日本畜産学会第131回大会

講演情報

授賞式・受賞者講演

授賞式・受賞者講演

2023年9月19日(火) 15:00 〜 16:00 第I会場 (講堂)

[AW-06] ニワトリにおけるav-UCP遺伝子一塩基多型と体温調節との関係

*大内 義光1 (1. 岡山理大獣)

暑熱による畜産動物の生産性の低下軽減を目的として多くの研究がなされてきた。その中でも私はニワトリの耐暑性や体温調節機能に着目している。脱共役たんぱく質(UCP)はミトコンドリア内膜に存在し、酸化的リン酸化を脱共役することで熱を生成する。ニワトリおいてはav-UCPが肝臓や筋肉に存在し、非ふるえ熱産生に関与している。また、av-UCP遺伝子にアミノ酸置換を引き起こす一塩基多型(g. 1270, C>T)が存在することが知られている。しかしながらav-UCP遺伝子多型とニワトリの体温調節との関連性は不明であることから、野生型および変異型ヒナを用い調査を行った。
1. av-UCP遺伝子多型と暑熱環境下での体温調節行動との関係
 
急性暑熱暴露試験を実施すると、av-UCP遺伝子変異型においては体温調節行動である開翼姿勢の開始が遅延し、翼下表面温度の上昇が認められた。しかし、直腸温の上昇やパンティングの開始時間に両遺伝子型間での差は認められなかった。酸素消費量は変異型ヒナで低い値を示した。ニワトリにおける主たる熱の放散経路はパンティング(潜熱放散)であることから、熱の放散能力は遺伝子型によって大きく変化しないと考えられ、野生型と変異型では熱の産生能力・速度が異なるため、開翼姿勢を開始する体温の閾値に達する時間の相違が認められた。
2. av-UCP遺伝子多型と寒冷環境下での生理応答との関係
 1の研究でav-UCP遺伝子多型は暑熱下での体温調節と関連性があり、それは熱の産生能力の違いに起因するものであることが示唆されたことから、寒冷環境下における生理応答とav-UCP遺伝子変異との関係性についても調査した。その結果、寒冷環境暴露下では変異型の直腸温の低下が大きいことが示され、変異型においては末梢器官の代謝や体温を調節する中枢TRH遺伝子発現量と末梢筋肉組織におけるav-UCPや脂肪酸代謝に関するCPT1遺伝子発現量が低いことを示した。これらのことから、変異型においては主に視床下部―下垂体―甲状腺軸(HPT軸)を介した熱産生反応が小さいことが示された。
 以上より、本遺伝子変異がニワトリの外部環境温度に対する行動的・生理的適応性に大きく影響をもたらすことを明らかにした。これらの結果は体温調節のさらなる理解や耐暑性に優れたニワトリの作出につながると期待している。