[PB23] 学習方法自己選択方式におけるグループ学習の編成方法の検討
キーワード:グループ学習, 編成
問題と目的
筆者らはこれまで,学生の学習スタイルに応じて複数の学習方法を学生自身が柔軟に選択しながら学習の遂行を可能にする「学習方法自己選択方式」を知識・スキルの習得を目的とした授業に導入し,そのもとで行われるグループ学習の学生の教え合いの形態に関する分析を行った(藤井・石橋,2017)。一方で,学習目標の達成に向けて,グループ学習のメンバーをどのように編成すればよいのかについては検討されていなかった。そこで本研究では,当該グループ学習のメンバー編成について,教員指定による固定編成と学生の任意編成による取り組みの分析を通して,望ましい編成方法について考察を行うことを目的とした。
方 法
授業科目 A短大の専門教育科目である「ビジネス情報演習」を対象とした。開講時期は2年次前期であり選択必修科目である。調査年度(H27年度)における履修人数は56名であった。各授業では,教員による一斉授業(座学)を行った後,演習課題を実施した。演習時間は各授業によって若干異なるが,およそ60分(授業時間の2/3)とした。成績評価は,演習テーマごとに作成されたレポートに対する評価を中心に行った。
授業デザイン 各週の授業で行われる演習において「教員に質問」,「友人グループで相談(以下:グループ学習)」,「自分自身で調べ学習」の3つの方法について学生自身が選択し遂行する方式を導入した。そのもとで行われるグループ学習のメンバー編成について,第2~10週目(単元1~3)においては教員の指定による固定編成,第11~14週目(単元4)では学生任意による編成とした。なお,固定編成のメンバーは,学生の1年次の成績(席次)を参照しながら,グループ間の学力ができるだけ等質となるよう7グループを編成した。
アンケート調査 履修した学生全員に対して,第15週目の授業の最後に,グループ学習の編成方法に関するアンケートを実施した。教員の指定による固定編成(以下:固定)と学生の任意による編成(以下:任意)のうち,どちらが自分にとって最も適切であるかについて理由(自由記述)を添えて回答してもらった。
結果と考察
グループ学習のメンバー編成に関するアンケートについて,成績区分別に「固定」と「任意」を選択した回答数をTable 1に示す。この結果から,学習目標をよく達成した成績「優」の学生は「固定」(N=12)よりも「任意」(N=15)を選択した学生が多かったものの,両者の差はわずかであった。
成績「優」の学生のうち,「任意」を選好した学生は「任意のメンバーのほうが相談しやすくグループ学習がスムーズにいく」(原文のまま)など,主に学習の効率化を理由に挙げた回答が認められた。また,「固定」を選んだ学生の理由として,「あまり関わり合ったことがない人と積極的に関わることで,人とのつながりも増える。さらに言葉を選びながら説明しないと,伝わらないこともあると思うので,より「考え」ながら活動できるから。」(原文のまま)など,主に社会的スキルの習得に関連した回答が認められた。
成績「可」の学生については,「固定」を選択した学生が一人もいなかった。「任意」を選んだ学生のうち,「あまり話したことがない人だと,質問をしにくいところがある。」(原文のまま)など,「固定」に対する否定的な印象を含んだ内容が多く認められた。
これらの結果から,学習方法自己選択方式のもとで行われるグループ学習のメンバー編成を教員指定により構造化することは,学習に困難を抱える学生にとっては,必ずしも学習目標の達成に効果をもたらすとはいえない可能性があることが示唆された。
引用文献
藤井厚紀・石橋慶一(2017). 学修スタイルの多様性を考慮した授業デザイン:知識・技能の習得を目的とした科目への導入 大学教育学会誌,39(2),85-94
付 記
本研究は,JSPS科研費(JP18K02718)により行われました。
筆者らはこれまで,学生の学習スタイルに応じて複数の学習方法を学生自身が柔軟に選択しながら学習の遂行を可能にする「学習方法自己選択方式」を知識・スキルの習得を目的とした授業に導入し,そのもとで行われるグループ学習の学生の教え合いの形態に関する分析を行った(藤井・石橋,2017)。一方で,学習目標の達成に向けて,グループ学習のメンバーをどのように編成すればよいのかについては検討されていなかった。そこで本研究では,当該グループ学習のメンバー編成について,教員指定による固定編成と学生の任意編成による取り組みの分析を通して,望ましい編成方法について考察を行うことを目的とした。
方 法
授業科目 A短大の専門教育科目である「ビジネス情報演習」を対象とした。開講時期は2年次前期であり選択必修科目である。調査年度(H27年度)における履修人数は56名であった。各授業では,教員による一斉授業(座学)を行った後,演習課題を実施した。演習時間は各授業によって若干異なるが,およそ60分(授業時間の2/3)とした。成績評価は,演習テーマごとに作成されたレポートに対する評価を中心に行った。
授業デザイン 各週の授業で行われる演習において「教員に質問」,「友人グループで相談(以下:グループ学習)」,「自分自身で調べ学習」の3つの方法について学生自身が選択し遂行する方式を導入した。そのもとで行われるグループ学習のメンバー編成について,第2~10週目(単元1~3)においては教員の指定による固定編成,第11~14週目(単元4)では学生任意による編成とした。なお,固定編成のメンバーは,学生の1年次の成績(席次)を参照しながら,グループ間の学力ができるだけ等質となるよう7グループを編成した。
アンケート調査 履修した学生全員に対して,第15週目の授業の最後に,グループ学習の編成方法に関するアンケートを実施した。教員の指定による固定編成(以下:固定)と学生の任意による編成(以下:任意)のうち,どちらが自分にとって最も適切であるかについて理由(自由記述)を添えて回答してもらった。
結果と考察
グループ学習のメンバー編成に関するアンケートについて,成績区分別に「固定」と「任意」を選択した回答数をTable 1に示す。この結果から,学習目標をよく達成した成績「優」の学生は「固定」(N=12)よりも「任意」(N=15)を選択した学生が多かったものの,両者の差はわずかであった。
成績「優」の学生のうち,「任意」を選好した学生は「任意のメンバーのほうが相談しやすくグループ学習がスムーズにいく」(原文のまま)など,主に学習の効率化を理由に挙げた回答が認められた。また,「固定」を選んだ学生の理由として,「あまり関わり合ったことがない人と積極的に関わることで,人とのつながりも増える。さらに言葉を選びながら説明しないと,伝わらないこともあると思うので,より「考え」ながら活動できるから。」(原文のまま)など,主に社会的スキルの習得に関連した回答が認められた。
成績「可」の学生については,「固定」を選択した学生が一人もいなかった。「任意」を選んだ学生のうち,「あまり話したことがない人だと,質問をしにくいところがある。」(原文のまま)など,「固定」に対する否定的な印象を含んだ内容が多く認められた。
これらの結果から,学習方法自己選択方式のもとで行われるグループ学習のメンバー編成を教員指定により構造化することは,学習に困難を抱える学生にとっては,必ずしも学習目標の達成に効果をもたらすとはいえない可能性があることが示唆された。
引用文献
藤井厚紀・石橋慶一(2017). 学修スタイルの多様性を考慮した授業デザイン:知識・技能の習得を目的とした科目への導入 大学教育学会誌,39(2),85-94
付 記
本研究は,JSPS科研費(JP18K02718)により行われました。