08:45 〜 09:00
[T1-O-5] 深部スロー地震が発生する地質環境: 三波川変成帯の例
【ハイライト講演】
世話人よりハイライトの紹介:地球物理学的観測網の発展により,スロー地震が世界各地の沈み込み帯から発見されてきた.しかし、その発生機構は不明な点が多い.本発表は三波川変成岩の組織解析を基に,深部スロー地震発生深度における変形環境の特定を目指した研究である.プレート境界が幅広い連続変形領域であることを見出し,微細褶曲構造の形成と深部スロー地震現象との関係性も指摘している.スロー地震の地質学的描像を鮮明にする研究と期待される.※ハイライトとは
キーワード:石英転位クリープ、動的再結晶、応力推定、微細褶曲構造、ETS
近年、スロー地震という通常の地震に比べ断層破壊がゆっくりと進む現象が発見され、発生の物理法則と条件の解明に向けて観測及び発生環境の解読が進められている。特に発生場での直接観測や試料採収が困難な深部スロー地震の研究では、過去に沈み込みプレート境界を構成していた岩石を用いる地質学的手法が大きな役割を果たす。
西南日本三波川帯では沈み込んだ海洋地殻由来の片岩類とマントルウェッジ由来の蛇紋岩が隣接し、沈み込みプレート境界が保存されたまま露出している。また深部スロー地震が活発な西南日本沈み込み帯の熱モデリングによる推定温度構造は、岩石学的に決定した三波川帯形成時の沈み込み帯温度構造と酷似し、深部スロー地震現象に伴う変形の記録が期待される。よって三波川帯は、地質構造と深部スロー地震を関連付けるにあたり最適なフィールドの一つである。本研究では、三波川帯でも特に露出が良好であり、先行研究が豊富である四国中央部白滝ユニットの岩石を用いて、沈み込み帯プレート境界の変形に関する情報の取得を試みた。
白滝ユニットの石英片岩中に見られる動的再結晶石英粒子について、EBSDを用いて結晶方位分布を取得した。先行研究のデータも加えてCPOのopening angleを用いた変形温度推定を行い、炭質物ラマン温度計によるピーク変成温度の推定値と比較したところ、確認範囲全域(ラマン温度計で凡そ300-500℃)における殆どの試料で整合的な結果を得た。これは上記組織が沈み込みプレート境界で形成されたことを示す。
そこでピーク変成温度と整合的な試料について、結晶方位分布から粒界、粒径を決定し、応力、歪速度を求めた。得られた歪速度と三波川帯形成時に沈み込んでいたイザナギプレートの運動速度を用いて、プレート境界において、プレート運動に伴う歪を石英の転位クリープで解消するために必要な延性せん断帯の幅を計算した。結果、高温高圧領域(440-520℃, 0.7-0.9 GPa, 推定深さ20-30 ㎞)では幅数㎞の延性せん断帯の存在が示された。用いた岩体は石英を多量に含まない他岩体と同様に褶曲しており、全体の変形を代表していると考えられる。
一方で低温低圧領域(300-360℃, 0.5-0.6 GPa, 推定深さ15-20 km)の観察では、石英転位クリープに加え、石英圧力溶解クリープや雲母鉱物のすべりによる変形が認められた。そこで沈み込み時に形成された石英脈や石英歪フリンジを用いてこれらの変形機構による歪速度を評価した結果、本領域では石英圧力溶解クリープと雲母鉱物のすべりが石英転位クリープに比べ卓越し、これらの変形が最大数㎞にわたり生じることで、プレート運動に伴う歪を解消し得ることが示された。フィールドでは石英圧力溶解クリープにより沈み込み時に形成された面構造が数㎞に渡って観察されており、本主張と整合的である。
これらはプレート境界が面ではなく、数km幅を持った連続変形領域であることを示す重要な結果である。深部スロー地震は深さ20-50kmのプレート境界で発生することが観測されており、本研究で示唆される幅広い同質な変形領域内で深部スロー地震が発生する際は、変形領域内の任意の場所で同様な発生機構により生じることが予想される。
近年、微細褶曲構造の形成が深部スロー地震現象の一種であるEpisodic Tremor and Slip (ETS)を発生させる可能性が指摘された。このモデルによれば、微細褶曲構造はその形成過程に crack seal (脆性変形による開口とその後の流体による石英充填)を含むため、石英 crack seal shear veins と同様に ETS を説明するのに適した構造である。また微細褶曲による変位は様々なスケールの褶曲を延性的に発生させ、その規模や均質性、変形メカニズム(脆性、延性)の違いが ETS を構成するlow-frequency earthquakeやtremor burst、短期的スロースリップなどの諸現象を良く説明する。
本地域の調査では石英 crack seal shear veins を確認することが出来なかった。一方で低温低圧領域の面構造にはマイクロリソン部に褶曲した古い面構造が見られ、微細褶曲構造の特徴を示す。また様々なスケールの褶曲も普遍的に確認できた。仮に微細褶曲と様々なスケールの褶曲の形成が ETS を発生させていた場合、本岩体を形成した沈み込みプレート境界の低温低圧領域(推定深さ15-20km)では、面構造分布域に相当する数㎞幅のせん断帯全域にわたりETSが分布して発生していたこと、高温高圧領域(推定深さ20-30km)では石英転位クリープによる定常的な延性変形帯が存在していたことが示唆される。
西南日本三波川帯では沈み込んだ海洋地殻由来の片岩類とマントルウェッジ由来の蛇紋岩が隣接し、沈み込みプレート境界が保存されたまま露出している。また深部スロー地震が活発な西南日本沈み込み帯の熱モデリングによる推定温度構造は、岩石学的に決定した三波川帯形成時の沈み込み帯温度構造と酷似し、深部スロー地震現象に伴う変形の記録が期待される。よって三波川帯は、地質構造と深部スロー地震を関連付けるにあたり最適なフィールドの一つである。本研究では、三波川帯でも特に露出が良好であり、先行研究が豊富である四国中央部白滝ユニットの岩石を用いて、沈み込み帯プレート境界の変形に関する情報の取得を試みた。
白滝ユニットの石英片岩中に見られる動的再結晶石英粒子について、EBSDを用いて結晶方位分布を取得した。先行研究のデータも加えてCPOのopening angleを用いた変形温度推定を行い、炭質物ラマン温度計によるピーク変成温度の推定値と比較したところ、確認範囲全域(ラマン温度計で凡そ300-500℃)における殆どの試料で整合的な結果を得た。これは上記組織が沈み込みプレート境界で形成されたことを示す。
そこでピーク変成温度と整合的な試料について、結晶方位分布から粒界、粒径を決定し、応力、歪速度を求めた。得られた歪速度と三波川帯形成時に沈み込んでいたイザナギプレートの運動速度を用いて、プレート境界において、プレート運動に伴う歪を石英の転位クリープで解消するために必要な延性せん断帯の幅を計算した。結果、高温高圧領域(440-520℃, 0.7-0.9 GPa, 推定深さ20-30 ㎞)では幅数㎞の延性せん断帯の存在が示された。用いた岩体は石英を多量に含まない他岩体と同様に褶曲しており、全体の変形を代表していると考えられる。
一方で低温低圧領域(300-360℃, 0.5-0.6 GPa, 推定深さ15-20 km)の観察では、石英転位クリープに加え、石英圧力溶解クリープや雲母鉱物のすべりによる変形が認められた。そこで沈み込み時に形成された石英脈や石英歪フリンジを用いてこれらの変形機構による歪速度を評価した結果、本領域では石英圧力溶解クリープと雲母鉱物のすべりが石英転位クリープに比べ卓越し、これらの変形が最大数㎞にわたり生じることで、プレート運動に伴う歪を解消し得ることが示された。フィールドでは石英圧力溶解クリープにより沈み込み時に形成された面構造が数㎞に渡って観察されており、本主張と整合的である。
これらはプレート境界が面ではなく、数km幅を持った連続変形領域であることを示す重要な結果である。深部スロー地震は深さ20-50kmのプレート境界で発生することが観測されており、本研究で示唆される幅広い同質な変形領域内で深部スロー地震が発生する際は、変形領域内の任意の場所で同様な発生機構により生じることが予想される。
近年、微細褶曲構造の形成が深部スロー地震現象の一種であるEpisodic Tremor and Slip (ETS)を発生させる可能性が指摘された。このモデルによれば、微細褶曲構造はその形成過程に crack seal (脆性変形による開口とその後の流体による石英充填)を含むため、石英 crack seal shear veins と同様に ETS を説明するのに適した構造である。また微細褶曲による変位は様々なスケールの褶曲を延性的に発生させ、その規模や均質性、変形メカニズム(脆性、延性)の違いが ETS を構成するlow-frequency earthquakeやtremor burst、短期的スロースリップなどの諸現象を良く説明する。
本地域の調査では石英 crack seal shear veins を確認することが出来なかった。一方で低温低圧領域の面構造にはマイクロリソン部に褶曲した古い面構造が見られ、微細褶曲構造の特徴を示す。また様々なスケールの褶曲も普遍的に確認できた。仮に微細褶曲と様々なスケールの褶曲の形成が ETS を発生させていた場合、本岩体を形成した沈み込みプレート境界の低温低圧領域(推定深さ15-20km)では、面構造分布域に相当する数㎞幅のせん断帯全域にわたりETSが分布して発生していたこと、高温高圧領域(推定深さ20-30km)では石英転位クリープによる定常的な延性変形帯が存在していたことが示唆される。