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[R14-P-7] (エントリー)堆積物中石英の摩擦実験における光刺激ルミネッセンス(OSL)信号変化
キーワード:光刺激ルミネッセンス、摩擦実験、活断層
光刺激ルミネッセンス(OSL)年代測定法は,地球上に普遍的に存在する石英や長石を対象とし,数十年前からの年代測定範囲をもつため,断層物質を用いた第四紀断層の活動年代測定に適していると考えられている(鴈澤ほか, 2013).この手法では,自然放射線によって鉱物中に蓄積した捕獲電子が,熱や光などの外部刺激によってリセットする作用を用いているが,断層運動に関係するどのような刺激で年代値がリセットするかはまだ未解明な点が多い.Oohashi et al. (2020)は,粉末石英に対してすべり速度を多様に変化させた摩擦実験を行い,OSL信号がすべり速度の増加と摩擦発熱の増大に伴って指数関数的に減少することを報告した.しかし,一般にOSL年代測定には不適切であるとされる花崗岩から抽出した石英(Guralnik et al. 2015; Jeong and Choi, 2012)を用いたため,通常OSL年代測定に用いられる堆積物中の石英の摩擦と信号減少との関係性は明らかにされていない.そこで本研究では,国内の海浜砂から抽出した石英粒子を出発物質とし,摩擦実験を実施した.また,日本の石英はOSL感度が低く,fast成分がないことが多い(Preusser et al. 2009; Westaway et al, 2009)ため,人工蓄積線量を少なくし,そのような石英でも高速摩擦に伴う信号変化が検出可能かどうかを調べた.
山口県笠戸島のはなぐり海岸で採取した海浜砂から粒径150-250 µmの石英を抽出し,線量を人工蓄積させてから摩擦実験を行った.実験は,速度を変化させたもの(速度;0.0002-1.3 m/s,垂直応力;1.0 MPa,変位量;10 m)と垂直応力を変化させたもの(垂直応力;0.5-5.0 MPa,速度;0.65 m/s,変位量;2.1 m)の2通り行った.回収試料のOSL測定には,破砕の影響を最小限にするために粒径150 µm以上の石英を用いた.
測定の結果,花崗岩から抽出した石英の実験結果(Oohashi et al., 2020)と同様に,OSL信号はすべり速度および垂直応力の増加と摩擦発熱の増大に伴って指数関数的に減少した.速度可変実験では0.40 m/sで部分リセット,0.65 m/s以上で完全リセットが認められた.Oohashi et al. (2020)で部分リセットが認められた0.25 m/sにおいて,OSL信号減少の傾向は見られたが,部分リセットには至らなかった.したがって,蓄積線量が少ないとリセットまでのOSL信号減少量が小さくなり,部分リセットの見極めが困難になると考えられる.垂直応力可変実験では2.0 MPaで部分リセット,3.0 MPa以上で完全リセットが認められた.そこで,OSL信号が完全リセットするときの深度を,すべり速度0.65 m/s,変位量2.1 m(継続時間約3秒),垂直応力3 MPaの断層運動が垂直な横ずれ断層で起きたと仮定して求めた.その結果,深度116 mの静岩圧下でOSL信号は完全にリセットすると推定できる.しかし,天然の断層では,粘土鉱物による摩擦係数低下や含水の影響で摩擦発熱が小さくなることが予想される.したがって,粘土鉱物や水が含まれる天然の断層では,今回求めた深度よりも深部でないとリセットが起こらない可能性がある.
【引用文献】
鴈澤好博・高橋智佳史・三浦知督・清水聡(2013)地質学雑誌, 第119巻, 第11巻, 714-726.
Guralnik, B., Ankjærgaard, C., Jain, M., Murray, A.S., Müller, A., Wälle, M., ... Herman, F.(2015)Quaternary Geochronology, 25, 37-48.
Jeong,G.Y. and Choi, J.H.(2012)Quaternary Geochronology, 10, 32-326.
Oohashi et al. (2020) Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 125.
Preusser, F., Chithambo, M. L., Götte, T., Martini, M., Ramseyer, K., Sendezera, E. J., Susino, G. J., and Wintle, A. G.(2009)Earth-Science Reviews 97, 184-214.
Westaway, K, E.(2009)Radiation Measurements 44, 462-466.
山口県笠戸島のはなぐり海岸で採取した海浜砂から粒径150-250 µmの石英を抽出し,線量を人工蓄積させてから摩擦実験を行った.実験は,速度を変化させたもの(速度;0.0002-1.3 m/s,垂直応力;1.0 MPa,変位量;10 m)と垂直応力を変化させたもの(垂直応力;0.5-5.0 MPa,速度;0.65 m/s,変位量;2.1 m)の2通り行った.回収試料のOSL測定には,破砕の影響を最小限にするために粒径150 µm以上の石英を用いた.
測定の結果,花崗岩から抽出した石英の実験結果(Oohashi et al., 2020)と同様に,OSL信号はすべり速度および垂直応力の増加と摩擦発熱の増大に伴って指数関数的に減少した.速度可変実験では0.40 m/sで部分リセット,0.65 m/s以上で完全リセットが認められた.Oohashi et al. (2020)で部分リセットが認められた0.25 m/sにおいて,OSL信号減少の傾向は見られたが,部分リセットには至らなかった.したがって,蓄積線量が少ないとリセットまでのOSL信号減少量が小さくなり,部分リセットの見極めが困難になると考えられる.垂直応力可変実験では2.0 MPaで部分リセット,3.0 MPa以上で完全リセットが認められた.そこで,OSL信号が完全リセットするときの深度を,すべり速度0.65 m/s,変位量2.1 m(継続時間約3秒),垂直応力3 MPaの断層運動が垂直な横ずれ断層で起きたと仮定して求めた.その結果,深度116 mの静岩圧下でOSL信号は完全にリセットすると推定できる.しかし,天然の断層では,粘土鉱物による摩擦係数低下や含水の影響で摩擦発熱が小さくなることが予想される.したがって,粘土鉱物や水が含まれる天然の断層では,今回求めた深度よりも深部でないとリセットが起こらない可能性がある.
【引用文献】
鴈澤好博・高橋智佳史・三浦知督・清水聡(2013)地質学雑誌, 第119巻, 第11巻, 714-726.
Guralnik, B., Ankjærgaard, C., Jain, M., Murray, A.S., Müller, A., Wälle, M., ... Herman, F.(2015)Quaternary Geochronology, 25, 37-48.
Jeong,G.Y. and Choi, J.H.(2012)Quaternary Geochronology, 10, 32-326.
Oohashi et al. (2020) Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 125.
Preusser, F., Chithambo, M. L., Götte, T., Martini, M., Ramseyer, K., Sendezera, E. J., Susino, G. J., and Wintle, A. G.(2009)Earth-Science Reviews 97, 184-214.
Westaway, K, E.(2009)Radiation Measurements 44, 462-466.