日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T12[トピック]地球史【EDI】

[2oral301-11] T12[トピック]地球史【EDI】

2023年9月18日(月) 08:45 〜 12:00 口頭第3会場 (4共30:吉田南4号館)

座長:佐藤 峰南(九州大学)、吉丸 慧(九州大学)、冨松 由希(九州大学)

10:45 〜 11:00

[T12-O-8] Aptian期に西太平洋地域で発生した巨大津波とその波源の候補

*藤野 滋弘1、前田 晴良2 (1. 筑波大学 生命環境系、2. 九州大学 総合研究博物館)

キーワード:late Aptian、巨大津波、津波堆積物

火山噴火などと同様に,津波には高頻度で発生する比較的小規模なものもあれば,低頻度ながら非常に規模の大きなものもある.例外的に規模の大きな津波は低頻度であるがゆえに人類が経験したことがないか,または経験していたとしても記録を残していない.一方,地球表層で起きた事象の記録媒体である堆積岩には,しばしば大規模津波によってできた堆積物が残されている.
 講演者らは以前,岩手県下閉伊郡田野畑村の下部白亜系宮古層群から海底津波堆積物を報告した(Fujino et al., 2006).津波堆積物が報告された田野畑地域から現在の水平距離にして約15 km南に位置する宮古市田老でも新たに津波堆積物の露頭を発見した.この新たに発見された堆積物は,岩相層序学的に田野畑地域の津波堆積物と同層準に位置しており,高領域の流れでできた堆積構造を持ち,下位の砂岩層の偽礫を含む.層厚は1.5–5.5 mで,露頭で観察できる範囲だけでも下位の砂岩層を約4 m侵食している.Fujino et al. (2006) によってすでに報告されていた田野畑地域においても津波堆積物の層厚は2.3–9.5 mで,下位の堆積物を1.5 m以上侵食していた.
 東北地方太平洋沖地震津波など近年発生した海溝型地震津波の場合,地形的狭窄部や人工物周辺などの一部を除き海底における侵食の深さと津波堆積物の層厚はどちらも数十cmから1 m程度であった(e.g. Yoshikawa et al., 2015; 横山ほか, 2021).宮古層群の津波堆積物の層厚と侵食の程度は海溝型地震津波の事例をはるかに上回っている.一方,K/Pg境界の津波堆積物のように,天体衝突や巨大海底地滑りなどに伴って発生した地質時代の中でも例外的に大きな津波の堆積物には層厚や侵食の程度が宮古層群の津波堆積物に比較できる事例がしばしばある.また,砂岩層の偽礫の存在は,この津波が下位の地層を深く侵食したことを暗示している.下位層からもたらされた砂岩の偽礫もまたK/Pg境界の津波など地質時代の巨大津波の堆積物から見つかっている.
 層厚や侵食の程度を考えると,宮古層群で堆積物が見つかった津波は百年から数百年程度の間隔で発生する海溝型地震津波に比べてずっと規模が大きかったと考えられる.そのため津波の波源となった現象もまた地質時代の中で例外的に大きな現象であった可能性が高い.宮古層群におけるアンモナイト生層序の結果は,津波堆積物の層準から50–100m上位にAptian/Albian境界があることを示している(Obata and Matsukawa, 2018).宮古層群は主に浅海底の堆積物で構成されており,堆積速度は比較的早かったと考えられる.したがって津波堆積物の時代はlate Aptianと考えて問題ないだろう.宮古層群分布域から現在の水平距離にして約400 km北に位置する蝦夷層群中には,層厚100–500 mで数十kmにわたって分布する崕山オリストストロームがあることが知られている(e.g. Takashima et al., 2004).崕山オリストストロームに含まれる石灰岩オリストリスは陸棚上で堆積したものと考えられており,宮古層群内の“オルビトリナ砂岩”と同じ化石群を含んでいる (Sano, 1995; Takashima et al., 2007).浮遊性有孔虫生層序の結果は,崕山オリストストロームの形成がAptian/Albian境界前後であることを示している(Nishi et al., 2003; Takashima et al., 2004).山体崩壊や大規模海底地滑りによって波高が100 mを超える津波が発生した事例は複数知られている.宮古層群で見つかった津波の波源として,崕山オリストストロームの形成は現時点で最も有力な候補ということができる.

Fujino et al., 2006. Sediment. Geol., 187,127–138.
Nishi et al., 2003. Jour. Asian Earth Sci., 21, 867–886.
Obata and Matsukawa, 2018. Cretaceous.Res., 88: 227–272.
Sano, 1995. Sediment. Geol., 99, 179–189.
Takashima et al., 2004. Cretaceous Res., 25, 365–390.
Takashima et al., 2007. J. Geol. Soc., 164, 333–339.
横山ほか, 2021. 堆積学研究. 79, 47–69.
Yoshikawa et al., 2015. Geo-Mar. Lett., 35, 315–328.