[S23P] PM-P

[S23P-20] 南海トラフ地震臨時情報（巨大地震注意）への地殻変動モニタリングの課題

*板場 智史¹、北川 有一¹、落 唯史¹、矢部 優¹、松本 則夫¹、木口 努¹、松澤 孝紀² (1. 産業技術総合研究所、2. 防災科学技術研究所)

2024年8月8日16時42分頃に日向灘を震源とするM7.1（気象庁速報値）の地震が発生した．この地震を受けて気象庁は，南海トラフ地震の想定震源域で大規模地震が発生する可能性が平常時に比べて相対的に高まっているとして「南海トラフ地震臨時情報（巨大地震注意）」を発表した．巨大地震注意は，今回のように監視領域内においてMw7.0以上の地震が発生したと評価した場合のほか，想定震源域内のプレート境界面において通常と異なるゆっくりすべり（以下SSE）が発生したと評価した場合にも発表される．前者は基準がはっきりとしているのに対して，後者は必ずしも基準が明確にされているわけではなく，情報の発表に際しては難しい判断を迫られる可能性があると考えられる．
産総研では，愛知県・紀伊半島・四国において歪・地下水等の観測網を展開しており，2023年以降は九州でも観測網の整備を開始した．産総研のデータに加えて，気象庁の歪観測データや防災科研Hi-netの高感度加速度計（傾斜）データを併せて南海トラフ沿いで発生する短期的SSEのモニタリングを行っている．2012年に3機関・3種類のデータを用いた統合解析を開始してから10年以上が経過し，300以上のSSEについて断層モデルの推定を行っている．これまで推定したSSEについては，10以上の観測点で変化が検出されて精度の高い断層モデルを推定出来ていると考えられるものもあれば，3点程度の観測点のみで変化が検出されたり，SSE発生期間中や直前の大雨によってノイズが大きかったりして，断層モデルの精度が低いと考えられるものもある．また，今回のように規模の大きな地震が発生すると，観測点周辺の環境変化（地下水流動の変化等）によるローカルな歪変化が観測される観測点も存在する．
通常と異なるSSEの発生を評価するためには，通常のSSE発生状況を正しく知ると共に，発生するSSEの発生場所やすべりの範囲，すべり量などを正確に把握することが不可欠である．本講演では，SSEモニタリングの現状や課題について紹介する．