日本地質学会第128年学術大会

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口頭発表

R12[レギュラー]岩石・鉱物の変形と反応

[1ch301-08] R12[レギュラー]岩石・鉱物の変形と反応

2021年9月4日(土) 09:00 〜 11:45 第3 (第3)

座長:大橋 聖和、岡本 敦、向吉 秀樹、岡崎 啓史

11:00 〜 11:15

[R12-O-6] 体積膨張反応によるリソスフェアの破壊と流体移動の自己加速化: MgO–H2O実験系からの制約

*宇野 正起1、岡本 敦1、土屋 範芳1 (1. 東北大学)

キーワード:反応誘起破壊、反応誘起浸透率上昇、加水反応、炭酸塩化反応

地殻やマントルにおける加水反応や炭酸塩化反応は,数%から数十%もの体積膨張をともなうため,応力を発生し,岩石を破壊させ,反応を加速しうる(e.g., Jamtveit et al., 2000; Kelemen et al., 2011; Kelemen and Hirth, 2012).しかしながら,体積膨張は空隙を閉塞することで,流体流動を減少させ反応を阻害することもあり(e.g., Andreani et al., 2009; Peuble et al., 2018; Lisabeth et al., 2017),系の応答を予測することができないのが現状である.本研究では,体積膨張反応のアナログ物質として,十分に反応速度が早く,空隙率の低い焼結体の用意できるペリクレース(MgO)の加水反応をもちい,系の力学−水理学応答の支配要因を実験的に探索した.
 初期浸透率の異なる3種のペリクレース焼結体を用意し,流通式水熱反応実験を行い,反応に伴う浸透率変化を計測した.実験条件は温度200℃,封圧20 MPa, 上流流体圧5 MPaである.3種の出発物質の初期浸透率は,3 × 10−15, 4 × 10−17, および<10−19 m2であり,以下では「高透水」,「中透水」,「低透水」サンプルと呼ぶ.
 ペリクレース焼結体の力学−水理学応答は,主に初期浸透率に依存した.高透水サンプルでは浸透率が2桁以上減少したのに対して,低透水サンプルでは浸透率が3桁以上上昇した.これは体積膨張反応において浸透率が明確に上昇した初めての実験である.中透水サンプルは中間的な挙動を示し,浸透率が一旦2桁減少した後に2桁上昇した.
 浸透率が減少したサンプルでは反応が均質に進行して,空隙が閉塞していたのに対して,浸透率が上昇したサンプルでは反応が不均質に進行し,階層的に破壊が生じていた.こうしたサンプルごとの反応の不均質性を理解するために,「流体供給の速度」/「反応によるH2Oの消費速度」の比(Ψ)を計算してみると,高透水サンプルで40–400,中透水サンプルで0.7–3.0, 低透水サンプルで1–4 × 10−2であった.すなわち,高透水サンプルでは水の浸透が反応よりも十分早いのに対して,低透水サンプルでは水の浸透が遅く,空隙に到達した水が逐次反応していることを示す.以上より,流体供給速度/反応速度比Ψが,体積膨張反応における力学―水理学応答に大きな影響を及ぼすことが分かった.
 こうしたΨと反応による破壊の関係は,Shimizu & Okamoto (2016)の個別要素法(DEM)による数値シミュレーションの結果と整合的であり,初期浸透率の高い既存の蛇紋岩化やかんらん岩の炭酸塩化の実験では浸透率が上昇しないことを説明することができる.一方,天然のかんらん岩においては,多くの条件で反応速度≫流体供給速度となり,天然の蛇紋岩化やかんらん岩の炭酸塩岩化における亀裂生成を説明することができる.
 以上より,本研究では,体積膨張反応において初めて,明確に浸透率が上昇しうることを示した.これらの反応を加速させるためには,非常に早い反応速度と低い空隙連結性により,局所的な応力擾乱を生じさせることが必須であり,その場合,階層的な岩石破壊により流体流れが加速度的に増加することが期待される.以上の知見は,リソスフェアの加水化や炭酸塩化のメカニズム,鉱物炭酸塩化による二酸化炭素地層貯留の加速化,粘土鉱物による断層の弱化の制御など,様々な岩石−流体反応の理解や制御に役立つと考えられる.

【引用文献】
Andreani, M., et al. (2009) Environ. Sci. Technol. 43, 1226–1231.
Jamtveit, B., et al. (2000) Nature 408, 75–78.
Kelemen, P.B., Hirth, G. (2012) Earth Planet. Sci. Lett. 345–348, 81–89.
Kelemen, P.B., et al. (2011) Annu. Rev. Earth Planet. Sci. 39, 545–576.
Lisabeth, H.P., et al. (2017) Earth Planet. Sci. Lett. 474, 355–367.
Peuble, S., et al. (2018) Chem. Geol. 476, 150–160.
Shimizu, H., Okamoto, A. (2016) Contrib. to Mineral. Petrol. 171, 1–18.