日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T10.[トピック]鉱物資源研究の最前線

[2oral111-23] T10.[トピック]鉱物資源研究の最前線

2022年9月5日(月) 13:30 〜 17:15 口頭第1会場 (14号館501教室)

座長:町田 嗣樹(千葉工業大学・次世代海洋資源研究センター)、浅見 慶志朗(早稲田大学)

14:00 〜 14:15

[T10-O-2] 新潟県佐渡鉱床における金鉱化作用の鉱物学的および地球化学的研究

*澤嵜 友彦1、石田 美月1、大田 隼一郎1,2、中村 謙太郎1,2、安川 和孝1、加藤 泰浩1,2 (1. 東京大学大学院工学系研究科、2. 千葉工業大学次世代海洋資源研究センター)

キーワード:浅熱水性鉱床、金鉱化作用、佐渡鉱床、ICP-MS、SEM-EDS

日本に存在する鉱山の多くは,既に操業を終えて閉山している.しかしながら,2016年頃からJapan Gold Corp. やIrving Resources Inc. などの海外資本が日本国内での金鉱床探査に本格的に乗り出しており,日本の金鉱床に対する注目度が再び高まっている.
 金鉱床を探査する上で重要な鍵となる情報が,鉱床の成因である.世界に存在する金銀鉱床の多くは,地殻中の高温流体 (熱水) が有用な金属元素を溶解・運搬し,温度や圧力などの変化に伴って金属が沈殿することで形成された熱水性鉱床に分類される.日本で採掘された金も,その総量の9割以上は,熱水性鉱床の中でも地下浅部 (~1 km) で生成した浅熱水性鉱床から生産されたものである[1].しかし,浅熱水性金鉱床の成因は,未だ完全に解明されているとはいえない.その原因のひとつとして,鉱床の生成年代の情報が不足していることが挙げられる.鉱床の生成年代を精確に明らかにすることは,元素の濃集を引き起こした地質学的現象が何であるかを解明するための大きな手掛かりとなり[2],熱水性鉱床の成因に重要な制約を与えることにつながると期待される.
 本研究で対象とした佐渡鉱床は,新潟県佐渡島南西部に位置する浅熱水性金銀鉱床である.佐渡鉱床の歴史は古く,1600年代前半に最盛期を迎え,年間で金を400 kg,銀を40 t以上生産し,当時の日本最大の金銀山として栄えた.佐渡鉱床の現在までの産金量は,国内では鹿児島県の菱刈鉱山に次ぐ第2位となっている[4].しかしながら,現在も操業中の高品位鉱山である菱刈鉱山の研究は精力的に行われているのに対して,佐渡鉱床の研究は,その鉱床規模や歴史的重要度に鑑みて十分とはいえない.特に,鉱床の形成年代については,氷長石を用いたK-Ar法による年代測定から,鹿園ほか (1982) [5] は14 Ma,通産省 (1986) [6] は24 Maとするなど,複数の年代が得られており,未だコンセンサスが得られていない.
 その原因のひとつとして,年代決定手法の問題が挙げられる.これまで佐渡金山を含む国内の金鉱床では,鉱石鉱物そのものではなく,脈石鉱物である氷長石を用いたK-Ar法による年代測定によって,間接的に鉱床の生成年代が求められてきた.一方,近年硫化鉱物に富む鉱床において,レニウム (Re)-オスミウム (Os) 法による年代測定によって鉱石鉱物そのものから生成年代が直接得られている [3].そのため,金鉱化作用に関連して生成された硫化鉱物に対してもRe-Os法を適用することができれば,浅熱水性金鉱床の精確な生成年代を決定するうえで有効と考えられる.
 そこで本研究では,佐渡鉱床の様々な鉱脈に産する鉱石試料について、Re-Os法による年代決定が適用可能かどうかの検討を行う.そのために,まず鉱物学的および地球化学的な特徴を把握することを第一の目的とする.こうした鉱物学的・化学的データは,佐渡鉱床に適した年代決定法を検討し,佐渡鉱床の鉱化年代を鉱脈毎に決定していくうえで重要となる.これまでに,東京大学総合研究博物館の保有している佐渡鉱床の鉱石計35試料に対して,SEM-EDSによる観察と元素マッピングおよびICP-MSによる微量元素分析を実施した.その結果,佐渡鉱床の鉱石試料は,(1) 金銀鉱物を伴わない硫化鉱物主体の低品位鉱石,(2) 銀鉱物を伴う硫化鉱物主体の中品位鉱石,(3) 金銀鉱物が主体の高品位鉱石,の3グループに分類できることが分かった.特に,(3) の高品位鉱石については,卑金属鉱物と共生する超高品位鉱石と,金銀鉱物のみの高品位鉱石へとさらに分類された.これらの鉱物組み合わせから,硫化鉱物は佐渡鉱床の鉱化作用を特徴付けており,年代決定に有用であると考えられる.本講演では,上述した佐渡鉱床の試料の鉱物学的・地球化学的特徴の詳細を述べ,今後の年代決定および鉱床成因の解明へ向けた議論を行う.

<引用文献> [1] S. Garwin et al. (2005), Econ. Geol. 891-930. [2] Yang JH et al. (2002) Geology 29 711–714. [3] 野崎達生ほか(2014) 地球化学.48,279-305. [4] 渡辺寧 (2004) 地質ニュース599, 31-39. [5] 鹿園直建, 綱川秀夫. (1982) 鉱山地質 32(6), 479-482. [6] 通商産業省資源エネルギー庁 (1986): 昭和61年度広域調査報告書. 佐渡地域.