日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R4[レギュラー]変成岩とテクトニクス

[3poster15-23] R4[レギュラー]変成岩とテクトニクス

2021年9月6日(月) 16:00 〜 18:30 ポスター会場 (ポスター会場)

16:00 〜 18:30

[R4-P-15] 東南極リュツォ・ホルム岩体, 明るい岬の温度圧力推定の試み

*池田 剛1、淀屋 勇斗1,2 (1. 九州大学、2. 日鉄鉱業株式会社)

キーワード:地質温度圧力計、リュツォ・ホルム岩体

ザクロ石,黒雲母,斜長石,石英(±珪線石)の鉱物組合わせは,角閃岩相高温部の泥質片麻岩に広く見られる。この組合せの安定な温度圧力領域が広いことは,変成分帯を困難にし,共生関係から温度圧力を限定することを妨げる。一方で,同一の地質温度圧力計を適用することで,相対誤差の少ない温度圧力構造を検知できる可能性がある。しかし,これらの鉱物が共存していた時の化学組成が,高温の最高変成条件を含む温度圧力経路を経験したのちの現在の鉱物中に保存されているか,という根本的な問題は残されたままである。
 本研究では問題解決の糸口を探るため,手法ごとに様々な温度圧力条件が見積もられている東南極リュツォ・ホルム岩体の明るい岬という狭い露岩地域(約2 km×2 km)を対象とした。上記の鉱物組合わせをもつ泥質片麻岩に限定し,7試料に同一の地質温度圧力計を適用した。通常の基準,即ち,ザクロ石の均質な内部,ザクロ石から離れた黒雲母,Caに富む斜長石を用いると,760 ℃,7.0 kbarから1000℃,10.5 kbarの広い範囲の"値"を得た。問題は,この"値"が温度,圧力かどうかである。
 微細構造をみると,ザクロ石の形態は細粒包有物を伴う半自形と,粗粒包有物を伴う不定形に大別される。前者にはP(リン)の累帯構造がみられルチルが包有されるのに対し,後者にはそれらはみられない。マトリクスにはルチルがなく,構成鉱物も粗粒であることから,ザクロ石の核形成時期および周囲を包有しながら成長する時期が異なっていることが推測される。ところが,この違いは上記の"値"の変動と相関を持たない。
 ザクロ石の近隣かどうかを問わず,1枚の薄片から万遍なく選んだ100点以上の黒雲母の分析値が示す組成幅を考慮しても"値"の幅は説明できない。
 以上の情報から,現段階では以下の2つの可能性が考えられる。1)構成鉱物中には共存時の化学組成が保存されていない(ので地質温度圧力計は適用できない)。2)明るい岬の温度圧力の不均一性をあらわしている。後者の場合,採集地点間の距離をそのまま深さの差に換算した静岩圧の差は,推定圧力の差よりも小さい。温度圧力を凍結した時刻が等しいと仮定すると,凍結後に両者の距離が短縮するような変形があったことを意味する。