日本地質学会第130年学術大会

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セッション口頭発表

T4[トピック]中生代日本と極東アジアの古地理・テクトニクス的リンク:脱20世紀の新視点

[1oral201-07] T4[トピック]中生代日本と極東アジアの古地理・テクトニクス的リンク:脱20世紀の新視点

2023年9月17日(日) 10:00 〜 12:15 口頭第2会場 (4共21:吉田南4号館)

座長:澤木 佑介(東京大学)、磯崎 行雄(東京大学)、佐藤 友彦

10:45 〜 11:15

[T4-O-4] [招待講演]花粉化石からみた日本の古生代〜中生代の植生変遷と古環境

【ハイライト講演】

*ルグラン ジュリアン1 (1. 静岡大学)

世話人よりハイライトの紹介:日本列島形成史の復元には,古生代・中生代地層の研究が不可欠だが,一般に海棲動物化石を欠く場合,堆積年代決定は難しい.一方,泥岩中の胞子・花粉化石の分析が実際には極めて有効だが,これまで研究例は極めて少なかった.気鋭の古植物学者であるルグラン博士は,いまや花粉研究における「牧野富太郎」のような存在である.彼がこれまでに日本各地から解明した成果の最新のまとめを聞く機会を逃してはならない. ※ハイライトとは

キーワード:古生代、中生代、花粉化石、花粉層序、古環境

日本の微化石生層序学的研究(有孔虫,石灰質ナノプランクトン,珪藻,放散虫)は極めて先進的で緻密であるが,それらは陸生層には適用できない.一方で,胞子・花粉は非海成層と海成層の両方に堆積し,広域な生層序学的対比に有用であるため,日本各地から花粉分析用の試料を採集し,従来の微化石生層序と対比できる花粉層序を確立する研究を進めている.今回,古生代及び中生代の陸上生態系の時空間解析に関する最新の古花粉学的研究成果を紹介したい.
植物はシルル紀までには陸上に進出し,土壌形成や光合成を通じて,動物が生存可能な陸上生態系を作り上げた.しかし,これまでの陸上化の理解は,ほぼヨーロッパのデータに基づいている.従って,その一般性は十分に検証されていない.最近,北部ベトナムでアジア最古となる後期シルル紀の陸上植物化石群集を報告でき,国内でも,南部北上帯,飛騨帯,黒瀬川帯の古花粉学・古植物学的解析を進めている.特に,東北日本に分布する南部北上帯の下部デボン系中里層からリニア植物やゾステロフイルム植物などの初期陸上植物の類縁を持つ胞子群集や植物組織が初めて得られた.分類群の世界的レンジやユーラメリカ大陸・西北部ゴンドワナ大陸の花粉層序との比較から年代を確認し,胞子組成は南中国から報告された花粉群集に最も類似することから,前期デボン紀には南部北上帯が南中国地塊に近い位置という仮説を支持する.
南部北上帯や秩父帯,四万十帯などの花粉分析でデボン紀から白亜紀まで各時代において胞子・花粉化石が得られ,花粉層序の確立を進めながら,日本列島の形成に伴う植生変遷が明らかになりつつある.特に,これまでの研究では,後期中生代には地球生命圏の様相を一変させた被子植物の急速な多様化過程の解明を目指してきた.東アジアにおいては,植物化石を含む陸成層の年代が決定されていないため,植物多様化の時間変遷が十分に解明されていない.物部川層群や銚子層群,蝦夷層群をはじめ,海成層を基軸とした古花粉学的解析を進め,日本の白亜紀における花粉・胞子化石の時空間分布を初めて解明した.その結果,125 Ma以降の気候変動に呼応して,東アジアの古植物相が緯度方向に振動した可能性が示された.さらに,日本では,典型的な初期被子植物花粉が127 Maまでに出現したことが明らかになった.この結果,東アジアにおける被子植物の出現年代の最小値を初めて定めた.