9:45 AM - 10:00 AM
[T5-O-3] Is Beppu Bay sediment annual varve: Investigation of the lamination process based on multi-year observations of surface sediment and diatom assemblage.
Keywords:Beppu Bay, Varved sediment, Anthropocene
大分県別府湾最奥部の堆積物は人新世GSSP候補地の一つになっており、最上部で年間5~10mmという非常に速い堆積速度で知られる。この点を活かし、魚鱗、環境DNA等の生物源物質やマイクロプラスチック、PCBなどの人為起源物質の分析による近過去の高解像度な環境変動復元が精力的に行われてきた。 別府湾堆積物の上部には明瞭な葉理が存在しており、年に1セット形成される「年縞」である可能性がKuwae et al.(2013)などにより指摘されていた。もし別府湾堆積物が年縞堆積物であるなら、これらの環境変動復元記録により精密な年代目盛りを挿入し、時間変動の議論や他地域の変動記録との精密対比を行うことが可能になる。本研究では別府湾堆積物が年縞かどうか、堆積物最表層の経年観測や葉理ごとの珪藻群集組成解析に基づいて検討を行った。
分析対象とした表層堆積物は、2017年と2019年に別府湾最奥部(水深約70m)でアシュラ式採泥器を用いて採取した。2017年コアの分析から、アシュラ式採泥器の通常の使用方法では210Pb濃度が検出限界下となる層準(堆積速度推定のため、同層準までの連続試料が必要)まで到達できないことがわかった。そこで2019年の調査ではアシュラ式採泥器に長さ1.2mのアクリルパイプを装着して採泥を実施した。採取したコア試料は高知コアセンターおよび産業技術総合研究所において、医療用CTによる三次元構造取得、半割面肉眼観察、写真撮影、2cm幅スラブ試料による連続的な軟X線像撮影、µXRFスキャナー(ITRAX)による元素組成半定量分析を実施した。 また、別府湾において2008年から2009年に計11回採取された採水試料中の珪藻群集に対してクラスター解析を実施し、別府湾内で生産される珪藻種の季節性を検討した。2019年コアから葉理単位で分取した試料に対しても珪藻群集解析およびクラスター解析を行い、葉理のパターンと珪藻種の関係性を検討した。
別府湾堆積物の葉理はシルト質の明暗互層で構成され、明色層は高密度で陸源砕屑物に富み、暗色層は低密度で有機物に富む。この葉理は肉眼および軟X線像やCT像でのX線透過度、ITRAXデータ上の主要元素カウント値の変動により認定できる。採水試料から得られた珪藻群集解析結果と葉理単位での珪藻群集解析結果の比較から、明色層には冬季多産種が、暗色層には温暖期多産種がそれぞれ多く含まれていることがわかった。 2017年試料と2019年試料の最上部を葉理単位で相互対比すると、2017年コアの最上部は2019コアの深度約2cmに対比される。すなわち、2017年から2019年までの間に約2cmの新規堆積が認められる。また、µXRFスキャナーによる元素組成分析値からは、新規堆積区間に明暗互層2周期分(葉理が年縞であるとするならば2年分に相当)の変動が認められた。210Pbによる堆積速度推定、137Csによる核実験年代の推定結果は、葉理を年縞と仮定してコア最上部からの葉理計数結果積算によって構築した年代モデルと相互の誤差範囲内で一致した。 以上の結果はいずれも「別府湾堆積物最表層の葉理は年縞である」という推測を支持する。別府湾堆積物中の葉理はとくに1950年代以降に明瞭に観察され、経済成長に伴う湾内の富栄養化によって海底の貧酸素環境が強化されて良好な保存状態が維持されたと考えられる。年縞計数とPbによる堆積速度推定やCs同位体による核実験年代推定を組み合わせることで、別府湾堆積物に高解像度かつ高精度な年代モデル(約70年の期間に年代制約点50点程度、年代誤差おおむね±3年以内)を適用することが可能になった。
<引用文献>
Kuwae, M., Yamamoto, M., Ikehara, K., Irino, T., Takemura, K., Sagawa, T., Sakamoto, T., Ikehara, M., & Takeoka, H. (2013). Stratigraphy and wiggle-matching-based age-depth model of late Holocene marine sediments in Beppu Bay, southwest Japan. Journal of Asian Earth Sciences, 69, 133–148. https://doi.org/10.1016/j.jseaes.2012.07.002
分析対象とした表層堆積物は、2017年と2019年に別府湾最奥部(水深約70m)でアシュラ式採泥器を用いて採取した。2017年コアの分析から、アシュラ式採泥器の通常の使用方法では210Pb濃度が検出限界下となる層準(堆積速度推定のため、同層準までの連続試料が必要)まで到達できないことがわかった。そこで2019年の調査ではアシュラ式採泥器に長さ1.2mのアクリルパイプを装着して採泥を実施した。採取したコア試料は高知コアセンターおよび産業技術総合研究所において、医療用CTによる三次元構造取得、半割面肉眼観察、写真撮影、2cm幅スラブ試料による連続的な軟X線像撮影、µXRFスキャナー(ITRAX)による元素組成半定量分析を実施した。 また、別府湾において2008年から2009年に計11回採取された採水試料中の珪藻群集に対してクラスター解析を実施し、別府湾内で生産される珪藻種の季節性を検討した。2019年コアから葉理単位で分取した試料に対しても珪藻群集解析およびクラスター解析を行い、葉理のパターンと珪藻種の関係性を検討した。
別府湾堆積物の葉理はシルト質の明暗互層で構成され、明色層は高密度で陸源砕屑物に富み、暗色層は低密度で有機物に富む。この葉理は肉眼および軟X線像やCT像でのX線透過度、ITRAXデータ上の主要元素カウント値の変動により認定できる。採水試料から得られた珪藻群集解析結果と葉理単位での珪藻群集解析結果の比較から、明色層には冬季多産種が、暗色層には温暖期多産種がそれぞれ多く含まれていることがわかった。 2017年試料と2019年試料の最上部を葉理単位で相互対比すると、2017年コアの最上部は2019コアの深度約2cmに対比される。すなわち、2017年から2019年までの間に約2cmの新規堆積が認められる。また、µXRFスキャナーによる元素組成分析値からは、新規堆積区間に明暗互層2周期分(葉理が年縞であるとするならば2年分に相当)の変動が認められた。210Pbによる堆積速度推定、137Csによる核実験年代の推定結果は、葉理を年縞と仮定してコア最上部からの葉理計数結果積算によって構築した年代モデルと相互の誤差範囲内で一致した。 以上の結果はいずれも「別府湾堆積物最表層の葉理は年縞である」という推測を支持する。別府湾堆積物中の葉理はとくに1950年代以降に明瞭に観察され、経済成長に伴う湾内の富栄養化によって海底の貧酸素環境が強化されて良好な保存状態が維持されたと考えられる。年縞計数とPbによる堆積速度推定やCs同位体による核実験年代推定を組み合わせることで、別府湾堆積物に高解像度かつ高精度な年代モデル(約70年の期間に年代制約点50点程度、年代誤差おおむね±3年以内)を適用することが可能になった。
<引用文献>
Kuwae, M., Yamamoto, M., Ikehara, K., Irino, T., Takemura, K., Sagawa, T., Sakamoto, T., Ikehara, M., & Takeoka, H. (2013). Stratigraphy and wiggle-matching-based age-depth model of late Holocene marine sediments in Beppu Bay, southwest Japan. Journal of Asian Earth Sciences, 69, 133–148. https://doi.org/10.1016/j.jseaes.2012.07.002