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[T7-O-3] 美濃帯犬山セクションの層状チャートに貫入する塩基性岩脈の意義
キーワード:ピクライト、前弧火山活動、美濃帯
プレートの沈み込みによって生じる火山弧と海溝の間の領域である前弧では,通常はプレートが冷たいためにマグマが発生しない.そのため,前弧火山は活動した年代や地域に対して異常な熱源の存在やテクトニクス上の特異な環境を示唆し,地質学イベントを解明するために重要である(e.g. Tsuchiya et al., 2005).
美濃帯はジュラ紀に付加した地質体であり,海洋火成活動による緑色岩やペルム系―ジュラ系チャートなどの海洋性岩石が含まれる.同地質帯に属する岐阜県南部の犬山地域ではジュラ紀に堆積したチャートに貫入する高Mg玄武岩の存在が報告されている(e.g. Fujisaki et al., 2016;木村・貴治,1993).この玄武岩に対して84,90MaというK-Ar年代が報告されているものの,鉱物の変質のため年代を制約しきれていなかった(木村・貴治,1993).今回我々は犬山地域の玄武岩を対象に,岩石記載と全岩化学組成分析に加え,Ar-Ar年代測定法を行い,貫入した玄武岩質マグマの成因を議論する.
本研究で採取したサンプルは後期三畳紀-前期ジュラ紀の赤色層状チャート構造岩塊を貫く火成岩床である(Fujisaki et al., 2016;Safonova et al., 2016).周囲のチャート同様に,変成組織や変成鉱物は確認されないものの,変質の影響を少なからず受けており,斑晶鉱物としてかんらん石仮像がある.Crスピネルは石基や包有物としてかんらん石斑晶中に存在しており,コアからリムにかけてCr#は組成差があるもののいずれも0.50-0.72と高い値をとり,スピネル中に含まれるTiO2は2wt.%を下回る.Crスピネルの鉱物組成はピクライトに含まれるものに類似する(e.g. Eggins, 1993).全岩の主要元素組成は高MgOで特徴づけられ,ピクライトからピクライト質玄武岩に分類される.美濃帯では舟伏山地域でピクライトが報告されているが(Ichiyama et al., 2008),微量元素パターンではNbとTaに枯渇する島弧マグマの特徴を示していることから,海洋域のプレート内火成活動に起源を持つ舟伏山地域のピクライトとは起源が異なると考えられる.本研究で用いた異なる岩脈2試料について誤差範囲で一致する95MaのAr-Ar年代値が得られたため,美濃帯の付加イベント以降の白亜紀中期における火山活動であることが判明した.当時の西南日本は,沈み込んだ若いプレートの熱に起因するとされる活発な火成作用が領家帯で発生しており(Aoya et al., 2009),美濃・丹波帯では高マグネシア安山岩も点在している(木村・貴治,1993).犬山地域の塩基性岩脈の成因として,沈み込んだプレートから放出された水によるソリダス低下や海嶺沈み込みによるマントルの高温環境が示唆される.
引用文献:
Aoya et al. (2009) Terra Nova 21, 67–73. | Eggins (1993) Contrib. Mineral. Petrol. 114, 79–100. | Fujisaki et al. (2016) Paleogeogr. Paleoclimate. Paleoecol. 449, 397–420. | 木村・貴治(1993)地学雑 99, 205–208. |Ichiyama et al. (2008) Lithos 100, 127–146. | Safonova et al. (2016) Gondwana Res. 33, 92–114. | Tsuchiya et al. (2005) Lithos 79, 179–206.
美濃帯はジュラ紀に付加した地質体であり,海洋火成活動による緑色岩やペルム系―ジュラ系チャートなどの海洋性岩石が含まれる.同地質帯に属する岐阜県南部の犬山地域ではジュラ紀に堆積したチャートに貫入する高Mg玄武岩の存在が報告されている(e.g. Fujisaki et al., 2016;木村・貴治,1993).この玄武岩に対して84,90MaというK-Ar年代が報告されているものの,鉱物の変質のため年代を制約しきれていなかった(木村・貴治,1993).今回我々は犬山地域の玄武岩を対象に,岩石記載と全岩化学組成分析に加え,Ar-Ar年代測定法を行い,貫入した玄武岩質マグマの成因を議論する.
本研究で採取したサンプルは後期三畳紀-前期ジュラ紀の赤色層状チャート構造岩塊を貫く火成岩床である(Fujisaki et al., 2016;Safonova et al., 2016).周囲のチャート同様に,変成組織や変成鉱物は確認されないものの,変質の影響を少なからず受けており,斑晶鉱物としてかんらん石仮像がある.Crスピネルは石基や包有物としてかんらん石斑晶中に存在しており,コアからリムにかけてCr#は組成差があるもののいずれも0.50-0.72と高い値をとり,スピネル中に含まれるTiO2は2wt.%を下回る.Crスピネルの鉱物組成はピクライトに含まれるものに類似する(e.g. Eggins, 1993).全岩の主要元素組成は高MgOで特徴づけられ,ピクライトからピクライト質玄武岩に分類される.美濃帯では舟伏山地域でピクライトが報告されているが(Ichiyama et al., 2008),微量元素パターンではNbとTaに枯渇する島弧マグマの特徴を示していることから,海洋域のプレート内火成活動に起源を持つ舟伏山地域のピクライトとは起源が異なると考えられる.本研究で用いた異なる岩脈2試料について誤差範囲で一致する95MaのAr-Ar年代値が得られたため,美濃帯の付加イベント以降の白亜紀中期における火山活動であることが判明した.当時の西南日本は,沈み込んだ若いプレートの熱に起因するとされる活発な火成作用が領家帯で発生しており(Aoya et al., 2009),美濃・丹波帯では高マグネシア安山岩も点在している(木村・貴治,1993).犬山地域の塩基性岩脈の成因として,沈み込んだプレートから放出された水によるソリダス低下や海嶺沈み込みによるマントルの高温環境が示唆される.
引用文献:
Aoya et al. (2009) Terra Nova 21, 67–73. | Eggins (1993) Contrib. Mineral. Petrol. 114, 79–100. | Fujisaki et al. (2016) Paleogeogr. Paleoclimate. Paleoecol. 449, 397–420. | 木村・貴治(1993)地学雑 99, 205–208. |Ichiyama et al. (2008) Lithos 100, 127–146. | Safonova et al. (2016) Gondwana Res. 33, 92–114. | Tsuchiya et al. (2005) Lithos 79, 179–206.