日本地質学会第130年学術大会

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セッション口頭発表

T4[トピック]中生代日本と極東アジアの古地理・テクトニクス的リンク:脱20世紀の新視点

[1oral201-07] T4[トピック]中生代日本と極東アジアの古地理・テクトニクス的リンク:脱20世紀の新視点

2023年9月17日(日) 10:00 〜 12:15 口頭第2会場 (4共21:吉田南4号館)

座長:澤木 佑介(東京大学)、磯崎 行雄(東京大学)、佐藤 友彦

10:00 〜 10:15

[T4-O-1] (エントリー)飛騨帯の変成炭酸塩岩

★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★

*原田 浩伸1、辻森 樹1 (1. 東北大学)

キーワード:飛騨帯、変成炭酸塩岩、酸素同位体、炭素同位体、流体包有物、メタン

かつて、南北中国地塊の衝突型境界 (Dabie-Sulu Orogen) におけるコース石を含む超高圧変成岩の発見後、ペルム紀〜三畳紀の大陸縁の地殻断片を主体とする飛騨帯は、その東方延長を解く鍵として着目されるようになった。東アジア地域の地質体との関連性についての関心から飛騨帯の年代学については一定の進展が見られたが(Sano et al., 2000; Harada et al., 2021a; Isozaki et al., 2023; Takehara and Horie, 2019など)、岩石学・地球化学的研究は停滞が続いた。本講演では、飛騨帯の角閃岩相からグラニュライト相変成作用を被った変成炭酸塩岩について最近の知見を紹介し、岩石圏での炭素循環の理解において変成炭酸塩岩研究の果たす役割について展望を論じたい。

一般に、変成炭酸塩岩の同位体地球化学的研究は、原岩推定だけでなく、流体–岩石相互作用の過程と流体の起源の解読、さらに脱炭酸反応(CO2を放出する変成反応)に関して定量的な議論を可能にする。最近、Harada et al. (2021b) は飛騨帯のドロマイトを含まない大理石及び石灰珪質岩について、マイクロサンプリングによる炭酸塩鉱物の炭素 (C)–酸素 (O)の微少量同位体組成分析を行い、幅広いC–O同位体組成を報告した (δ13C = −4.4 to +4.2‰ [VPDB]、δ18O = +1.6 to +20.8‰ [VSMOW])。大部分の大理石試料のδ13C値は炭酸塩堆積物の範囲内であるが、石灰珪質岩は著しく低いδ13C (−4.4 to –2.9‰)値を有し、炭酸塩鉱物と珪酸塩鉱物との間での脱炭酸反応によるδ13Cの低下を示す。ストロンチウム同位体比 (87Sr/86Sr)は炭酸塩堆積物のそれに近い値で、初生的なSr同位体比を保持している可能性が高い一方、δ18O値は炭酸塩堆積物に比べて低く、水流体や珪酸塩鉱物との同位体交換を記録する。

飛騨帯に産する変成炭酸塩岩の多くは炭酸塩鉱物として方解石を主とするが、ドロマイトと方解石の両者を含むようなドロマイト質大理石も産する。神岡産のドロマイト質大理石は方解石、ドロマイト、かんらん石(Fo~89–93)から構成され、少量のクリノヒューマイト、トレモラ閃石、金雲母を含む。方解石とドロマイトのC–O同位体組成はそれぞれ、方解石がδ13C = –3.3 to +2.8‰、δ18O = +8.6 to +17.3‰、ドロマイトがδ13C = +0.2, +0.8‰、δ18O = +17.9, +20.0‰であり、方解石のδ13Cはドロマイトよりも低い傾向にある。これはドロマイトを消費してかんらん石を形成する脱炭酸反応によるδ13C値の変化を反映していると解釈される。また、ドロマイト質大理石に含まれる変成かんらん石は多数のメタン(CH4)流体包有物を含む。流体包有物はメタンに加えてリザダイト蛇紋石やブルース石を含むことから、トラップした流体とそのホストかんらん石の間での局所的な相互作用による蛇紋石化での無機的メタン生成が妥当である。堆積岩起源の変成炭酸塩岩において、無機的メタンが流体包有物内の局所的な蛇紋石化に伴って発生した水素(H2)によるCO2の還元で生成可能なことを示す例である。同様の蛇紋石化に伴う流体包有物内部での無機的メタン生成は海洋底や造山帯のマントルかんらん岩やはんれい岩類で報告されているが(Klein et al., 2019; Zhang et al., 2021など)、飛騨帯での発見は、造山帯に広く分布する変成炭酸塩岩が地球表層付近の岩石圏における無機的メタン生成及びその貯蔵の場を提供してきた可能性を示す。

このような造山帯に産する変成炭酸塩岩を対象とした総合解析は、大陸縁における地殻流体活動の理解に寄与することが期待される。


引用文献

Harada et al., 2021a. doi: 10.1016/j.lithos.2021.106256
Harada et al., 2021b. doi: 10.1111/iar.12389
Isozaki et al., 2023. doi: 10.1111/iar.12475
Klein et al., 2019. doi: 10.1073/pnas.1907871116
Sano et al., 2000. doi: 10.2343/geochemj.34.135
Takehara and Horie, 2019. doi: 10.1111/iar.12303
Zhang et al., 2021. doi: 10.1016/j.gca.2020.12.016