日本地質学会第130年学術大会

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T6[トピック]堆積地質学の最新研究【EDI】

[2oral201-10] T6[トピック]堆積地質学の最新研究【EDI】

2023年9月18日(月) 08:45 〜 12:00 口頭第2会場 (4共21:吉田南4号館)

座長:白石 史人(広島大学)、足立 奈津子(大阪公立大学)

10:30 〜 10:45

[T6-O-6] (エントリー)沖縄県久米島の礁性微生物皮殻中に見られるスフェルライトの起源

*【ECS】佐々木 佑二郎1、藤田 和彦2、富岡 尚敬3、高橋 嘉夫4、白石 史人1 (1. 広島大学、2. 琉球大学、3. 海洋研究開発機構、4. 東京大学)

キーワード:炭酸塩スフェルライト、微生物岩、ホヤ骨片

微生物岩は過去約35億年間の生命活動や地球環境を記録しているだけではなく,近年では石油資源の観点からも注目されており,一部の微生物岩は高い空隙率から良質な石油貯留岩になりうるとして重要視されている.微生物岩には,しばしばスフェルライト(球晶)が含まれており,近年発見された微生物岩を貯留岩とした巨大油田の内部にもスフェルライトが大量に発見されたが,その起源については議論が続いている.先行研究では,微生物由来の有機物(細胞外高分子など)によって炭酸塩鉱物が沈殿してスフェルライトが形成したとする微生物起源説を提唱するものも多い (e.g. Chafetz et al., 2018).しかし,それらの解釈は主に走査型電子顕微鏡 (SEM) などを用いた形態観察に基づいており,直接的な証拠を欠いている.また顕生代においては,ホヤが骨片としてスフェルライトを形成することから,微生物岩中に見られるスフェルライトの解釈には特に注意を要する.そこで本研究は,まず微生物起源のスフェルライトとホヤ骨片を見分けることを目的とし,海成微生物岩である礁性微生物皮殻 (RMC; reefal microbial crusts) と現世のウスボヤ科の骨片を用いて検討を行った.
 RMC試料は,沖縄県久米島西銘崎に打ち上げられた台風石 (強風時の高波によって剥離したサンゴ礁岩塊) から採集した.ホヤ試料もまた,久米島近海から採集した.これらの試料は,偏光顕微鏡とSEMを用いて形態観察および元素組成分析を行った.さらに,微生物起源と考えられるスフェルライトに関しては,薄片試料から集束イオンビーム (FIB) 加工によって薄膜試料を作成し,走査型透過X線顕微鏡 (STXM) および透過型電子顕微鏡 (TEM) を用いて観察・分析し,微生物のスフェルライト形成への関与について検討した.
 偏光顕微鏡観察の結果,ホヤ骨片は球状または突起を持った金平糖状の外形を呈し,針状結晶の束が集合して構成されていることが明らかになった.同様の特徴を示す粒子はRMC試料中にも散在しており,これらはホヤ骨片起源であると考えられる(タイプ①).一方,RMC直下の空隙中に見られるスフェルライトは,緻密に放射状配列した針状結晶で構成されており,隣接するスフェルライトと密接しているためにその外形は他形を示した(タイプ②).またその内部には,直径約1 μmのフィラメント状構造がしばしば認められ,中心部から放射状に配列する場合もあった.このような特徴はホヤ骨片とは明らかに異なっていることから,微生物起源を示している可能性が高い.実際にSTXM分析では,フィラメント周縁部にカルボキシ基と非晶質炭酸カルシウム (ACC) を特徴付けるスペクトルが確認され,これは微生物の細胞外高分子を介した炭酸塩沈殿を示唆している.

引用文献 Chafetz, H., Barth, J., Cook, M., Guo, X., Zhou, J. (2018) Origins of carbonate spherulites: Implications for Brazilian Aptian. Sedimentary Geology 365, 21–33.