日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T6.[トピック]日本列島の起源再訪

[3oral201-13] T6.[トピック]日本列島の起源再訪

2022年9月6日(火) 08:45 〜 12:00 口頭第2会場 (14号館101教室)

座長:磯崎 行雄(東京大学)、佐藤 友彦(岡山理科大学)、澤木 佑介(東京大学)

11:30 〜 11:45

[T6-O-12] (招待講演)日本列島における古生代前期の動物化石群とその古地理学的特徴

*田中 源吾1 (1. 熊本大学)

キーワード:前期古生代、化石動物群、介形虫

日本列島には,古生代の化石群を豊富に産出する南部北上帯,飛騨外縁帯および黒瀬川帯が分布し,古くから分類学的・生物地理学的研究が行われてきた.しかし,多くの分類群では,その後の研究が滞っていたこともあり,分類学的再検討が行われないまま現在に至っている.近年,Kido & Sugiyama (2011)によって,四方サンゴ類の古生物地理学的検討が行われたほか,日英国際共同研究によって,三葉虫やコノドントの分類学的再検討に加えて介形虫化石群の発見が相次ぎ,古生代前期の日本列島の古生物地理学的情報が揃ってきた.本講演では,これらの分類群の古生物地理学的研究から推測される古生代前期(シルル紀)の日本列島の古地理学的位置について報告する.四方サンゴ類:Kido & Sugiyama (2011)によると,TryplasmaやCystiphyllum属は,黒瀬川帯,南部北上帯,オーストラリア,南中国,ツァイダム盆地に広く分布するものの,Labechiellata属やPseudamplexus属は,黒瀬川帯,南部北上帯のほかは,オーストラリアと南中国に分布する.Holmophyllum属,Pycnostylus属,Strombodes属は,黒瀬川帯とオーストラリア,南中国に分布する.Amsdenoides属は,黒瀬川帯,南部北上帯および南中国に分布する.四方サンゴ類の古生物地理学的結果は,当時の日本が,南中国に近い位置にあったことを示している.三葉虫:Stocker et al. (2019a, 2019b) によると,Ganinella属は,飛騨外縁帯と北中国のほか,シベリアからも報告されている広域的に分布する属である.Batocara属およびCoronocephallus属は,日本,オーストラリア,南中国に分布する.特筆すべきは,Rhaxerox属,Borenoria属,Illaenoscutellum属に加えて,Bumastella spiculaおよびJaponoscutellum japonicumの2種が,黒瀬川帯とオーストラリアに分布することである.コノドント:Männik et al. (2018) は黒瀬川帯から産出したコノドントについて,検討している.Ozarkodina waugoolaensisは分布範囲が広く,黒瀬川帯,オーストラリア,南中国のほか,バルティカ北方でも報告されている.一方で,Oulodus rectangulusは黒瀬川帯とオーストラリアに分布している.Panderodus cf. amplicostatusは黒瀬川帯と南中国に分布している.コノドントの結果は,日本がオーストラリアや南中国に近い位置にあったことを示している.介形虫:Siveter et al. (2019) は,黒瀬川帯からHollinella orientaを,飛騨外縁帯から,Clintiella antifriggaおよびPauproles supparataを報告している.Pauproles supparataは新属新種,他の2種については,属レベルでは当時の熱帯域に広く分布するものの,種レベルでは固有種である.従って,介形虫群は日本固有の古生物地理区を構成していたと考えられる.飛騨外縁帯のデボン紀前期の浅海性介形虫群は,南中国と共通種を複数含む(Tanaka et al., 2019)ことから,シルル紀の日本は,南中国から幾分離れた場所に島弧(Williams et al., 2014)として存在していた可能性が高い.   引用文献 Erika KIDO & Tetsuo SUGIYAMA (2011), Bulletin of Geosciences, 86 (1), p.46–p.61; Christopher STOCKER et al. (2019a), Fossils and Strata, 64, p.205–p.232; Christopher STOCKER et al. (2019b), Island Arc, 28, e12287; Männik PEEP et al. (2018), Island Arc, 27, e12269; David SIVETER et al. (2019), Island Arc, 28, e12284; Gengo TANAKA et al. (2019), Island Arc, 28, e12283; Mark WILLIAMS et al. (2014), Island Arc, 23(2), p.76–p.101.