[PE46] 自己肯定感尺度ver.3作成の試み(1)
時間的展望との関係から
キーワード:自己肯定感, 時間的展望, 精神的健康
目 的
1990年以降,文化心理学の台頭により,わが国でも精神的健康感を測定するため,さまざまな自己肯定感尺度が作成されてきた。その中でも精神的健康感がより測定されていたのは、自己肯定感尺度ver.2(田中,2005)であった(田中,2012)。一方,ポジティブ心理学の潮流により,精神的な病気がなく,医学的にも健康とされる人が、どうすればより幸せになり,充実した人生を送ることを目的とした研究に注目が集まるようになってきたが,この視点に基づいた自己肯定感については,十分検討されていない。教育現場などにおいても自己肯定感の問題が検討されていることからも(田中,2017),新たな自己肯定感尺度の作成が求められる。
方 法
調査協力者:神奈川県内のA私立大学,埼玉県内のB私立大学,茨城県内のC国立大学,D看護学校,E看護学校,千葉県内のF私立大学,群馬県内のG看護学校の学生の合計236名(男性80名,女性156名)。年齢:18~27歳(平均年齢 男性20.1歳(SD=1.9),女性 19.5歳(SD=1.5)。調査時期:2017年6月下旬から2018年3月下旬。調査票の構成:自己肯定感尺度ver.2(田中,2008)の8項目(SA),自己肯定感尺度ver.3作成のための項目(25項目:私は,自分の長所がすぐ浮かぶ,など),Rosenberg(1965)の自尊心尺度(星野,1970)の各4段階評定,時間的展望体験尺度(白井,1994)の18項目,5段階評定。自己肯定感尺度ver.3の項目については,心理学を専攻する大学生を対象に(2014年(16名),2017年(17名)),自分のことを肯定的,あるいは否定的に感じるときを想像させ,学生同士で議論をさせ,質問項目を作成させた。ワーディングについては,教員と学生間で議論し調整した。その他には,「私は,さまざまなことにチャレンジしたい」「私は,幸せだと思う」「抑うつ的な気分になることが多い」「将来の見通しが持てる」について,あてはまるか,あてはまらないかの2件法で尋ねた。
結 果
自己肯定感尺度ver.2は主成分分析の結果,すべての項目が.52以上でまとまり,α=.82と信頼性も高かった。Rosenberg(1965)の自尊心尺度については,主成分分析の結果,第8項目(.33)を除き.60以上でまとまり,自尊心の中心的概念である「respect(尊敬)」を含んだ項目が他の多くの研究同様に排除される結果となったため,今回の分析より除外した。自己肯定感尺度ver.3については主成分分析の結果,第1因子にまとまった.60以上の10項目を採用した。選択された10項目について再度,主成分分析した結果,すべての項目が.60以上でまとまった。α係数は.86と非常に高い信頼性が確認された。平均値は男性29.1点(SD=5.7),女性27.9(SD=5.9)であり,t検定の結果,男女による平均得点に有意差は確認されなかった。自己肯定感尺度ver.2及び自己肯定感尺度ver.3の相関係数は,r=.83であった。2つの自己肯定感尺度と時間的展望体験尺度との関係は,Table 1の通りであった。
考 察
新たに作成した自己肯定感尺度ver.3は,主成分分析でもまとまりが良く,高い信頼性が得られた。自己肯定感尺度ver.2とver.3との相関関係では,両者に高い相関関係が確認された。その一方で,時間的展望体験尺度との関係では,自己肯定感尺度ver.2よりもver.3の方が目標指向性,希望,現在の充実感との相関が高い一方で,過去の受容が低い結果となった。過去の受容との関係が高いことから,自己肯定感尺度ver.2では通常の精神的健康感の指標と共に臨床群(いわゆる臨床予備群)などに使用することが考えられ,自己肯定感尺度ver.3は,精神的な病気がなく,医学的にも健康な大学生や成人などに使用できる可能性があり,さらなる検討が求められる。
引用文献
星野 命(1970).感情と心理の教育(二) 児童心理, 24,1445-1477.
白井利明(1994).時間的展望体験尺度の作成に関する研究 心理学研究,65,54-60.
田中道弘(2005).自己肯定感尺度の作成と項目の検討 人間科学論究,13,15-27.
田中道弘(2012).自己肯定感尺度の検討(1) 日本心理学会第76回大会発表論文集,1AMD09,21.
田中道弘(2017).日本人青年の自己肯定感の低さと自己肯定感を高める教育の問題―ポジティブ思考・ネガティブ思考の類型から― 自己心理学,7,11-22.
1990年以降,文化心理学の台頭により,わが国でも精神的健康感を測定するため,さまざまな自己肯定感尺度が作成されてきた。その中でも精神的健康感がより測定されていたのは、自己肯定感尺度ver.2(田中,2005)であった(田中,2012)。一方,ポジティブ心理学の潮流により,精神的な病気がなく,医学的にも健康とされる人が、どうすればより幸せになり,充実した人生を送ることを目的とした研究に注目が集まるようになってきたが,この視点に基づいた自己肯定感については,十分検討されていない。教育現場などにおいても自己肯定感の問題が検討されていることからも(田中,2017),新たな自己肯定感尺度の作成が求められる。
方 法
調査協力者:神奈川県内のA私立大学,埼玉県内のB私立大学,茨城県内のC国立大学,D看護学校,E看護学校,千葉県内のF私立大学,群馬県内のG看護学校の学生の合計236名(男性80名,女性156名)。年齢:18~27歳(平均年齢 男性20.1歳(SD=1.9),女性 19.5歳(SD=1.5)。調査時期:2017年6月下旬から2018年3月下旬。調査票の構成:自己肯定感尺度ver.2(田中,2008)の8項目(SA),自己肯定感尺度ver.3作成のための項目(25項目:私は,自分の長所がすぐ浮かぶ,など),Rosenberg(1965)の自尊心尺度(星野,1970)の各4段階評定,時間的展望体験尺度(白井,1994)の18項目,5段階評定。自己肯定感尺度ver.3の項目については,心理学を専攻する大学生を対象に(2014年(16名),2017年(17名)),自分のことを肯定的,あるいは否定的に感じるときを想像させ,学生同士で議論をさせ,質問項目を作成させた。ワーディングについては,教員と学生間で議論し調整した。その他には,「私は,さまざまなことにチャレンジしたい」「私は,幸せだと思う」「抑うつ的な気分になることが多い」「将来の見通しが持てる」について,あてはまるか,あてはまらないかの2件法で尋ねた。
結 果
自己肯定感尺度ver.2は主成分分析の結果,すべての項目が.52以上でまとまり,α=.82と信頼性も高かった。Rosenberg(1965)の自尊心尺度については,主成分分析の結果,第8項目(.33)を除き.60以上でまとまり,自尊心の中心的概念である「respect(尊敬)」を含んだ項目が他の多くの研究同様に排除される結果となったため,今回の分析より除外した。自己肯定感尺度ver.3については主成分分析の結果,第1因子にまとまった.60以上の10項目を採用した。選択された10項目について再度,主成分分析した結果,すべての項目が.60以上でまとまった。α係数は.86と非常に高い信頼性が確認された。平均値は男性29.1点(SD=5.7),女性27.9(SD=5.9)であり,t検定の結果,男女による平均得点に有意差は確認されなかった。自己肯定感尺度ver.2及び自己肯定感尺度ver.3の相関係数は,r=.83であった。2つの自己肯定感尺度と時間的展望体験尺度との関係は,Table 1の通りであった。
考 察
新たに作成した自己肯定感尺度ver.3は,主成分分析でもまとまりが良く,高い信頼性が得られた。自己肯定感尺度ver.2とver.3との相関関係では,両者に高い相関関係が確認された。その一方で,時間的展望体験尺度との関係では,自己肯定感尺度ver.2よりもver.3の方が目標指向性,希望,現在の充実感との相関が高い一方で,過去の受容が低い結果となった。過去の受容との関係が高いことから,自己肯定感尺度ver.2では通常の精神的健康感の指標と共に臨床群(いわゆる臨床予備群)などに使用することが考えられ,自己肯定感尺度ver.3は,精神的な病気がなく,医学的にも健康な大学生や成人などに使用できる可能性があり,さらなる検討が求められる。
引用文献
星野 命(1970).感情と心理の教育(二) 児童心理, 24,1445-1477.
白井利明(1994).時間的展望体験尺度の作成に関する研究 心理学研究,65,54-60.
田中道弘(2005).自己肯定感尺度の作成と項目の検討 人間科学論究,13,15-27.
田中道弘(2012).自己肯定感尺度の検討(1) 日本心理学会第76回大会発表論文集,1AMD09,21.
田中道弘(2017).日本人青年の自己肯定感の低さと自己肯定感を高める教育の問題―ポジティブ思考・ネガティブ思考の類型から― 自己心理学,7,11-22.