日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T13.[トピック]都市地質学:自然と社会の融合領域

[3oral413-19] T13.[トピック]都市地質学:自然と社会の融合領域

2022年9月6日(火) 13:30 〜 15:30 口頭第4会場 (14号館401教室)

座長:中澤 努(産業技術総合研究所)、小島 隆宏(千葉県環境研究センター)

15:15 〜 15:30

[T13-O-19] プラネタリー・バウンダリーと社会

*石川 正弘1 (1. 横浜国立大学 大学院環境情報研究院/都市科学部)

キーワード:プラネタリー・バウンダリー、人新世

現代は都市が地球上で急激に拡大する時代であり、経済活動のグローバル化によってグローバルサウスにおける労働力と地球環境の搾取が急拡大する時代でもある。 Rockström et al. (2009)はプラネタリー・バウンダリーという概念を導入し、地球環境を9つの項目(気候変動、海洋酸性化、成層圏オゾンの破壊、窒素・リン循環、淡水利用、土地利用変化、生物多様性損失、大気エアロゾル負荷、化学物質汚染)に区分して、それぞれの臨界点の具体的な評価を行った。ミレニアム開発目標(MDGs)にロックストロームらの唱えたプラネタリー・バウンダリーの概念を取り込んだものが、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)である。人類が抱える都市・社会・環境に関する様々な問題やリスクは、グローバル・ローカルな問題でもあり、世代間格差の問題でもあり、多面的である。問題解決のためには分野の枠を超えて、都市・社会・環境などの複眼的に視点から思考することが求められている。 O’Neillほか(2018)は“A good life for all within planetary boundaries”という論文において社会的課題11項目(人生の満足度、平均余命、栄養、衛生、所得貧困、エネルギーへのアクセス、教育、ソーシャルサポート、民主的な品質、平等、雇用)と地球環境課題7項目(二酸化炭素の排出、リンによる環境負荷、窒素による環境負荷、淡水資源(水資源)、土地利用変化、エコロジカルフットプリント、マテリアルフットプリント)を国別に評価している。この評価についてはUniversity of LeedsのA Good Life For All Within Planetary Boundariesのホームページ(https://goodlife.leeds.ac.uk/)にて参照可能である。社会的課題11項目の達成数と地球環境課題7項目の違反項目をそれぞれ縦軸と横軸にプトットした結果は大変興味深い。社会的課題の解決項目が多く豊かな社会を築いている国々(米国、日本など)は地球環境課題の違反項目が多い。つまり、地球環境を過剰に搾取した国だけが、国民の人生の満足度が高く、健康的な生活を送り、栄養も十分摂取でき、衛生レベルも高く、所得が高く、電気エネルギーを簡単に利用でき、教育水準も高く、ソーシャルサポートも十分であり、民主的・平等な社会であり、雇用の機会が十分にあるような社会を構築できている。対照的に、社会的課題の解決項目が少ない国(例えば、フィリピン)は地球環境課題の違反項目が少ない(地球環境の搾取が非常に小さい)。地球環境課題の違反項目が多いにもかかわらず、社会的課題があまり解決されていない国も多く存在する(例えば、パラグアイ)。このタイプの国は地球環境の搾取で得られるはずのベネフィットが自国民に還元されておらず、他国のために地球環境を搾取していることになる。まさに、経済活動のグローバル化によってグローバルサウスにおける労働力と地球環境の搾取が行われている例であろう。持続可能性という視点から唯一希望的な国家がベトナムである。地球環境課題の違反項目が少ないにもかかわらず、国家として社会的課題の解決に積極的に取り組んでいる。社会的課題の解決項目が少ない国にとってベトナムはモデルケースとなると期待される。 人新世における人類の活動は急激に増大しており、経済活動のグローバル化に伴って、地球環境に及ぼす影響は広範囲かつ回復不可能な領域に達しいる可能性が高くなっている。地球環境のレジリエンス(回復力)の限界を超えることが危惧される。プラネタリー・バウンダリーを超えないように、つまり、人類にとっての壊滅的な環境リスクを回避しつつ、社会的課題を解決するためには、どうしたらよいであろうか?分野横断かつ文理融合の知の統合的研究を押しすすめる必要性を感じる。

引用文献
O’Neill, D.W., Fanning, A.L., Lamb, W.F. et al. A good life for all within planetary boundaries. Nat Sustain 1, 88–95 (2018). https://doi.org/10.1038/s41893-018-0021-4
Rockström, J., Steffen, W., Noone, K. et al. A safe operating space for humanity. Nature 461, 472–475 (2009). https://doi.org/10.1038/461472a