日本地質学会第129年学術大会

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セッション口頭発表

T3.[トピック]南大洋・南極氷床:地質学から解く南極と地球環境の過去・現在・未来

[2oral501-10] T3.[トピック]南大洋・南極氷床:地質学から解く南極と地球環境の過去・現在・未来

2022年9月5日(月) 08:45 〜 12:00 口頭第5会場 (14号館402教室)

座長:石輪 健樹(国立極地研究所)、尾張 聡子(東京海洋大学)、菅沼 悠介(国立極地研究所)、香月 興太(島根大学)

09:30 〜 09:45

[T3-O-3] 南大洋における現在と過去の活動的大陸縁:白鳳丸KH-19-6 Leg 4航海から

*山口 飛鳥1、谷 健一郎2、池原 実3 (1. 東京大学大気海洋研究所、2. 国立科学博物館、3. 高知大学海洋コア総合研究センター)

キーワード:サウスシェットランド海溝、サウスオークニー諸島、白鳳丸、沈み込み帯、タービダイト

2019年10月から2020年3月にかけて、学術研究船白鳳丸の就航30周年を記念する世界一周研究航海が行われた。このうちKH-19-6 Leg 4では、これまで日本船による系統的な調査がほとんど行われたことのない南大洋ウェッデル海、サウスシェトランド海溝、および南大洋大西洋区から9地点でピストンコアによる採泥と、18地点でのドレッジを行い、堆積物・岩石試料を採取した。本発表ではKH-19-6 Leg4の成果のうちプレート沈み込み帯のテクトニクスに関する部分の概要を紹介する。
 フェニックスプレートと南極プレートの境界をなすサウスシェトランド海溝は非常に低速な収束速度で特徴づけられる世界最南端の海溝であり、そこでの堆積作用の実態解明は、超低速な沈み込み帯・極域の沈み込み帯における物質循環を理解する上で重要である。KH-19-6 Leg4では、サウスシェットランド海溝域の前弧・海溝底および海溝海側から4本のコアが採取された。海溝底から採取された2本のコアにはそれぞれ29枚(PC02), 13枚(PC04)のタービダイトが認められ、PC02の14C年代測定の結果からは143 cm/kyの平均堆積速度が推定された。一方で半遠洋性泥のみの平均堆積速度も約52 cm/kyと大きく、極域の海溝では半遠洋性泥と重力流の双方による堆積が進行していると考えられる。一方で氷河性岩屑(IBRD)はサウスシェットランド海溝ではほとんど産出しておらず、これは海氷が南極半島から東側に漂流することを反映していると考えられる。
 KH-19-6 Leg 4において、岩石ドレッジは、スコシアプレートと南極プレートの境界をなすサウスオークニー諸島近傍のトランスフォーム断層沿い、および南極・南米プレート境界の一部であるバルカン断裂帯沿いに集中して行われた。サウスオークニー諸島近傍では玄武岩~安山岩質火山岩・かんらん岩(1試料)に加えて大量の弱変成堆積岩が採取された。弱変成堆積岩はいずれも砂泥互層を源岩とする千枚岩・構造性メランジュおよび面状カタクレーサイトで、さまざまな変成・変形度のものが認められた。このうち変形が著しいものは、線構造と平行な軸をもつ微細褶曲とちりめんじわ劈開が発達しており、三波川帯の低変成部に類似した変形様式を呈する。これらの砕屑岩のジルコンU-Pb年代は約6億-5億年前のパンアフリカン変動時のピークに加えてペルム紀のものが顕著であり、一部に白亜紀のものを含む。ペルム紀以後に形成された、砕屑岩を主体とする付加体の断面が、スコシアプレートの形成とともに成長したトランスフォーム断層沿いに露出しているものと考えられる。
 南極周辺における海洋プレートの沈み込みは現在でこそサウスサンドイッチ・サウスシェトランドの両海溝に限られているものの、過去にはゴンドワナ大陸西縁をなす活動的大陸縁が続いており、日本の陸上地質、およびフィリピン海周辺の海洋地質学的知見に基づいてこれらの地域のテクトニクスと物質循環を再検討することが期待される。