日本地質学会第130年学術大会

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T15[トピック]地域地質・層序学:現在と展望

[2poster81-86] T15[トピック]地域地質・層序学:現在と展望

2023年9月18日(月) 13:30 〜 15:00 T15_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T15-P-4] (エントリー)福島県下部白亜系相馬中村層群最上部小山田層の堆積年代の再検討

*都丸 大河1、高嶋 礼詩2、折橋 裕二3、山中 寿朗4、安藤 寿男5、淺原 良浩6、西 弘嗣7、黒柳 あずみ2 (1. 東北大学院理学研究科地学専攻、2. 東北大学学術資源研究公開センター 東北大学総合学術博物館、3. 弘前大学大学院理工学研究科、4. 東京海洋大学海洋環境科学部門、5. 茨城大学大学院理工学研究科理学野地球環境科学領域、6. 名古屋大学院環境学研究科地球環境科学専攻、7. 福井県立大学恐竜研究所)

キーワード:相馬中村層群、下部白亜系、炭素同位体比層序、U-Pb放射年代

ーはじめにー
東北日本の下部白亜系は太平洋沿岸地域に比較的連続した層序が得られる地層があり,その一つに,福島県南相馬市に分布する相馬中村層群があげられる. 相馬中村層群は,阿武隈山地東縁部にて双葉断層に沿って南北方向に分布する上部ジュラ系~下部白亜系である.陸成層と海成層が交互に重なり,海成層からはアンモナイトや二枚貝化石など海生動物化石が多数産出することから,多くの化石層序学的研究が行われてきた.小山田層は相馬中村層群最上部を構成し,アンモナイト化石や放散虫化石から,Berriasian-Valanginian下部に対比されている. 一方で,相馬中村層群が作る背斜の西翼に露出する小山田層は,模式地の小山田周辺に露出する最上部の層準とそれより上位の層準で構成されると指摘されていたが(久保ほか,1990),これまで,その年代や堆積相などの詳細な研究が行われてこなかった.本研究では小山田層を対象に,各セクションの小山田層の岩相・堆積相層序対比を行い,炭素同位体比層序及び凝灰岩のジルコンU-Pb放射年代を加えて,小山田層全体の層序の再検討を行った.そして,小山田層とヨーロッパ模式階との間で国際層序対比を行い,その結果を踏まえた小山田層堆積年代の再検討も行った.

ー層序概説ー
小山田層は相馬中村層群最上部を構成する下部白亜系海成層である.小山田層下部は細粒~中粒砂岩を主体とし,中部は全層厚7~50mのデイサイト質凝灰岩からなる.上部は暗灰〜灰黒色シルト岩を主体とし,層厚10~30cmの珪長質細粒凝灰岩を複数枚挟む(安藤ほか,2023).また,背斜西翼の小山田層には,下半部の海成シルト岩に重なる細粒砂岩を不整合で挟んで上位に,河川成の細粒~中粒砂岩に炭質泥岩を伴うユニットが少なくとも10数mの厚さで重なることが判明した.同時期に堆積したと推定される宮城県気仙沼大島の鹿折層群長崎層や宮城県石巻市の牡鹿層群鮎川層には類似した陸成層は確認されていない.

ー炭素同位体比層序・U-Pb放射年代ー
炭素同位体比分析の結果,放散虫化石からValanginianに対比される小山田層中部において,炭素同位体比が上位に向かって緩やかに減少したのち,小山田層上部において約2‰正にシフトする変動がみられた.また,小山田層下部に挟まる凝灰岩のジルコンU-Pb放射年代は135.59±0.77 Maを示し,Geologic Time Scale 2020におけるValanginian前期に相当する.さらに,正のピークの上位に相当する小山田層上部の凝灰岩からは,133.9±1.2 Maと133.22±0.60 MaのジルコンU-Pb年代が得られ,Geologic Time Scale 2020におけるValanginian後期に対応する.これらをもとに, Hauterivian階のGSSPがあるフランス南東部Vocontian basinの炭素同位体比層序と国際対比を行った結果,炭素同位体比曲線のピーク同士を詳細に対比することができた.今回小山田層上部にて見出した炭素同位体比の顕著な正のピークは,Valanginian後期からHautervianにかけて当時の汎世界的な炭素循環に大きな影響を与えた環境イベントのWeissert Eventを記録している可能性が高い.

ー海水準変動との比較ー
炭素同位体比層序及びU-Pb放射年代から,小山田層は少なくともBerriasianからValanginian後期まで及んでいたことが判明した.Haq (2014) の海水準変動曲線ではValanginianから汎世界的に海水準が上昇しており,小山田層下部から中部にかけ堆積相変化と連動していると推定される.最上部の陸成層は年代不詳であるが,汎世界的な海水準変動と堆積相変化が連動していたと仮定すると,汎世界的に海水準が低下に転ずるBarremian以降に堆積した可能性がある.

ー引用文献ー
安藤ほか, 2023, 福島県博紀要, 37, 1-18.
Haq, 2014, Global and Planetary change, 113, 44-58.
久保ほか, 1990, 地域地質研究報告(5万分の1地質図福),原町及び大甕,155P.