断層分布と近似的であるため,能登半島地震本震前の予測可能性を検討するためのベースモデルとして使用した.
先ず事後情報を用いず,海域断層PJの断層モデル群のみで,能登半島北部の断層モデルの事前想定を検討した.能登半島北部に位置する2枚の断層(Figの中のISH12,ISH13)の連動はあらかじめ想定できるが,西側および東側の断層との離隔は大きく,それ以上の連動を想定することは難しい.このモデルの規模は入倉・三宅(2001)のスケーリング則からMw7.22となり能登半島地震(Mw7.5)に対しては小さい.そのため予測される地殻変動および強震動も大幅な過小評価となる.
次にこのモデルに対して事後情報および海域活断層に関する他のプロジェクトの断層トレースを参照し,2024年能登半島地震の断層モデルを設定した.「日本海における大規模地震に関する調査検討会 海底断層ワーキンググループ報告書(海底活断層WG;2014)」の断層トレースからE159を追加することで東側への連動が可能となった.また,能登半島の西側には余震分布を参照し,南北走向の断層面を追加した.傾斜角および断層下端深度は余震分布から設定した.さらにInSAR等の観測結果から変位の大きかった場所に大すべり域を設定した.すべり角はGNSS観測による大きな西向きの変位を再現できるように試行錯誤的に設定した.このモデルは地震規模をMurotani et al, (2014)の経験式から設定し,Mw7.7である.
3.変位および地震動の計算結果
変位について,強い西向きの変位と海岸部分の大きな隆起について概ね再現できる結果となった.地震動については,ISK001(大谷),ISKH02(柳田),ISKH06(志賀)等の観測点においては比較的よく再現できているのに対して,ISK005(穴水)など,地盤増幅の影響や不整形地盤によるエッジ効果等の影響がある観測点においては大幅な過小評価となった.
東端の逆傾斜の断層(N_Noto_2A,2B)の影響についても確認を行った.これらの断層は隣接する断層(E159以西の断層)に対して異なる傾斜角を持っているが,余震はこの断層においても明瞭に確認されている.この2つの断層がどちらも動いた場合(Case1), N_Noto_2Aのみ動いた場合(Case2),どちらも動かなかった場合(Case3)の3つで佐渡島の観測点2点で比較した.その結果,Case3は過小評価となった.また,断層面積としては大きいCase1のほうがCase2よりも地震動はやや小さく観測値に近い結果となった.この結果については,NIG003(佐和田)で地盤増幅の効果が大きいと思われ,信頼性はあまり高いとは言えない.
4.まとめと課題
既往の断層モデルをもとに,能登半島地震の断層モデルの検討を行った.複数プロジェクトの断層情報および余震分布を参照することにより能登半島地震を概ね説明可能な断層モデルを設定することができた.断層情報はひとつのカタログのみでなく複数のカタログを参照し,微小地震分布や地殻構造を吟味して検討することにより事前情報のみでも本震の断層モデルをある程度想定することが可能であったと考えられる.ただし西端の南北走向に近い断層については既往の断層データからは想定することができなかった.また,今回使用した断層モデルの再検討の方法および強震動の計算方法は2016年熊本地震でも使用してきた方法であるが,海域活断層についても同様に検討できる可能性が示された.今後は海域と陸域のデータの違いや活断層の性質の違いについても確認してく必要がある.
(謝辞)海域断層PJの断層情報は防災科学技術研究所により実施されたサブテーマ3より提供を受けました.また本研究は応用地質(株)により設置された寄付研究講座研究費で実施されました.