日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T11.[トピック]堆積地質学の最新研究

[2oral412-21] T11.[トピック]堆積地質学の最新研究

2022年9月5日(月) 13:30 〜 16:45 口頭第4会場 (14号館401教室)

座長:足立 奈津子(大阪公立大学)、加藤 大和(東京大学大学院理学系研究科)、白石 史人(広島大学)

13:45 〜 14:00

[T11-O-20] 日本産石筍同位体記録の解釈と量的効果の定量化

*狩野 彰宏1、加藤 大和1、村田 彬1、柏木 健司2 (1. 東京大学大学院理学系研究科、2. 富山大学学術研究部理学系)

キーワード:石筍、酸素同位体、古気候

石筍の酸素同位体記録は後期更新世以降の陸域古気候記録として極めて重要である。特に,2000年代以降に中国から報告された過去60万年間の記録は世界的標準として認知されている。
原理的に酸素同位体比は方解石の形成温度と環境水の酸素同位体比の2つの要素に依存するが,これまで報告されてきた石筍記録の多くは環境水すなわち雨水の酸素同位体比への依存度が高く,降水現象を反映していると解釈されてきた。中国の記録では夏の降水強度を示すと考えられ,その解釈は「強い雨ほど酸素同位体比が低くなる」という量的効果との整合性で補強された。
中国から10年遅れて,日本産の石筍記録も公表されるようになった。広島産石筍の研究では,中国石筍記録との相同性が強調されたが,変動幅が小さいことから量的効果が弱かったとも指摘された (Shen et al., 2010)。新潟産石筍の研究では,冬季の降雪強度とともに日本海の汽水化が重要であると解釈された (Sone et al., 2013; Amekawa et al., 2021)。一方,三重産石筍の過去8万年間の記録は,酸素同位体比の振幅が著しく小さく,水蒸気ソースである海水の値と同調した長期的変動を示すことから,温度変化と海水の酸素同位体比変動だけで説明できると解釈された (Mori et al., 2018)。この研究では量的効果の重要性に対して疑問が呈され,中国石筍の大きな振幅は海水変動に伴う東シナ海の陸化による内陸度(海岸線からの距離)の変化も影響している可能性が示唆された (Mori et al., 2018)。
石筍酸素同位体比記録の解釈は量的効果の評価に依存する。そこで,日本国内で採集された雨水酸素同位体比を用いて量的効果の定量的評価を試みた。Amekawa et al. (2021) が用いたいたモンテカルロ的な統計処理の結果は量的効果を認定する。しかし,その効果は弱い。石筍同位体比記録を量的効果のみで解釈すると,過去において年間2000mL以上の大きな幅で降水量が変化したことになり,別の要因も影響していたと考えられる。
Amekawa et al., 2021. PEPS, 8, 1-15.
Mori et al., 2018. QSR, 192, 47-58.
Shen et al., 2010, QSR, 29, 3327-3335.
Sone et al., 2013. QSR, 75, 150-160.