日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

2018年9月16日(日) 13:30 〜 15:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE24] 校長講話における非言語及び言語行動の扱い方が児童の講話内容の理解に及ぼす影響についての検討

梶井芳明1, 田中優理奈#2 (1.東京学芸大学, 2.福井市立旭小学校)

キーワード:校長講話, 非言語及び言語行動, 児童による講話の意図に即した内容理解

問題と目的
 小学校6年間での児童の非言語及び言語行動の発達は著しく,中でも,全学年の児童を対象とした全校朝会の校長講話では,6学年の児童の実態を考慮しなければならない。校長講話においては,講話での非言語行動が,児童らの話の印象や理解度に深く結びついていることが指摘されている(元兼, 1997)。しかし,講話での非言語及び言語行動が,児童らの理解状況にどのような影響を及ぼすのかを実証的なデータに基づいて明らかにした教育心理学研究は,これまでのところ見当たらない。
 そこで,本研究では,小学校における校長講話を対象に,児童と担任教師らの講話の聞き方を比較,検討することを通して,学年に応じた講話を行うための留意点を提案することを主たる目的とする。具体的には,児童が校長講話を聞く際に,いかなる非言語及び言語行動を手がかりとするのかを,児童による,講話の意図に即した質問項目への回答と,自由記述による回答から明らかにする。その際,児童と同様の手続きにより,担任教師が校長講話をどのように聞いているのかを明らかにすることにより,学年ブロックに応じた,講話の意図に即した内容を理解する力を育む上での留意点を検討する。

方  法
調査対象者:都内公立小学校の校長と,その学校に在籍する全学年の児童572名,及び各学年の学級担任を務める教師19名であった。
調査時期:時期は,2017年9月から10月の間であった。
事前の意識調査(予備調査):校長を対象に,日頃,全校児童に対して講話を行う際に意識していることについて,内容構成,話し方,講話材料についての各観点から,自由記述による回答を求めた。
講話の観察:普段通りに行う校長講話(条件なし)を2回,非言語行動を意図的に取り入れて行う校長講話(条件あり)を2回の,計4回の観察を行った。
講話の振り返りの質問紙調査:校長,児童,担任教師それぞれに,予備調査で作成した質問項目と,自由記述による講話の振り返りを求めた。

結果と考察
 予備調査で得た回答をもとに,講話を聞く意識について,講話の内容の理解について,講話の内容理解に関わる速さの意識について,講話の内容理解に関わる言葉の理解について,講話への応答性についての観点から,講話の振り返りに関する5つの質問項目を作成した。
低学年の留意点:低学年は,‘校長先生のお話での問いかけに,答えることができた’といった「講話への応答性にについて」の回答の得点が,他の学年ブロックに比べ,有意に高いことが示された。また,自由記述からは,話し手の印象や表情などに注目する傾向が有意に高いことが示された。一方で,視覚情報が多すぎると,何に注目して良いのかわからなくなり,意図とは違うところに関心が向いてしまう可能性も示唆された。このことから,低学年の児童に対する提示物の使用に際しては,講話の意図を理解させるのに必要最低限の情報に集約したものを準備したり,提示物と関連させながら児童の理解状況を確認しつつ話をしたりすることが,講話の意図に即した内容の理解を促す有効な手立ての1つと成り得ると推察される。
中学年の留意点:中学年は,自由記述から,話し手の姿勢に注目することや,講話の意図を捉えられる一方で,関心のある話題があると,講話の意図でない内容であっても,その内容に意識が向いてしまう傾向が高いことが示された。このことから,中学年の児童に対しては,講話の内容が児童らの興味・関心の対象となり得るように,実態を踏まえて講話内容を精選し,児童自身が抱く考えを大切にするように話を構成することが,有効な手立ての1つと成り得ると推察される。
高学年の留意点:高学年は,自由記述から,話し手の目線や提示物に注目することや,話し手が示す非言語行動の理由がわかるようになること,さらには,話の内容を,自らの体験に関連させて理解しようとする傾向が高いことが示された。このことから,高学年の児童に対しては,講話の内容をきっかけに,実体験を踏まえた新たな気付きや考えをもつことができるように,児童の実態を踏まえて講話の内容を精選し,児童を取り巻く出来事と関連づけて講話を展開することが,有効な手立ての1つと考えられる。
 なお,高学年では,低学年,中学年に比べ,教員と児童の講話の読み取り方が一致する傾向が強くなったことから,低学年のうちから,前述の児童の実態を踏まえた「話すこと・聞くこと」の指導を系統的かつ継続的に行うことが,児童の講話の意図に即した内容を理解する力を育むことに加え,話す力や聞く力を育む上でも重要であるといえる。

付  記
 本研究は,第1著者の指導のもと,第2著者が,平成29年度に東京学芸大学教育学部教育心理学講座に提出した卒業論文の一部を加筆修正したものである。