10:30 〜 10:45
[T5-O-6] 凝灰岩のアパタイト微量元素組成の層序学的・文化地質学的研究への利用
キーワード:アパタイト、凝灰岩、層序、文化地質
アパタイトは多くの珪長質火成岩類や凝灰岩類に含まれる重鉱物で,埋没続成に強い性質がある(Morton and Hallsworth, 2007).この鉱物の微量元素含有量(Mg, Cl, Mn, Fe, Ce, Y)はマグマの化学組成や酸素・ハロゲン分圧によって大きく変化することから,とりわけ火山ガラスの変質した鮮新世より古い時代のテフラや溶結凝灰岩の識別・対比に用いられるようになりつつある(Sell et al., 2011; Takashima et al., 2017, 2021).一方,凝灰岩や溶結凝灰岩は,建築石材としてよく用いられるが,これらの識別・同定は火山ガラスがほとんどの場合変質し,風化を強く受けているために困難な場合が多い.このような石材でもアパタイトは残存している場合が多く,その微量元素組成を基に,遺跡や文化財などに使われている石材の産地同定も可能になった(内山・髙嶋,2019;髙嶋・斎藤,2020).本講演ではアパタイト微量元素組成を用いた層序学,文化地質学的研究についてレビューし,今後の課題について考察する.
白亜紀凝灰岩の対比:蝦夷層群の惣芦別川層~羽幌川層(120~80Ma)に挟まる約60層の凝灰岩のアパタイト微量元素組成を測定した結果,いずれの凝灰岩もCl, Mg, Mn, Fe, Y, Ceの6つの元素含有量を基に識別可能なことが明らかになった.さらに広域に追跡可能な凝灰岩を3層準で見出すことができた.
紀伊半島における中新世中期の火砕流-火山灰の対比:紀伊半島には中新世中期に複数のカルデラ(熊野,熊野北,大台,大峰カルデラ)が形成されたことが知られている.これらのカルデラの大部分は深く浸食されることにより,地下深部が露出しているが,カルデラの表層に堆積した火砕流の多くは消失している.紀伊半島の中新世中期のカルデラ地下に存在していた火砕岩脈と火砕流堆積物,遠方に堆積した火山灰層のアパタイトの微量元素組成を分析した結果,これらの火山砕屑岩類は相互に対比可能で,さらには各カルデラの噴火順序も層序的に復元することが可能となった.
東北日本における後期中新世の火砕流-火山灰の対比:東北日本では,中新世後期に多数のカルデラが形成されたことが明らかにされている.しかしこれらのカルデラの形成年代の詳細については不明な点が多く,火山灰の分布範囲についてはほとんど明らかにされていない.本研究では東北日本の各カルデラの火砕流堆積物のアパタイト微量元素組成を測定した結果,それぞれの火砕流堆積物の識別が可能なことが示唆された. 西南日本の南海トラフで掘削された深海コア(DSDP Site 297, ODP Site 808c,IODP Site C0011, 0012)には中新世中期の年代を示す区間,東北地方三陸沖の深海コア(ODP Site 1150, 1151)には中新世後期の区間に多くの火山灰層が挟まる.現在,Site 297およびSite 808cからは熊野カルデラ由来の火山灰層がアパタイト微量元素組成により発見することができたが,今後,これら海洋コアの火山灰層のアパタイト微量元素分析を行うことにより,中新世の広域テフラの認定や.中新世カルデラ群の詳細な噴火順序を層序学的に明らかにできる可能性がある.
石材産地の特定:宮城県内には中新世に形成された凝灰岩が石材として多く利用されてきた.代表的なものとしては中期中新世の富沢石(槻木層中部),塩釜石(網尻層基底部),潜ヶ浦石(松島層中部),野蒜石(松島層最上部),秋保石(湯元層)などが挙げられる.貞山堀,岩沼教会,竹駒神社馬事博物館,東北大学金属材料研究所付近囲障などで使われてきた由来不明の凝灰岩石材に関して,アパタイトの微量元素組成を測定したところ,貞山堀は塩釜石,岩沼教会は富沢石,竹駒神社と東北大学片平キャンパスのものは秋保石と組成が一致し,各石材の産地特定が可能となった. 以上のように今後アパタイト微量元素組成を用いた凝灰岩分析は様々な分野で応用できる可能性がある.
文献
Morton, A., Hallsworth, C., 2007. Developments in Sedimentology 58, 215–245. Sell, B. K. et al., Geology 39, 303–306. 内山隆弘・髙嶋礼詩,2020.Bull. Tohoku University Museum, 19, 39-50 Takashima et al., 2017. Quaternary Geochronology, 41, 151-162. Takashima et al., 2021. Island Arc DOI: 10.111/Iar.12404.髙嶋礼詩・斎藤広通,2021.Bull. Tohoku University Museum, 20, 9-20
白亜紀凝灰岩の対比:蝦夷層群の惣芦別川層~羽幌川層(120~80Ma)に挟まる約60層の凝灰岩のアパタイト微量元素組成を測定した結果,いずれの凝灰岩もCl, Mg, Mn, Fe, Y, Ceの6つの元素含有量を基に識別可能なことが明らかになった.さらに広域に追跡可能な凝灰岩を3層準で見出すことができた.
紀伊半島における中新世中期の火砕流-火山灰の対比:紀伊半島には中新世中期に複数のカルデラ(熊野,熊野北,大台,大峰カルデラ)が形成されたことが知られている.これらのカルデラの大部分は深く浸食されることにより,地下深部が露出しているが,カルデラの表層に堆積した火砕流の多くは消失している.紀伊半島の中新世中期のカルデラ地下に存在していた火砕岩脈と火砕流堆積物,遠方に堆積した火山灰層のアパタイトの微量元素組成を分析した結果,これらの火山砕屑岩類は相互に対比可能で,さらには各カルデラの噴火順序も層序的に復元することが可能となった.
東北日本における後期中新世の火砕流-火山灰の対比:東北日本では,中新世後期に多数のカルデラが形成されたことが明らかにされている.しかしこれらのカルデラの形成年代の詳細については不明な点が多く,火山灰の分布範囲についてはほとんど明らかにされていない.本研究では東北日本の各カルデラの火砕流堆積物のアパタイト微量元素組成を測定した結果,それぞれの火砕流堆積物の識別が可能なことが示唆された. 西南日本の南海トラフで掘削された深海コア(DSDP Site 297, ODP Site 808c,IODP Site C0011, 0012)には中新世中期の年代を示す区間,東北地方三陸沖の深海コア(ODP Site 1150, 1151)には中新世後期の区間に多くの火山灰層が挟まる.現在,Site 297およびSite 808cからは熊野カルデラ由来の火山灰層がアパタイト微量元素組成により発見することができたが,今後,これら海洋コアの火山灰層のアパタイト微量元素分析を行うことにより,中新世の広域テフラの認定や.中新世カルデラ群の詳細な噴火順序を層序学的に明らかにできる可能性がある.
石材産地の特定:宮城県内には中新世に形成された凝灰岩が石材として多く利用されてきた.代表的なものとしては中期中新世の富沢石(槻木層中部),塩釜石(網尻層基底部),潜ヶ浦石(松島層中部),野蒜石(松島層最上部),秋保石(湯元層)などが挙げられる.貞山堀,岩沼教会,竹駒神社馬事博物館,東北大学金属材料研究所付近囲障などで使われてきた由来不明の凝灰岩石材に関して,アパタイトの微量元素組成を測定したところ,貞山堀は塩釜石,岩沼教会は富沢石,竹駒神社と東北大学片平キャンパスのものは秋保石と組成が一致し,各石材の産地特定が可能となった. 以上のように今後アパタイト微量元素組成を用いた凝灰岩分析は様々な分野で応用できる可能性がある.
文献
Morton, A., Hallsworth, C., 2007. Developments in Sedimentology 58, 215–245. Sell, B. K. et al., Geology 39, 303–306. 内山隆弘・髙嶋礼詩,2020.Bull. Tohoku University Museum, 19, 39-50 Takashima et al., 2017. Quaternary Geochronology, 41, 151-162. Takashima et al., 2021. Island Arc DOI: 10.111/Iar.12404.髙嶋礼詩・斎藤広通,2021.Bull. Tohoku University Museum, 20, 9-20