日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

G1-7. ジェネラル サブセッション海洋地質

[7poster37-40] G1-7. ジェネラル サブセッション海洋地質

2022年9月10日(土) 10:30 〜 12:30 ポスター会場 (ポスター会場)

[G7-P-4] 南海トラフ地震歪蓄積域における応力状態: 紀伊半島沖超深度ライザー孔C0002の解析

*廣瀬 丈洋1、濱田 洋平1、北島 弘子2、Saffer Demian3、Tobin Harold 4 (1. 国立研究開発法人海洋研究開発機構 高知コア研究所、2. Texas A&M University、3. University of Texas at Austin、4. University of Washington)


キーワード:応力、南海掘削、国際深海科学掘削計画

2007年に開始された地球深部探査船 「ちきゅう」による南海トラフ地震発生帯掘削(NanTroSEIZE)は、これまでに紀伊半島沖の東南海地震震源域付近で12航海を行い、16地点で掘削がおこなわれてきた。本計画の科学目標の1つに、南海トラフ地震発生場における応力状態の解明があった。発表ではこれまで明らかになってきた地震発生帯近傍における応力状態、特に超深度ライザー孔C0002での解析の結果をレビューする。

NanTroSEIZE Stage 1-2では、海底下深度~1kmまでの掘削が行われ、海側から陸側に至る側線沿いの7孔で応力状態が調べられた。その結果、深度1km以浅では最大主応力(σ1)が鉛直方向であり、水平面内での最大応力(SHmax)の方向がプレート運動方向と平行であることが明らかとなった(Lin et al., 2016)。ただし、熊野堆積盆の海側端の地点ではSHmaxの方向がトラフ軸に平行になっていることが報告されている。より深部の応力状態を解明するために、Stage 3では深度~5kmにプレート境界断層が想定されているSite C0002でライザー掘削が行われた。

C0002孔では、深度872mと1936mでリークオフテスト(LOT)、2910m付近でstepped-rate injection test (SRIT)を行い、最小主応力(σ3)を測定している(Strasser et al., 2014; Tobin et al., 2015, 2022)。これら3つの深度のσ3から推定される最小主応力勾配は~16MPa/kmであり、深度3km以浅でのσ3は掘削試料や物理検層の密度測定値から計算される上載岩圧(Sv)より優位に小さい。よって、深度3km以浅の付加体内部における応力状態は、逆断層場ではなく、横ずれ断層場もしくは正断層場であることがわかっている。さらに応力状態に制約を与えるため、掘削コア・データから岩石の強度特性を調べて応力状態を推定する研究が行なわれてきた(Kitajima et al., 2017; Tobin et al., 2022)。

海底下の岩石強度は一般的に掘削コア試料を用いた室内実験室で測定される。Kitajima et al. (2017)は、速度検層データから現在の間隙率の深度変化を計算し、その間隙率を説明しうる応力状態を、コアを用いた室内実験で確立した圧密特性を活用して推定した。その結果、深度1.4~3kmでは横ずれ断層応力場になっていることを明らかにした。一方Tobin et al. (2022)は、深度3km付近で発生した孔崩落(Pack-off events)の際に、掘削泥圧がスパイク状に61~63MPaまで上昇したにもかかわらず、10時間以上漏泥が起こらなかったことから、この掘削泥圧がSHmaxの上限を与えると仮定して応力状態を推定した。そして深度3km付近では、Svの方がSHmaxより数MPa程度大きくなっていることを示し、応力状態が正断層場から横ずれ断層場への遷移状態であることを報告した。同様の応力状態は、本孔の深度1~2kmにおいても報告されている(Chang & Song, 2016; Huffman et al., 2016)。 彼らは、孔壁に観察されたブレークアウトの解析から、応力状態が正断層~横ずれ断層場であり、またSHmaxの方向がトラフ軸に平行であることを報告している。深度2~3kmにおいてもブレークアウトが観察され、少なくとも深度3kmまではSHmaxがトラフ軸に平行なNE-SW方向であることがわかった(Kitajima et al., 2020)。

Site C0002における深度3kmまでの正断層~横ずれ断層応場で、かつSHmaxがトラフ軸に平行な応力状態では、深度~5kmにあるプレート境界断層で南海地震を引き起こすような低角逆断層運動は起こりようがない。可能性としては、プレート境界断層に近づくにつれて、もしくは南海地震が迫るにつれて現在の応力状態が逆断層場に変化すると考えられる。この仮説の検証のためには、超深度掘削によるプレート境界断層近傍での応力状態、そして応力状態の時間変化を探る必要がある。

Lin et al. (2016) Tectonophysics, 692
Strasser et al. (2014) Proceedings of IODP Exp. 338
Tobin et al. (2015) Proceedings of IODP Exp. 348
Tobin et al. (2022) Geology (in press)
Kitajima et al. (2017) GRL, 44
Chang & Song (2016) G-cubed, 17
Huffman et al. (2016) EPS, 68
Kitajima et al. (2020) Proceedings of IODP Exp. 358