日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T2[トピック]変成岩とテクトニクス【EDI】

[2oral113-21] T2[トピック]変成岩とテクトニクス【EDI】

2023年9月18日(月) 15:00 〜 17:30 口頭第1会場 (4共11:吉田南4号館)

座長:田口 知樹(早稲田大学)、遠藤 俊祐(島根大学)

15:00 〜 15:15

[T2-O-9] 変成岩中の微破砕作用の意義

*西山 忠男1、森 康2、重野 未来2 (1. 熊本大学、2. 北九州市自然史博物館)

キーワード:微破砕組織、カタクラサイト、シュードタキライト、交代作用

近年,地震発生のメカニズムや地震断層の断層破砕岩の組織との関連において,pulverizationが注目を集めている(Putnis et al., 2017).  pulverizationとはmicrofracturingとほぼ同義で,日本語では「粉砕,粉粒化」に近い.「微破砕作用」とでも訳すべきだろうか.似た言葉にcataclasisがあるが,cataclasisは断層運動に伴う脆性破壊とそれに伴う変形の全体像を指し,破砕岩片の大きさは限定しない.従って’cataclastic pulverization’などの表現も用いられる.日本の変成岩からは,pulverizationに関する記載岩石学的研究は少ない(日本人の研究としてはSoda and Okudaira,(2018)が注目される).pulverizationを示す変成岩・深成岩は多く存在するのだろうか?またpulverizationは何を意味するのだろうか?本講演はこれらの疑問から出発している.  われわれは次の4つの変成岩からpulverizationの組織を見出した.(1)西彼杵変成岩の呼子の瀬戸断層に沿うカタクラサイト,(2)西彼杵変成岩中の超高圧シュードタキライト,(3)野母変成岩のアルビタイト化した泥質片岩,(4)肥後変成岩の縞状大理岩.(1)と(2)は断層岩であるが,(3)と(4)は一見して断層岩に見える岩石ではない. (1)の例では,呼子の瀬戸断層に隣接する泥質片岩中に幅50cm程度のカタクラサイトが発達し,ドロマイトでセメントされた基質中に黄鉄鉱の微破砕組織が発達する. (2)では蛇紋岩メランジュに含まれる炭酸塩化蛇紋岩(リストベナイト:マグネサイト+石英岩)の構造岩塊中に発達するシュードタキライト中に磁鉄鉱,ジルコン,チタン石などの微破砕組織が認められ,剪断により初期粒径の10倍以上に引き延ばされている例も見られる. (3)では泥質片岩中に発達するアルビタイト(交代岩)中に微破砕組織を示す緑簾石,ザクロ石,チタン石が緑泥石やフェンジャイトに包有されて脈状に産する.脈以外の部分の鉱物は微破砕組織を示さないという特徴がある. (4)では白色大理岩中に灰白色の縞状構造(数mm幅)を有する部分があり,その縞をなす層の中に,透輝石などの微破砕組織が観察される. これらの産状から以下のことが推論される. 変成作用の間に,断層運動による脆性破壊によって形成された岩石中の割れ目は,流体の通路となり,新たな鉱物が沈殿することによってseal(密封)される(1の例).断層運動に伴う剪断加熱により岩石の溶融が起こっているシュードタキライトの場合も,溶融に先立って剪断作用に伴う微破砕作用が存在したことが(2)の例によって示される.(3)の例では,剪断作用による割れ目の形成に伴い,流体が浸透して微破砕組織を示す鉱物を包み込むように脈が形成されることを示している.この流体は周囲の母岩と反応して,交代岩(アルビタイト)を形成している.交代作用を引き起こした流体の浸透が,剪断破砕によって支配されていることを示す点で重要である.また断層運動による脆性破壊の痕跡はsealingによって認識しがたくなることを示している点でも重要であり,pulverization textureはこのような事象が起こったことの強力な証拠となりうる.(4)の場合は,一見変成岩特有の縞状構造にしか見えない構造が,断層運動による剪断構造であることを示している. 以上のようにpulverization(微破砕組織)は,単に断層岩に特有の組織として注目される(Reches and Dewers, 2005)だけでなく,交代作用の前駆現象としての破砕作用の認識(流体通路の形成の認識),また縞状構造と剪断構造の識別などに有効な岩石組織として重要である. 文献 Putnis, A., Jamtveit, B., and Austrheim, H. (2017) Journal Petrology, 58, 1871-1898. Reches, Z. and Dewers, T. A. (2005) Earth Planetary Science Letters, 235, 361-374. Soda, Y. and Okudaira, T. (2018) Terra Nova, 30:399-405.