[PD06] 幼児期における自分の呼称の変化
性差と地域差の検討
キーワード:自称詞, 幼児, 発達的変化
はじめに
自分の呼称(以下「自称詞」と呼ぶ)は自我の発達を表すものの一つと考えられる (西川,2003)。子どもたちは2歳過ぎから主に自分の愛称(三人称)を名乗って他者との区別を明確にし(西川,2003),3歳頃から三人称で呼ぶのをやめ一人称代名詞を用いるようになる(Wallon,1956/1983)。自称詞の獲得や変化,使い分けには性差や発達差があることが示唆されているが、全体的に自称詞に関する先行研究が少なく,先行研究の知見の一般化可能性が低い。そこで本研究は,標準語圏,東北方言圏,関西方言圏の3地域の幼児を対象に,自称詞の使用の性差や地域差,発達差を検討する。
方 法
Table 1に研究対象の人数と地域別・性別・年齢別の内訳を示す。対象幼児の保護者に質問紙を配布し,幼児が家族や友達,先生などの様々な相互作用相手に対して,自分のことをどう言っているのかの記述を求めた。言い方が複数ある場合には全て記述の上,最もよく使用するものに印をつけてもらった。
結 果
1.公的自称詞の使用 「僕」「私」など公の場により相応しいと考えられる公的自称詞を使用するか否かを集計した。Figure 1に女児,Figure 2に男児の結果を示す。地域・男女を合算し,公的自称詞を使用するか否か(2)×学年(3)のχ2検定を行った結果,人数の偏りが有意であった(χ2(2)=13.80,p<01)。さらに男女別に同様のχ2検定を行った結果,人数の偏りが男児のみ有意であった(χ2(2)=11.23,p<01)。地域差に関して,男女を合算して同様のχ2検定を行った結果,人数の偏りが東北方言圏のみ有意であった(χ2(2)=17.20,p<01)。いずれの偏りも,年少児クラスは公的自称詞を使用する人数が期待値より有意に少なく,年長児クラスは公的自称詞を使用する人数が期待値より有意に多かった。
2.自称詞の使い分け 相手によって使用する自称詞を使い分けるか否かを集計した。地域・男女を合算し,自称詞を使い分けるか(2)×学年(3)のχ2検定を行った結果,人数の偏りが有意であった(χ2(2)=11.99,p<01)。さらに男女別に同様のχ2検定を行った結果,人数の偏りが女児のみ有意であった(χ2(2)=7.27,p<05)。地域差に関して,男女を合算して同様のχ2検定を行った結果,人数の偏りが東北方言圏のみ有意であった(χ2(2)=17.20,p<01)。いずれの人数の偏りも,年少児クラスは自称詞を使い分ける人数が期待値より有意に少なく,年長児クラスは自称詞を使い分ける人数が期待値より有意に多い又は多い傾向があった。
付 記
本研究は文部科学省科学研究費補助金(研究課題番号:16K04267)の助成を受けた。また研究内容は所属機関倫理審査委員会の承認を得ている。
自分の呼称(以下「自称詞」と呼ぶ)は自我の発達を表すものの一つと考えられる (西川,2003)。子どもたちは2歳過ぎから主に自分の愛称(三人称)を名乗って他者との区別を明確にし(西川,2003),3歳頃から三人称で呼ぶのをやめ一人称代名詞を用いるようになる(Wallon,1956/1983)。自称詞の獲得や変化,使い分けには性差や発達差があることが示唆されているが、全体的に自称詞に関する先行研究が少なく,先行研究の知見の一般化可能性が低い。そこで本研究は,標準語圏,東北方言圏,関西方言圏の3地域の幼児を対象に,自称詞の使用の性差や地域差,発達差を検討する。
方 法
Table 1に研究対象の人数と地域別・性別・年齢別の内訳を示す。対象幼児の保護者に質問紙を配布し,幼児が家族や友達,先生などの様々な相互作用相手に対して,自分のことをどう言っているのかの記述を求めた。言い方が複数ある場合には全て記述の上,最もよく使用するものに印をつけてもらった。
結 果
1.公的自称詞の使用 「僕」「私」など公の場により相応しいと考えられる公的自称詞を使用するか否かを集計した。Figure 1に女児,Figure 2に男児の結果を示す。地域・男女を合算し,公的自称詞を使用するか否か(2)×学年(3)のχ2検定を行った結果,人数の偏りが有意であった(χ2(2)=13.80,p<01)。さらに男女別に同様のχ2検定を行った結果,人数の偏りが男児のみ有意であった(χ2(2)=11.23,p<01)。地域差に関して,男女を合算して同様のχ2検定を行った結果,人数の偏りが東北方言圏のみ有意であった(χ2(2)=17.20,p<01)。いずれの偏りも,年少児クラスは公的自称詞を使用する人数が期待値より有意に少なく,年長児クラスは公的自称詞を使用する人数が期待値より有意に多かった。
2.自称詞の使い分け 相手によって使用する自称詞を使い分けるか否かを集計した。地域・男女を合算し,自称詞を使い分けるか(2)×学年(3)のχ2検定を行った結果,人数の偏りが有意であった(χ2(2)=11.99,p<01)。さらに男女別に同様のχ2検定を行った結果,人数の偏りが女児のみ有意であった(χ2(2)=7.27,p<05)。地域差に関して,男女を合算して同様のχ2検定を行った結果,人数の偏りが東北方言圏のみ有意であった(χ2(2)=17.20,p<01)。いずれの人数の偏りも,年少児クラスは自称詞を使い分ける人数が期待値より有意に少なく,年長児クラスは自称詞を使い分ける人数が期待値より有意に多い又は多い傾向があった。
付 記
本研究は文部科学省科学研究費補助金(研究課題番号:16K04267)の助成を受けた。また研究内容は所属機関倫理審査委員会の承認を得ている。