[PD047] 青年の恋愛関係における嫉妬と自己愛の関連について
Keywords:恋愛関係, 嫉妬, 自己愛
【目的】
嫉妬という語は広義的だが,石川(2009)は狭い意味での嫉妬を「自分の愛する者の愛情が他に向くのを恨み憎む情動」と表し,妬みや羨望といった言葉と区別している。本研究では青年が恋愛関係において経験する嫉妬をテーマとして扱う。
嫉妬は「今,保持している価値ある関係が誰かに奪われてしまうのでは」という自己防衛的な恐れを内包する。恋愛関係のように,当人に価値ある人間関係の喪失は,関係からの恩恵の喪失と自尊心の喪失につながる(White & Mullen, 1989)。そのため自尊心の傷つきに敏感であるほど,価値ある関係を過剰に防衛するため,嫉妬を経験しやすいと考えられる。この自己の自尊心を保持し続けようとする執着に近い傾向は自己愛と重なる点があり,嫉妬傾向と自己愛の間には関連が考えられる。この関連について検討することは,青年の身近な葛藤の理解への一助となりうるだろう。
青年が恋愛関係の中で経験する嫉妬と自己愛の関連は堤(2006)や北村・緒賀(2011),今川・渡邉(2012)など,国内の数少ない実証的な嫉妬研究でも議論がなされ始めている。しかし,測定概念や使用尺度等の相違もあり,その知見は一貫しておらず,検討は不十分であるといえる。特に,自己愛の過敏性と嫉妬傾向との関連については,北村・緒賀(2011)でも指摘されるように,先行研究では特に測定尺度の問題から,検討が十分ではない。恋人の裏切りへの過敏さを示す嫉妬傾向と他者の評価に対する過敏さを示す自己愛の過敏性との関連こそ,詳細に検討がなされるべきであろう。そこで本研究では神野(2013)が作成した個人の嫉妬傾向を簡便かつ多次元的に測定可能な尺度を用いて,嫉妬傾向と自己愛との関連について検討し,知見を整理・蓄積することを目的とする。なお,自己愛の測定に関しては,自己愛の誇大性のみならず過敏性についても詳細に検討が可能である自己愛人格尺度(Narcissistic Personality Scale;以下NPSと略記)の短縮版(谷,2006)を使用した。
【方法】
○調査手続き 調査協力者に対して複数の心理尺度からなる質問紙を集団的に実施した。
○調査協力者 恋人が現在いる・過去数年以内にいたと回答した18~23歳の大学生160名(男性75名,女性85名,平均年齢19.84歳,SD=1.11)。
○測定尺度 (1)多次元嫉妬尺度:神野(2013)によって作成された。実在・空想を問わず第三者が恋人を奪おうとしているという猜疑的な度合いを示す「認知的嫉妬」10項目,嫉妬を喚起しうる状況に対して不快な感情を抱く排他的な度合いを示す「情動的嫉妬」10項目,実在・空想を問わず関係を脅かしかねない第三者を予防・探知する行動の度合いを示す「行動的嫉妬」6項目からなる7件法の尺度。(2)NPS短縮版:谷(2006)によって作成された。「有能感・優越感」「自己主張性・自己中心性」「注目・賞賛欲求」「自己愛性抑うつ」「自己愛的憤怒」各5項目からなる7件法の尺度。
【結果と考察】
多次元嫉妬尺度とNPS短縮版の相関をTable1に示す。自己愛の誇大性に相当する「有能感・優越感」「自己主張性・自己中心性」は嫉妬傾向全般とほとんど有意な相関を示さなかった。これは堤(2006)を支持する方向の結果である。小松(2004)によれば誇大的な自己愛を持つ人は周囲の評価に動じないとされるため,恋人の裏切りを過剰に心配する嫉妬傾向とは関連が薄かったと考えられる。「注目・賞賛欲求」と嫉妬傾向全般はいずれも有意な正の相関を示していた。また,自己愛の過敏性に相当する「自己愛性抑うつ」「自己愛的憤怒」はともに嫉妬傾向全般と有意な正の相関を示していた。そのため,やはり他者の評価を気にしたり他者からの評価に傷つきやすい過敏な自己愛傾向を持つほど,嫉妬を経験しやすいと考えられる。本研究の結果から,嫉妬傾向は多次元的に捉えても全般的に自己愛の誇大性と関連が薄く,また自己愛の過敏性や「注目・賞賛欲求」とは関連があることが示唆された。今後,更なる青年の葛藤や親密な関係の本質の理解のためにも,嫉妬に寄与する要因やその過程について検討が必要であろう。
嫉妬という語は広義的だが,石川(2009)は狭い意味での嫉妬を「自分の愛する者の愛情が他に向くのを恨み憎む情動」と表し,妬みや羨望といった言葉と区別している。本研究では青年が恋愛関係において経験する嫉妬をテーマとして扱う。
嫉妬は「今,保持している価値ある関係が誰かに奪われてしまうのでは」という自己防衛的な恐れを内包する。恋愛関係のように,当人に価値ある人間関係の喪失は,関係からの恩恵の喪失と自尊心の喪失につながる(White & Mullen, 1989)。そのため自尊心の傷つきに敏感であるほど,価値ある関係を過剰に防衛するため,嫉妬を経験しやすいと考えられる。この自己の自尊心を保持し続けようとする執着に近い傾向は自己愛と重なる点があり,嫉妬傾向と自己愛の間には関連が考えられる。この関連について検討することは,青年の身近な葛藤の理解への一助となりうるだろう。
青年が恋愛関係の中で経験する嫉妬と自己愛の関連は堤(2006)や北村・緒賀(2011),今川・渡邉(2012)など,国内の数少ない実証的な嫉妬研究でも議論がなされ始めている。しかし,測定概念や使用尺度等の相違もあり,その知見は一貫しておらず,検討は不十分であるといえる。特に,自己愛の過敏性と嫉妬傾向との関連については,北村・緒賀(2011)でも指摘されるように,先行研究では特に測定尺度の問題から,検討が十分ではない。恋人の裏切りへの過敏さを示す嫉妬傾向と他者の評価に対する過敏さを示す自己愛の過敏性との関連こそ,詳細に検討がなされるべきであろう。そこで本研究では神野(2013)が作成した個人の嫉妬傾向を簡便かつ多次元的に測定可能な尺度を用いて,嫉妬傾向と自己愛との関連について検討し,知見を整理・蓄積することを目的とする。なお,自己愛の測定に関しては,自己愛の誇大性のみならず過敏性についても詳細に検討が可能である自己愛人格尺度(Narcissistic Personality Scale;以下NPSと略記)の短縮版(谷,2006)を使用した。
【方法】
○調査手続き 調査協力者に対して複数の心理尺度からなる質問紙を集団的に実施した。
○調査協力者 恋人が現在いる・過去数年以内にいたと回答した18~23歳の大学生160名(男性75名,女性85名,平均年齢19.84歳,SD=1.11)。
○測定尺度 (1)多次元嫉妬尺度:神野(2013)によって作成された。実在・空想を問わず第三者が恋人を奪おうとしているという猜疑的な度合いを示す「認知的嫉妬」10項目,嫉妬を喚起しうる状況に対して不快な感情を抱く排他的な度合いを示す「情動的嫉妬」10項目,実在・空想を問わず関係を脅かしかねない第三者を予防・探知する行動の度合いを示す「行動的嫉妬」6項目からなる7件法の尺度。(2)NPS短縮版:谷(2006)によって作成された。「有能感・優越感」「自己主張性・自己中心性」「注目・賞賛欲求」「自己愛性抑うつ」「自己愛的憤怒」各5項目からなる7件法の尺度。
【結果と考察】
多次元嫉妬尺度とNPS短縮版の相関をTable1に示す。自己愛の誇大性に相当する「有能感・優越感」「自己主張性・自己中心性」は嫉妬傾向全般とほとんど有意な相関を示さなかった。これは堤(2006)を支持する方向の結果である。小松(2004)によれば誇大的な自己愛を持つ人は周囲の評価に動じないとされるため,恋人の裏切りを過剰に心配する嫉妬傾向とは関連が薄かったと考えられる。「注目・賞賛欲求」と嫉妬傾向全般はいずれも有意な正の相関を示していた。また,自己愛の過敏性に相当する「自己愛性抑うつ」「自己愛的憤怒」はともに嫉妬傾向全般と有意な正の相関を示していた。そのため,やはり他者の評価を気にしたり他者からの評価に傷つきやすい過敏な自己愛傾向を持つほど,嫉妬を経験しやすいと考えられる。本研究の結果から,嫉妬傾向は多次元的に捉えても全般的に自己愛の誇大性と関連が薄く,また自己愛の過敏性や「注目・賞賛欲求」とは関連があることが示唆された。今後,更なる青年の葛藤や親密な関係の本質の理解のためにも,嫉妬に寄与する要因やその過程について検討が必要であろう。