[T16-P-2] 地盤情報データベースから作成した大阪平野上町台地周辺地下の表層3次元地質構造モデル
キーワード:地盤情報データベース、3次元地質構造、地下地質、海成粘土層、ラビーンメント面、地質断面図、更新世
ボーリングデータなどの地盤調査情報を集積した地盤情報データベースは,建設事業の設計・積算などに利用されるほか,ボーリングデータが高密度に得られる利点から学術研究にも用いられている.ここでは,大阪平野を中心とした地域で構築・運営されている関西圏地盤情報データベースを用いて大阪平野の上町台地周辺地域において,東西方向と南北方向に高密度に作成した断面図に現れる地質構造を解析して作成した表層3次元地質構造モデルを紹介する.
地質構造の解析に用いた断面図は関西圏地盤情報データベースの断面図作成機能を使って作成した.データベースの断面図作成用ボーリング検索画面に東西南北200m間隔のメッシュで基準線を設定し,基準線を中心とした幅200mの帯の中で東西方向が西から東に,南北方向が北から南に向かってボーリング地点を選定し,ボーリング柱状図列からなる断面図を作成した.作成した断面図は東西方向が計113枚,南北方向が計71枚で,解析した深度は標高-80mまでの地下表層部である.
断面図の構造解析には,この地域の大阪層群と中・上部更新統に繰り返し挟まれている海成粘土層(Ma)の基底面を基準面として用いた.この地域の海成粘土層はおもに内湾の泥底に堆積した地層で,その基底面は海進期に湾が広がったために発生した波の作用によって形成されたラビーンメント面である(増田, 2007).ラビーンメント面は海水準が上昇しているときに海底面が侵食(外浜侵食)されることによって沖側に形成される平坦面であり,変形していない初生のラビーンメント面は,沖-陸方向の断面では沖側に緩く傾斜した直線的な形状を呈する.この初生のラビーンメント面と構造運動によって変形した下位のラビーンメント面とを比較することによって,下位のラビーンメント面形成後の構造運動像を復元することができる(Sakurai and Masuda, 2014).
データベースのボーリング柱状図からは層準や堆積環境に関する情報は得られないので,ボーリング柱状図の海成粘土層の識別には,大阪平野の地下地質の標準層序となっているOD-1ボーリングなどの学術ボーリングの層序や既往の地質断面図を参考にした.層準決定の参考にした学術ボーリングの層序には,各海成粘土層とその間の砂・礫優勢層の厚さに堆積時の海進・海退の規模を反映した層準毎の特徴がみられる.例えば,Ma5~Ma6~Ma7の層準では,層厚は概ねMa5<Ma7<Ma6でこれら3枚の海成粘土層の間に挟まれる2枚の砂・礫優勢層が薄いという特徴がある.一方,Ma7とMa8の間とMa4とMa5の間に挟まれる砂・礫優勢層は,他の層準と比較して厚い.また,Ma9~Ma10の層準ではMa9が大阪層群の中でも特徴的に厚く,層厚は概ねMa10<Ma9で両海成粘土層間に挟まれる砂・礫優勢層が薄い.これらの層準毎の特徴からボーリング柱状図の海成粘土層の層準を特定し,対比した.
断面図の構造解析結果に基づいて作成した3次元地質構造モデルは,海成粘土層基底面のサーフェスモデルである.モデルはGISソフトを用いてボーリング地点の緯度経度と海成粘土層基底面標高からなるポイントデータを空間補間して作成した.ポイントデータ数は計2350点で,モデルを作成した層準は,Ma4~Ma10とMa12である.
モデルの作成に用いたGISソフトはArcGISで,空間補間計算には自然近傍法を使用した.一般的に地層境界面の補間計算にはクリギング法や最適化原理を用いる場合が多いとされている(3次元地質解析技術コンソーシアム, 2021).これらは配置が不均一で少ないデータ点から滑らかな曲面を計算する.しかし,これらの補間法では計算に用いるサンプルデータの範囲や曲面の滑らかさなどのパラメータを設定する必要があり,さらに曲面の傾向を予測することから地層の傾斜が側方で急変する部分で入力値を超える凸状や凹状の不自然な形状が現れてしまうことがある.一方,自然近傍法はパラメータの設定を必要とせず,データ点を通る入力値を超えない曲面で補間し,データ点域よりも外側の補間をしない.ただしデータ点が偏在し,その密度と信頼性が低い場合には,不自然な形状が現れることがある.今回は傾斜が側方で急変することが予想される未知の地質構造を復元しなければならないことと客観性と再現性を重視し,自然近傍法を採用した.
文献; 増田富士雄, 2007, 地形.28, 365 - 379.
Sakurai M. and Masuda F., 2014, Journal of Earth Science and Geotechnical Engineering, 4, 17 - 24.
3次元地質解析技術コンソーシアム, 2021, 3次元地質解析マニュアルVer. 3.0.1. 333p.
地質構造の解析に用いた断面図は関西圏地盤情報データベースの断面図作成機能を使って作成した.データベースの断面図作成用ボーリング検索画面に東西南北200m間隔のメッシュで基準線を設定し,基準線を中心とした幅200mの帯の中で東西方向が西から東に,南北方向が北から南に向かってボーリング地点を選定し,ボーリング柱状図列からなる断面図を作成した.作成した断面図は東西方向が計113枚,南北方向が計71枚で,解析した深度は標高-80mまでの地下表層部である.
断面図の構造解析には,この地域の大阪層群と中・上部更新統に繰り返し挟まれている海成粘土層(Ma)の基底面を基準面として用いた.この地域の海成粘土層はおもに内湾の泥底に堆積した地層で,その基底面は海進期に湾が広がったために発生した波の作用によって形成されたラビーンメント面である(増田, 2007).ラビーンメント面は海水準が上昇しているときに海底面が侵食(外浜侵食)されることによって沖側に形成される平坦面であり,変形していない初生のラビーンメント面は,沖-陸方向の断面では沖側に緩く傾斜した直線的な形状を呈する.この初生のラビーンメント面と構造運動によって変形した下位のラビーンメント面とを比較することによって,下位のラビーンメント面形成後の構造運動像を復元することができる(Sakurai and Masuda, 2014).
データベースのボーリング柱状図からは層準や堆積環境に関する情報は得られないので,ボーリング柱状図の海成粘土層の識別には,大阪平野の地下地質の標準層序となっているOD-1ボーリングなどの学術ボーリングの層序や既往の地質断面図を参考にした.層準決定の参考にした学術ボーリングの層序には,各海成粘土層とその間の砂・礫優勢層の厚さに堆積時の海進・海退の規模を反映した層準毎の特徴がみられる.例えば,Ma5~Ma6~Ma7の層準では,層厚は概ねMa5<Ma7<Ma6でこれら3枚の海成粘土層の間に挟まれる2枚の砂・礫優勢層が薄いという特徴がある.一方,Ma7とMa8の間とMa4とMa5の間に挟まれる砂・礫優勢層は,他の層準と比較して厚い.また,Ma9~Ma10の層準ではMa9が大阪層群の中でも特徴的に厚く,層厚は概ねMa10<Ma9で両海成粘土層間に挟まれる砂・礫優勢層が薄い.これらの層準毎の特徴からボーリング柱状図の海成粘土層の層準を特定し,対比した.
断面図の構造解析結果に基づいて作成した3次元地質構造モデルは,海成粘土層基底面のサーフェスモデルである.モデルはGISソフトを用いてボーリング地点の緯度経度と海成粘土層基底面標高からなるポイントデータを空間補間して作成した.ポイントデータ数は計2350点で,モデルを作成した層準は,Ma4~Ma10とMa12である.
モデルの作成に用いたGISソフトはArcGISで,空間補間計算には自然近傍法を使用した.一般的に地層境界面の補間計算にはクリギング法や最適化原理を用いる場合が多いとされている(3次元地質解析技術コンソーシアム, 2021).これらは配置が不均一で少ないデータ点から滑らかな曲面を計算する.しかし,これらの補間法では計算に用いるサンプルデータの範囲や曲面の滑らかさなどのパラメータを設定する必要があり,さらに曲面の傾向を予測することから地層の傾斜が側方で急変する部分で入力値を超える凸状や凹状の不自然な形状が現れてしまうことがある.一方,自然近傍法はパラメータの設定を必要とせず,データ点を通る入力値を超えない曲面で補間し,データ点域よりも外側の補間をしない.ただしデータ点が偏在し,その密度と信頼性が低い場合には,不自然な形状が現れることがある.今回は傾斜が側方で急変することが予想される未知の地質構造を復元しなければならないことと客観性と再現性を重視し,自然近傍法を採用した.
文献; 増田富士雄, 2007, 地形.28, 365 - 379.
Sakurai M. and Masuda F., 2014, Journal of Earth Science and Geotechnical Engineering, 4, 17 - 24.
3次元地質解析技術コンソーシアム, 2021, 3次元地質解析マニュアルVer. 3.0.1. 333p.