[S22P-14] Temporal changes in triggerability of the seismicity in the Northeastern Noto Peninsula associated with teleseismic earthquakes
地震の誘発とは、応力変化等の擾乱が場に作用することや、断層に流体が入ることによる断層強度低下といった、外部からの影響によって地震が発生する現象である。力学的側面から、ある地震に伴い誘発される別の地震の発生の過程は大きく分けて3種類に区分けすることができる。地震発生時に断層の永久変位によって生じる静的歪み変化が地震を誘発する静的誘発と、上記の静的歪み変化(地震時変形)が粘弾性緩和によってゆっくりと時間をかけて空間的に広く伝わり地震を誘発する準静的誘発、比較的大規模な地震による表面波などが応力擾乱をもたらしながら伝播することにより地震波の通過する遠地で別の地震を誘発する動的誘発(遠地誘発)である。本研究では動的誘発(遠地誘発)に着目する。動的誘発により発生する地震のことを動的誘発地震(遠地誘発地震)と呼ぶ。動的誘発のされやすさと、地震発生場との間には関係が認められる場合がある。例えば、誘発のされやすさの指標を示すtriggerability (van der Elst & Brodsky, 2010)を日本列島の地震活動に対して調査したところ、大規模な地震や火山活動、地熱地帯であるという地域性の影響が大きいことが確認され、地下の応力状態を示す可能性が示唆された(松尾・宮澤, 2024)。 本研究では、能登半島北東部における群発地震活動と地震のtriggerabilityの時間変化を調べることで、群発地震発生中の応力の状態の変化について推察することを目指す。Triggerabilityはn値として表され、誘発の原因となると考えられる遠地地震の表面波到達の前後の地震活動度λの変化比で定義される。n値が正のときは遠地地震の発生後に地震活動が活発化したことを示し、0のときは地震活動の変化が無いことを意味し、負の時は遠地地震の発生後に地震活動が静穏化したことを示す。通常λを求めるには充分な観測期間が必要だが、地震間の時間の比を用いる事で統計学的にn値を求めることができる (van der Elst&Brodsky,2010)。本研究で用いた遠地地震は、ANSSの地震カタログ記載のM6以上で深さ60km以浅の地震である。能登半島北東部の地震活動には気象庁一元化処理震源(深さ30km以浅)を用いた。1997年から2023年までの能登半島北東部におけるn値を1年ごとに求めるとその平均値は-0.0126となり、遠地地震によって一時的に1.3%程地震活動が静穏化することを意味している。また、同期間で1年ごとに求めた日本列島全体のn値の平均値は0.0093となり、遠地地震によって一時的に0.9%程地震活動が活発化することが示された。よって、1997年から2023年までの能登半島北東部は、日本列島全体と比較すると、遠地地震によって地震活動が静穏化しやすいと考えられる。ここで、2011年東北地方太平洋沖地震地震(Mw9.0)は大地震であり、規模の大きな余震が数多く発生して小地震の検出率が下がっており、遠地の大地震の誘発の影響の評価に影響を与えると考えられることと、2020年12月以降、能登半島東北部で群発地震活動の活発化が始まったことを考慮し、本研究では解析期間を2012年から2023年までとして解析期間の1年ごとのn値を求めその時間変化を調べた。2012年から2023年までの能登半島北東部におけるn値を1年ごとに求めるとその平均値は0.094となり、遠地地震によって一時的に9.4%程地震活動が活発化することを意味する結果となった。また2014年と2017年のn値はそれぞれ1.2757、0.4483、群発地震活動の活発化が始まった初期の2021年のn値は0.5092と、いずれの年も比較的大きな値を得た。一方で、群発地震活動がより活発化した2022年と2023年のn値はそれぞれ-0.0588、0.024となり、解析期間を通じた中でも地震活動の変化が比較的見られないことを示す値となった。