[T5-P-1] (エントリー)北海道芦別岳地域における空知層群下部の無斑晶玄武岩とピクライトの層序関係
はじめに: 空知層群は後期ジュラ紀の玄武岩 (下部) と,前期白亜紀の堆積岩(上部)からなり,渡島帯東縁に付加した玄武岩に島弧から供給された砕屑物が堆積することで形成されたと考えられている.近年, 空知層群とされる地層から産出するピクライトに焦点が当てられ,空知層群の無斑晶質玄武岩と共に海台玄武岩に起源をもつとする説や大陸縁辺の拡大により形成されたものであるとする説が唱えられてきた. しかし模式地を含む空知層群の大部分を構成する無斑晶質玄武岩と芦別岳西側斜面に局所的に分布するピクライトとの層序関係は確認されておらず.ピクライトを本当に空知層群として議論してよいのか,という疑問の余地がある. 本発表では模式的な空知層群下部の玄武岩とピクライトの関係を野外調査と全岩化学組成から見直し,2 種類の岩石の起源, 火成活動についての考察を行なう. 層序: 芦別岳東側のユーフレ川の空知層群は,下位から無斑晶質玄武岩からなる芦別岳層 (S1) と火山砕屑性砂岩と珪質泥岩からなる主夕張川層(S2)に区分される(地層名は橋本, 1953に,記号は紀藤, 1987に従う). 主夕張川層の基底部にある赤色泥岩の基質と玄武岩及びドレライトの角礫からなる礫岩層を新たにユーフレ川礫岩部層 (S2a) とした. 芦別岳層の枕状溶岩の流層面は西に20°から50°傾斜しており,垂れ下がりから西上位である.芦別岳層の下部にはドレライト岩床が貫入している.ユーフレ川礫岩部層および上位層の層理は急立・東上位であることから,主夕張川層は芦別岳層を傾斜不整合で覆うと考えられる.また芦別岳の西側斜面には極楽平層(高嶋ほか, 2001) のピクライトや玄武岩が分布している.前述のとおり芦別岳層が西上位であるため,西側に分布する極楽平層は芦別岳層の見かけ上位となる. 記載岩石学的特徴: 芦別岳層の玄武岩が無発泡であるのに対し極楽平層のピクライトは強く発泡している. また極楽平層のピクライトとピクライト質玄武岩は斜長石に乏しく単斜輝石に卓越しており芦別岳層の岩石と比較してより苦鉄質である. 薄片観察により芦別岳層の玄武岩にはぶどう石や沸石が見られるのに対し,極楽平層のピクライトや玄武岩にはパンペリー石やアクチノ閃石などの変成鉱物が見られた. このことから極楽平層はパンペリー石-アクチノ閃石亜相に相当する変成作用を被っており, 沸石相の芦別岳層よりも高圧の変成を受けたと考えられる. 元々芦別岳層より深部にあった極楽平層が芦別岳層の見かけ上位にあることから,極楽平層は断層で芦別岳層の上位に乗り上げたと考えられる. 全岩化学組成: 極楽平層のピクライトはMgOが 20~25 wt% と非常に多く, TiO2が 1 wt% 未満である.芦別岳層の玄武岩と,極楽平層のピクライトおよび玄武岩の双方とも,非調和元素に涸渇しN-MORBに類似した微量元素組成を示した. しかし極楽平層の岩石はMREEに対しHREE にやや涸渇した特徴を示すことで,HREEが涸渇しない芦別岳層と異なる. HREE の涸渇はマントルのより深部での溶融を示すと考えられる.そのため,芦別岳層の玄武岩が通常の拡大軸で形成された一方,極楽平層のピクライトや玄武岩はプルームに関連して形成された可能性がある. まとめ: 変成度と全岩化学組成の違いから極楽平層と芦別岳層の岩石は同じ地層とは考えにくく,とくに極楽平層は神居古潭変成作用に対比できる高圧の変成作用を被っていることから,空知層群に帰属しないと考えられる. 極楽平層が神居古潭変成岩類に含まれる場合, 空知層群とは沈み込んだ側と沈み込まれた側の関係になる.そのため,芦別岳層と極楽平層が互いに別のプレートに属していたことが示唆され,同一の火成活動場で形成された可能性は低いと考えられる.今後両層の起源をさらに詳しく検討することにより,当時の西太平洋のプレート配置の復元に貢献できることが期待される. 文献 橋本 亘, 1953, 5万分の1地質図幅説明書「山部」, 北海道開発庁, 82p. 紀藤典夫, 1987, 北海道神居古潭帯における緑色岩と砕屑性堆積岩の関係. 地質学雑誌, 93, 21–35. 高嶋礼詩・吉田武義・ 西弘嗣, 2001, 北海道夕張-芦別地域に分布する空知層群・蝦夷層群の層序と堆積環境. 地質学雑誌, 107, 359–378.