日本地震学会2024年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

緊急セッション » S23. 2024年8月8日 日向灘の地震とその影響

[S23P] PM-P

2024年10月21日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (2階メインホール)

[S23P-23] 「地震準備強化」からみた2024年8月の南海トラフ地震臨時情報の効果
ー1年前のアンケート調査結果との比較ー

*林 能成1、大谷 竜2 (1. 関西大学社会安全学部、2. 産業技術総合研究所地質調査総合センター)

2019年から発表されている「南海トラフ地震臨時情報」(以下,臨時情報)は,「巨大地震注意」と「巨大地震警戒」と2種類の情報があり,推奨される防災対応が両者で大きく異なるなど複雑な情報体系を持つ.また,巨大地震注意という強いインパクトを与える言葉が用いられているが,推奨される防災行動は「日頃の備えの再確認」「普段通りの生活」などとなっていて,この情報の背景を知らない人にとってはアンバランスで理解に苦しむものとなっている.
大谷・林(2024)では,8都府県を対象としたインターネットによるアンケート調査を実施して,巨大地震警戒,巨大地震注意の2つの情報の違いがほとんど識別されていないこと,情報発表時に想定されている地震の発生確率が過去の地震履歴から想定されるものよりも著しく高いことなどを明らかにした.
臨時情報の定着と普及がいまだ不十分だと考えられる状況下で,2024年8月8日に日向灘でMw7を超える地震が発生して,同日19時15分に臨時情報(巨大地震注意)が気象庁から発表された.その後,政府や自治体からは防災対応の呼びかけがなされたが,中には推奨される行動とは異なるものも見られ,一部の地域では混乱が生じた.
巨大地震注意では,これを機会に地震準備を再確認・強化することが期待される旨の説明がこれまで政府や防災関係者からなされてきた.地震は突発的に起こることが一般的であり,日頃から十分な防災対策を進めることが必要である.それゆえ,臨時情報発表を機会として地震準備の再確認・強化が進めば,臨時情報には一定の意味があったと評価できる.そこで,我々は2023年7月に実施した調査(大谷・林, 2024)と可能な限り同じ条件でのアンケート調査を実施して,今回の臨時情報発表によって「地震準備強化」が進んだかという観点から2回の調査結果を比較した.
アンケート調査は2024年8月20日〜8月22日に実施した.対象は,東京都,静岡県,愛知県,大阪府,広島県,徳島県,高知県,宮崎県の8都府県の男女各40人の5世代(20,30,40,50,60代),合計3200人である.徳島県20代男性(16人),同女性(36人),高知県20代男性(11人),同女性(27人),宮崎県20代男性(11人),同女性(36人)に対しては,40人のサンプルが集まらなかったので,不足分を同性他世代に割り振って各県男女200人総計400人に調整した.
まず,情報の認知度について,「8月8日に気象庁から南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表されました.その時点で,あなたはこの情報についてどの程度ご存じでしたか.」という質問をした.回答は「インターネットなどで確認し,よく知っていた」「テレビ番組の解説などで,どのような情報か聞いたことがあった」「耳にしたことはあったが,具体的にどのような情報かは知らなかった」「初めて知った」「発表されたことを知らない」の5択から選択するもので,最後の「発表されたことを知らない」を選ぶとそこで調査が終了になるスクリーニングの質問となっている.
結果は認知度の高い方から27.5%,44.7%,14.7%,8.1%,4.9%となり,発表されたことを知らなかったと回答した人は5%以下にとどまった.
2023年7月の調査では「インターネットなどで確認し,よく知っている」「テレビ番組の解説などで,どのような情報か聞いたことがある」「耳にしたことはあるが,具体的にどのような情報かはわからない」「知らない」の4択で聞いており,上から15.1%,29.5%,33.8%,21.6%となっていた.両者を比較すると,認知度が大きく上昇していることが明らかになった.これは質問では「発表された時点で」となっていたが,回答時点での認識を回答した可能性もある.認知度が高まったタイミングは不明であるが,いずれにしろ臨時情報の認知度は大きく高まっていた.
次に,臨時情報発表後の防災対策の実施状況について見る.「あなたのご家庭の防災対策についておたずねします.臨時情報による呼びかけが終了した現在の時点で,以下の対策をしていますか.」という質問で,「家具や食器棚が点灯しないようにしている」「災害に備えて飲料水を準備している」など18項目の対策実施状況を調査し,2023年7月と比較した.その結果,「災害に備えて飲料水を準備している」は53.8%から64.7%,「非常用のトイレを準備している」は24.8%から32.8%になるなど,物品の購入で完結する対策は顕著な上昇が見られた.また「家具や食器棚が転倒しないようにしている」は34.1%から37.2%,「災害時の家族との連絡方法を決めている」は30.6%から35.2%,「災害ハザードマップを見て避難場所を確認している」は54.1%から56.8%になるなど,これら項目についても一定の上昇が見られた.しかし全体としての実施率は依然高くなく,推奨行動の上位に位置付けられるものとしては改善の余地があると考えられる.