日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PA

(501)

2014年11月7日(金) 10:00 〜 12:00 501 (5階)

[PA095] 中高生の社交不安に対するビデオフィードバックの介入効果の差異の検討

川越杏梨1, 蓑崎浩史2, 宇田川詩帆1, 嶋田洋徳3 (1.早稲田大学大学院, 2.駿河台大学, 3.早稲田大学)

キーワード:社交不安, ビデオフィードバック, 社会的スキル

【問題と目的】
子どもの社交不安は,おおよそ中学生頃から高まりが見られることが指摘されている(Westenberg,2005)。この時期においては,社会的スキルの遂行などの自己の行動を過小評価する(スキル遂行に対する自己評価が他者評価に比べ低い)ことやスキルの遂行に対するエフィカシーが低いこと(Cartwright-Hatton et al., 2005)などの認知面の問題が,社交不安に影響するとされている(加計他,2008)。このような自己の行動に対する過小評価やエフィカシーの低さは,自己の行動のモニタリングが阻害されることによって生じると考えられており,その変容においては,ビデオフィードバック(Video Feedback;以下,VF)が有効であることが成人を対象とした研究において示されている(e.g., Rodebaugh & Chambless, 2002)。
一方で,子どもの社交不安は,その後の発達過程のなかで自然に収まっていくことが指摘されている(笹川,2007)。この知見を踏まえると,中学生と高校生を比べた場合,中学生の方が自己の行動に対する過小評価が強いことが想定されるため,自己の行動のモニタリングを促進するとされるVFの効果が大きいことが考えられる。
しかしながら,中高生に対してVFを適用した研究は少なく,その効果の発達的な差異については十分に検討が行われていない。そこで本研究では,中学生および高校生に対して,VFを実施し,その効果の差異について検討する。
【方 法】
実験参加者:関東および東北地方の公立校に在籍する中学生および高校生(中学生24名:1年生男子5名,2年生男子4名,女子3名,3年生男子7名,女子5名,高校生18名:1年生男子2名,女子5名,2年生男子2名,女子4名,3年生男子2名,女子3名;計42名,平均年齢15.14±1.59歳)が参加した。
測度:①スキル遂行に対するモニタリングの程度:相川・佐藤(2006)の基準に基づいて社会的スキル遂行に関する項目を作成し,自己評価および他者評価の差分値を算出した。また,pre測定時における差分値の大きさによってモニタリングの程度に関する適正群,不全群に分けた。②スキル遂行に対するエフィカシー:相川・佐藤(2006)の基準に基づいて社会的スキル遂行に関する項目を作成し,エフィカシーに関する回答を求めた。③社交不安の程度:児童青年用LSAS(岡島他,2008)への回答を求めた。
手続き:金井(2008)の手続きに基づきVFを実施した。なお,本研究は「早稲田大学人を対象とする研究に関する倫理審査委員会」の承認を得て実施された。
【結果と考察】
スキル遂行に対するモニタリングの程度,スキル遂行に対するエフィカシー,社交不安をそれぞれ従属変数として,発達段階2(中学生,高校生)×モニタリングの程度2(適正群,不全群)×時期2(pre,post)を独立変数とする3要因分散分析を行った。その結果,モニタリングの程度およびエフィカシーにおいて,有意な時期の主効果が認められた(モニタリングの程度:F(1, 34)= 40.39;エフィカシー:F(1, 34)= 24.71, いずれもp < .001)。一方,社交不安においては,有意差は認められなかった。そこで,サンプル数が小さいことを踏まえて,スキル遂行に対するモニタリングの程度およびエフィカシーについて,中学生と高校生での効果の差異に関する効果量(d 値)を算出した。その結果,高校生に比べ中学生において大きな効果が認められた(モニタリング:中学生d = 1.22,高校生d = .91;エフィカシー:中学生d = .78,高校生d = .54)。これらの結果から,高校生に比べて,自己の行動に対する過小評価が強いことが想定される中学生において,モニタリングの改善およびスキル遂行に対するエフィカシーの増大に対するVFの効果が,大きいことが確認された。一方で,社交不安に対する効果は認められなかったことから,参加者の社交不安の程度は全体的に低く,床効果が生じていた可能性が考えられる。しかしながら,モニタリングの程度と社交不安の間に中程度の相関(r =.56, p <.01)が示されたことから,モニタリングの改善が社交不安の改善に良い影響を与えていることは,先行研究の知見と一致していると考えられる。