日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

T12[トピック]地球史【EDI】

[2poster53-67] T12[トピック]地球史【EDI】

2023年9月18日(月) 13:30 〜 15:00 T12_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T12-P-8] (エントリー)根室層群における白亜紀―古第三紀境界のオスミウム同位体層序

★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★

*【ECS】太田 映1、黒田 潤一郎1、高嶋 礼詩2、星 博幸3、林 圭一4、鈴木 勝彦5、石川 晃6、西 弘嗣7 (1. 東京大学 大気海洋研究所、2. 東北大学学術資源研究公開センター 東北大学総合学術博物館、3. 愛知教育大学 自然科学系、4. 北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所、5. 国立研究開発法人海洋研究開発機構 海底資源センター、6. 東京工業大学理学院 地球惑星科学系、7. 福井県立大学 恐竜学研究所)

キーワード:オスミウム同位体、K-Pg境界、根室層群

約6600万年前の白亜紀―古第三紀境界(K-Pg境界)において、恐竜を含む地上の生物の75%が絶滅した。メキシコのユカタン半島に落下した小天体が、この大量絶滅をもたらした直接的な原因とされている(Alvalez et al., 1980)。さらに、K-Pg境界をまたぐおよそ100万年もの間、インドのデカン・トラップで大規模な洪水玄武岩の噴出が起こったことも知られている(Sprain et al., 2019)。このデカン火山活動が引き起こした環境変化も、K-Pg生物大量絶滅に関与していた可能性が高いと指摘されている(Schulte et al., 2010)。 近年、海水オスミウム同位体比(187Os/188Os)が、全球的な地球史イベントの研究に盛んに用いられている。隕石やマントルの187Os/188Os 比は、187Osの親核種である187Reに富む大陸地殻上部(約1.3)に比べて1桁低い値をとる(約0.13)。そのため、堆積物中の187Os/188Osの急激な低下は、隕石衝突や大規模火山活動が起こったことを示す。これは、白金族元素濃度の一時的な急上昇と合わせて、世界各地で確認できるK-Pg天体衝突の地球化学的証拠となっている。
 日本においては、北海道白糠丘陵における根室層群で、白亜紀末から古第三紀初頭の堆積物が有孔虫化石記録によって確認されているが(Saito et al., 1986)、白金族元素の濃度や同位体比について詳細な検討はなされていない。そこで本研究では、K-Pg境界が存在するとされる川流布層において調査を行った。川流布層が露出する川流布川支流の試料を用いて、K-Pg境界周辺のインターバルで白金族元素組成とOs同位体比の検討を行った。川流布川支流の沢に沿った200 mの露頭について、20ヶ所で試料採取し、K-Pg境界に近いと推察される層準では高解像度サンプリング(層厚2mの区間で計14サンプル)を行い、白金族元素の濃度とOs同位体比の測定を行った。
 その結果、K-Pg境界に近いと考えられる層準で、明瞭な187Os/188Os比の低下(0.235)を確認することができた。下位の白亜系最上部と思われる層準では、187Os/188Os 比はおよそ0.6 であり、Ravizza and Peucker-Ehrenbrink (2003)などで報告されている遠洋域堆積岩のマーストリヒチアンの値に一致する。一方、上位の古第三系最下部と思われる層準では、同位体比は0.4であり、やはり遠洋域堆積岩の暁新世の値に一致する。187Os/188Os比の最低値がみられた層準において、Os濃度の一時的な上昇(約80pg g-1から約250pg g-1)と、Ir濃度のわずかな上昇(約16pg g-1から約37pg g-1)もみられた。これらの結果から、K-Pg境界を含む層準を特定することができた。
 Ravizza and Peucker-Ehrenbrink (2003)や Robinson et al. (2009)によると、世界各地のサイトで、K-Pg境界における187Os/188Os比の2段階の低下が認められている。1段階目の低下(0.6から0.4へ)はK-Pg境界直前のC29R/C30N地磁気逆転境界(約66.3Ma)から始まっており、これはデカン火山活動が開始した時期とほぼ一致する。2段階目の低下(0.4から0.2へ)はK-Pg隕石衝突によるものとされる。しかしながら、本研究の川流布セクションおいては、デカン火山活動が既に起こっていたC29Rの層準でも187Os/188Os比はおよそ0.6の安定した値をとり、K-Pg境界と思われる層準で187Os/188Os比は突然低下している。これは、前述した先行研究のサイトと川流布層の堆積速度の違いを反映している可能性があるので、今後検証していく予定である。

【引用文献】
Alvarez, L.W. et al. (1980) Science, 208, 1095–1108. Ravizza, G., and Peucker-Ehrenbrink , B. (2003) Science, 302, 1392–1395. Robinson, N. et al. (2009) Earth Planetary Science Letters, 281, 159–168. Saito, T. et al. (1986) Nature, 323, 253–255. Schulte, P., et al. (2010) Science, 327, 1214–1218.Sprain, C. J. et al. (2019) Science, 363, 866-870.