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[T9-O-3] 国内CCSに向けた地質技術者の役割
キーワード:カーボンニュートラル、二酸化炭素地中貯留、CCS、国内、貯留層、地質技術者
1. はじめに・背景
2020年10月、日本政府は、2050年までに日本国内で排出される温室効果ガスを実質ゼロにするカーボンニュートラル宣言を行った。温室効果ガス排出量の低減にあたっては、日本国内でのCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)の実施が重要な役割を果たす。海外においては、ノルウェーのSleipnerやオーストラリアのGorgonなど、帯水層を貯留層とするCCS事業が先駆的に実施され、その実績は広く認知されている。
2. CCSの地質要件と貯留層の特徴
CO2地中貯留場(以下、CCSサイト)の地質要件は、圧入予定のCO2量以上の貯留容積が存在すること、圧入したCO2を漏洩させない遮蔽層が存在することである。また、CO2を超臨界状態で地層に圧入するため、貯留層深度は約1,000 m以深が適切とされる。これらの条件を充足させる地域を、堆積盆地規模で抽出することがCCSサイト選定の第一段階であり、Site Screeningと呼ばれる。我々は、Site Screeningにおける評価手順の構築や、各評価要素の検討に資する知見を得るために、東南アジア全域を対象とした Site Screeningのケーススタディを実施した。このスタディでは、広域地質情報データベースNeftex® Predictions(Halliburton社)を利用し、CCSの地質要件に関連する堆積層厚、貯留岩・シール層の分布、貯留層の深度などの各要素を地図上に重ねて表示・検討することで、CCSサイトのフェアウェイを視覚的に解釈・評価した。その結果は、現在、東南アジア地域で計画されているCCSプロジェクトの位置と整合的であり、本手法の有効性が示された。 次に、抽出された地域から複数のCCSサイト候補の順位付け・選定を行い(Site Selection)、選定されたCCSサイト候補のCO2貯留ポテンシャルを定量的に評価する(Site Characterization)。評価にあたっては、世界で先駆的に稼働しているCCSプロジェクトの貯留層性状を理解することが有用である。先駆的プロジェクトの内、CO2圧入レートが1万トン/日以上の規模を有する貯留層性状は、①高孔隙率(>30%)、高浸透率(>1,000 mD)(Sleipnerなど)[1]、②低孔隙率(10–20%)、高浸透率(~1,000 mD)(Questなど)[2]、③低孔隙率(10–20%)、低浸透率(<100 mD)(Gorgonなど)[1]の大きく3つのタイプに分類することができる。また、いずれの貯留層も厚く(100 mオーダー)、広域に分布するという共通の特徴がある。一方で、日本国内でCO2貯留層として期待される地層は、日本列島という火山弧に特有の凝灰質砂岩である場合が多く、その貯留層性状は世界の例と比較して不均質で、層厚も数十m程度と薄く、また、地域によっては断層により分断されている可能性もあり、必ずしも、良好な貯留層条件であるとは言えない。
3. 国内でのCCS社会実装に向けて地質技術者に求められる役割
上述の通り、我々は難しい地層を相手に国内でのCO2地中貯留が求められている。さらに、貯留層を評価するために必要な地下データの密度においても、日本特有の事情が存在する。日本国内において、石油・天然ガスの探鉱・開発が積極的に行われた地域は、主に新潟、秋田の陸上地域に限定され、それらの地下データは開発初期(1970~80年代)に取得されたために、現在の解析技術を利用した貯留層評価には情報量が不十分であることが多い。更に、日本周辺海域では広域に取得された地震探査データが存在するものの、坑井データは僅かに点在するのみで、地質的不確実性が高い。 国内でのCCS社会実装に向けて、地質技術者に求められる役割は、限られた地下データから的確に貯留層の分布と性状を予測することである。それは、石油・天然ガスの探鉱・開発に求められるものと同様であるが、新潟や秋田に限らず、日本全国で、貯留層となり得る地層の分布や性状を整理・集約することが求められる。そのためには、日本各地の堆積盆地の層序学、堆積学、構造地質学、岩石・鉱物学といった各分野での研究成果の蓄積と、データの共有化により、分野・組織横断的な連携がより効率的にできるようにすることが重要である。
[1] K. Michael et al. (2010) International Journal of Greenhouse Gas Control, 4, 659–667
[2] Quest Knowledge Sharing: http://www.energy.alberta.ca/CCS/3848.asp
2020年10月、日本政府は、2050年までに日本国内で排出される温室効果ガスを実質ゼロにするカーボンニュートラル宣言を行った。温室効果ガス排出量の低減にあたっては、日本国内でのCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)の実施が重要な役割を果たす。海外においては、ノルウェーのSleipnerやオーストラリアのGorgonなど、帯水層を貯留層とするCCS事業が先駆的に実施され、その実績は広く認知されている。
2. CCSの地質要件と貯留層の特徴
CO2地中貯留場(以下、CCSサイト)の地質要件は、圧入予定のCO2量以上の貯留容積が存在すること、圧入したCO2を漏洩させない遮蔽層が存在することである。また、CO2を超臨界状態で地層に圧入するため、貯留層深度は約1,000 m以深が適切とされる。これらの条件を充足させる地域を、堆積盆地規模で抽出することがCCSサイト選定の第一段階であり、Site Screeningと呼ばれる。我々は、Site Screeningにおける評価手順の構築や、各評価要素の検討に資する知見を得るために、東南アジア全域を対象とした Site Screeningのケーススタディを実施した。このスタディでは、広域地質情報データベースNeftex® Predictions(Halliburton社)を利用し、CCSの地質要件に関連する堆積層厚、貯留岩・シール層の分布、貯留層の深度などの各要素を地図上に重ねて表示・検討することで、CCSサイトのフェアウェイを視覚的に解釈・評価した。その結果は、現在、東南アジア地域で計画されているCCSプロジェクトの位置と整合的であり、本手法の有効性が示された。 次に、抽出された地域から複数のCCSサイト候補の順位付け・選定を行い(Site Selection)、選定されたCCSサイト候補のCO2貯留ポテンシャルを定量的に評価する(Site Characterization)。評価にあたっては、世界で先駆的に稼働しているCCSプロジェクトの貯留層性状を理解することが有用である。先駆的プロジェクトの内、CO2圧入レートが1万トン/日以上の規模を有する貯留層性状は、①高孔隙率(>30%)、高浸透率(>1,000 mD)(Sleipnerなど)[1]、②低孔隙率(10–20%)、高浸透率(~1,000 mD)(Questなど)[2]、③低孔隙率(10–20%)、低浸透率(<100 mD)(Gorgonなど)[1]の大きく3つのタイプに分類することができる。また、いずれの貯留層も厚く(100 mオーダー)、広域に分布するという共通の特徴がある。一方で、日本国内でCO2貯留層として期待される地層は、日本列島という火山弧に特有の凝灰質砂岩である場合が多く、その貯留層性状は世界の例と比較して不均質で、層厚も数十m程度と薄く、また、地域によっては断層により分断されている可能性もあり、必ずしも、良好な貯留層条件であるとは言えない。
3. 国内でのCCS社会実装に向けて地質技術者に求められる役割
上述の通り、我々は難しい地層を相手に国内でのCO2地中貯留が求められている。さらに、貯留層を評価するために必要な地下データの密度においても、日本特有の事情が存在する。日本国内において、石油・天然ガスの探鉱・開発が積極的に行われた地域は、主に新潟、秋田の陸上地域に限定され、それらの地下データは開発初期(1970~80年代)に取得されたために、現在の解析技術を利用した貯留層評価には情報量が不十分であることが多い。更に、日本周辺海域では広域に取得された地震探査データが存在するものの、坑井データは僅かに点在するのみで、地質的不確実性が高い。 国内でのCCS社会実装に向けて、地質技術者に求められる役割は、限られた地下データから的確に貯留層の分布と性状を予測することである。それは、石油・天然ガスの探鉱・開発に求められるものと同様であるが、新潟や秋田に限らず、日本全国で、貯留層となり得る地層の分布や性状を整理・集約することが求められる。そのためには、日本各地の堆積盆地の層序学、堆積学、構造地質学、岩石・鉱物学といった各分野での研究成果の蓄積と、データの共有化により、分野・組織横断的な連携がより効率的にできるようにすることが重要である。
[1] K. Michael et al. (2010) International Journal of Greenhouse Gas Control, 4, 659–667
[2] Quest Knowledge Sharing: http://www.energy.alberta.ca/CCS/3848.asp