日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

[2oral314-28] T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

2022年9月5日(月) 13:30 〜 17:30 口頭第3会場 (14号館102教室)

座長:中野 伸彦(九州大学大学院比較社会文化研究院)、足立 達朗(九州大学大学院比較社会文化研究院)、吉田 一貴(東北大学大学院 環境科学研究科)

15:30 〜 15:45

[T1-O-26] 領家帯柳井地域,滑花崗岩の定置過程とミグマタイトの形成

*大和田 正明1、青木 克磨2、赤﨑 英里3、亀井 淳志4 (1. 山口大学、2. 株式会社フジタ地質、3. 山口県立山口博物館、4. 島根大学)

キーワード:領家帯花崗岩、岩国ー柳井地域、滑花崗岩、ミグマタイト、累進変成作用

山口県東部,岩国-柳井地域には,領家帯に属する白亜紀低圧高温型変成岩類と白亜紀花崗岩類が広く分布する(東元ほか,1983).変成岩類と深成岩類は密接に伴って産し,領家帯深成-変成複合岩体を形成する(宮崎ほか,2016).花崗岩類のジルコンU–Pb年代は,106–92 Maと幅広い年代値を示す (Skrzypek et al., 2016; Mateen et al., 2019).
 累進変成作用は北から南へ温度が上昇し,最高変成温度のざくろ石-菫青石帯では,グラニュライト相に達する (Ikeda, 2002).Skrzypek et al. (2016)は,岩国-柳井地域の累進変成作用が花崗岩の活動に伴う広域的な接触変成作用によって形成され,変成帯の構造的上位(浅部)に貫入した花崗岩マグマ (105 Ma)の接触変成作用の後,構造的下位(深部)に花崗岩マグマが貫入 (99 Ma)し,この地域全域の古地温勾配が形成されたとするモデルを提案した.岩国-柳井地域に分布する滑花崗岩は,この地域で最初に活動した花崗岩マグマで,上部地殻の温度構造を形成した岩体の一つと考えられている(Skrzypek et al., 2016).そのため滑花崗岩の岩石学的特徴や定置過程を検討することは,この地域の低圧高温型累進変成作用を理解する上で重要である.
 滑花崗岩貫入母岩の泥質片麻岩は菫青石,カリ長石および白雲母を含み,しばしば紅柱石を伴う.また,滑花崗岩体に接するところでは,しばしば珪線石(フィブロライト)を伴う.片麻岩はカリ長石-菫青石帯に属し,590-670 ˚C,100-300 MPaの変成温度・圧力条件が見積もられている (Ikeda, 2004).後述するように滑花崗岩との境界部にはDiatexite状のミグマタイトが分布する.滑花崗岩は中〜細粒で,岩体の東部では弱い面構造が発達し,北西-南東走向で10-30˚北東へ傾斜する.岩体と変成岩類の面構造はほぼ調和的である.主な構成鉱物は石英,アルカリ長石,斜長石,黒雲母および白雲母で,ざくろ石や菫青石を伴う.色指数は3–12%である.また,珪線石をしばしば含む.この珪線石は白雲母や斜長石に包有され,黒雲母やざくろ石を伴うことがある.岩体周辺部は,有色鉱物が3%未満で優白質な岩相が卓越する.SiO2含有量は70–78 wt%で,優白質相がやや高い含有量を示す.また,Sr–Nd同位体組成(105 Maで補正)は,領家帯の泥質変成岩類と異なり,周辺に産する領家帯花崗岩類と同じ値を示す.ミグマタイトは,滑花崗岩体との接触部のみに分布する.ミグマタイトは面構造が弱いことで変成岩類と区分でき,細粒で色調が濃いことによって花崗岩と区別できる.ミグマタイトの鉱物組み合わせは,泥質片麻岩と基本的に同じであるが,斜長石,菫青石および紅柱石は自形結晶として産する.また,しばしば自形性の強い電気石を含むことから,滑花崗岩の貫入によって,接触部の温度が上昇すると共にホウ素 (B)を含む流体が関与することで部分溶融を引き起こしたと考えられる.
 上述のように滑花崗岩中の珪線石は白雲母や斜長石に包有されている.周囲の変成岩中には,少量のフィブロライトを伴うこともあるが,大部分は紅柱石である.従って,珪線石は母岩からの捕獲結晶とは考えにくい.この珪線石は黒雲母やざくろ石を伴うことから,珪線石-カリ長石帯に由来する捕獲結晶の可能性がある.そうだとすれば,Skrzypek et al. (2016)の見解と異なり,滑花崗岩が上昇を開始する105 Ma以前に広域的な熱構造が形成したことになる.産状,鉱物組み合わせおよび同位体組成を含む全岩化学組成から,滑花崗岩はマグマ上昇過程で泥質岩を取り込み,過アルミナ質の組成を獲得して上部地殻に定置したと推察される。
東元ほか(1983)5万分の1地質図幅「岩国」,地質調査所,79p.宮崎ほか(2016)20万分の1地質図幅「松山」第2版.Skrzypek et al. (2016) Lithos, 260, 9–27. Mateen et al. (2019) Geosci Jour, 23, 917–931. Ikeda (2002) Island Arc, 11, 185–192. Ikeda (2004) Contrib Mineral Petrol, 146, 577–589.