[G9-P-4] (エントリー)北西太平洋北海道日高堆積盆周辺域の後期中新世における海洋表層環境の復元
【zoomによるフラッシュトーク有り】9/10(土)9:10-9:15
キーワード:アルケノン、後期中新世、日高堆積盆
1.はじめに
北海道の中新世には,島弧–島弧衝突により南北約 400 km,幅数 10 kmにわたる地域に狭長なフォアランド堆積盆が形成された。日高地域にはフォアランド堆積盆南部に位置する日高堆積盆を充填した泥質-砂質堆積岩が幅広く分布している(Kawakami.2013)。日高堆積盆が充填された中期-後期中新世には、8-7MaのEASMの弱化や東南極氷床の拡大により、複数回の寒冷化が東アジアから北西太平洋で発生したことが東シナ海や日本海、北太平洋外洋域での海洋掘削コアを用いた研究により明らかになりつつある(Matsuzaki et al.,2020)。一方、日本列島の太平洋沿岸域や北部域での古海洋情報は不足しており、日高堆積盆堆積岩から得られる古環境データは不足した領域の古海洋情報を補完できると考えている。本研究では中期-後期中新世までの堆積岩が連続的に露出する波恵川荷菜層の泥質堆積岩から長鎖アルケノンを検出例し、アルケノン古水温指標から復元した当時の海洋表層水温とその定量分析による海洋基礎生産の変動について報告する。
2.試料と手法
本試料が採取された波恵川は北海道日高町に位置する。波恵川には後期中新統荷菜層が露出しており、上流域では不整合により二風谷層上部が分布している。岩相は主に泥岩から砂質泥岩で構成されており、時折平行葉理を持つタービダイト層を挟む。また上位層準へ行くに従い粗粒化する傾向が見られ、最上部ではチャネル充填堆積物とされる礫層が卓越する。珪藻群集組成解析による波恵川荷菜層堆積年代では9.7-3.5Maと見積もられており(丸山ほか 2019)、後期中新世から鮮新世初頭にかけての堆積岩が連続して露出すると考えられる。 バイオマーカー分析は荷菜層泥岩から遊離態成分を抽出した後、GC-MS、GC-FIDによって測定・解析を行った。アルケノン古水温復元ではMüller et al.(1998)の換算式SST = (UK’37 -0.044) / 0.033から古水温を算出した。
3.結果と考察
波恵川荷菜層からはタービダイト性砂岩以外の全ての泥質堆積岩からハプト藻由来の有機成分であるアルケノンが得られた。アルケノンから見積もった海洋表面温度(SSTUK)は9.3-8.7Maから中新世末まで一貫した低下を示し、中新世末期からは細かい増減変動を見せる。SSTUKは9.3Maから8.0Maでは平均26.0℃、7.7Maから6.5Maでは22.3℃、6.5Ma以降では18.9℃と推算された。これらの結果から日高堆積盆では比較的高温だったSSTが8.7Ma以降急な水温低下が発生しており、これまで報告されてきた7.7Maから6.6MaにかけてEASMの弱化による日本海域でのSST低下と連動すると考えられる。また、6.5Ma以降の寒冷化は太平洋域(ODP site 1208)から報告された黒潮流弱化による寒冷化の影響が示唆されている(Matsuzaki et al.,2020)。日高堆積盆は日本海と太平洋双方の影響を受けてきた海域と考えられるが、その影響の度合は時代により異なることが本研究の結果から示唆され、中新世/鮮新世境界において、日本海側の影響を強く受けるフェーズから太平洋側の影響を強く受けるフェーズへ移行したことが推察される。 C37 アルケノンの濃度結果では、寒冷化を示す層準にて相対的に高い値を示す傾向が見られた。特に6.5Ma以降の層準では堆積物1gあたり最大0.45μgを示す。これらは海洋表層の冷却による海洋循環の強化による基礎生産量の増大を示唆すると考えられる。
4.参考文献
・Kawakami. (2013) InTech 131-155.
・丸山ほか (2019) 山形大学紀要(自然科学) 19 15-24.
・Matsuzaki et al. (2020) Geology 48 (9) 919-923.
・Muller et al.(1998) Geochim. Cosmochim. Acta 62(10) 1757-1772.
北海道の中新世には,島弧–島弧衝突により南北約 400 km,幅数 10 kmにわたる地域に狭長なフォアランド堆積盆が形成された。日高地域にはフォアランド堆積盆南部に位置する日高堆積盆を充填した泥質-砂質堆積岩が幅広く分布している(Kawakami.2013)。日高堆積盆が充填された中期-後期中新世には、8-7MaのEASMの弱化や東南極氷床の拡大により、複数回の寒冷化が東アジアから北西太平洋で発生したことが東シナ海や日本海、北太平洋外洋域での海洋掘削コアを用いた研究により明らかになりつつある(Matsuzaki et al.,2020)。一方、日本列島の太平洋沿岸域や北部域での古海洋情報は不足しており、日高堆積盆堆積岩から得られる古環境データは不足した領域の古海洋情報を補完できると考えている。本研究では中期-後期中新世までの堆積岩が連続的に露出する波恵川荷菜層の泥質堆積岩から長鎖アルケノンを検出例し、アルケノン古水温指標から復元した当時の海洋表層水温とその定量分析による海洋基礎生産の変動について報告する。
2.試料と手法
本試料が採取された波恵川は北海道日高町に位置する。波恵川には後期中新統荷菜層が露出しており、上流域では不整合により二風谷層上部が分布している。岩相は主に泥岩から砂質泥岩で構成されており、時折平行葉理を持つタービダイト層を挟む。また上位層準へ行くに従い粗粒化する傾向が見られ、最上部ではチャネル充填堆積物とされる礫層が卓越する。珪藻群集組成解析による波恵川荷菜層堆積年代では9.7-3.5Maと見積もられており(丸山ほか 2019)、後期中新世から鮮新世初頭にかけての堆積岩が連続して露出すると考えられる。 バイオマーカー分析は荷菜層泥岩から遊離態成分を抽出した後、GC-MS、GC-FIDによって測定・解析を行った。アルケノン古水温復元ではMüller et al.(1998)の換算式SST = (UK’37 -0.044) / 0.033から古水温を算出した。
3.結果と考察
波恵川荷菜層からはタービダイト性砂岩以外の全ての泥質堆積岩からハプト藻由来の有機成分であるアルケノンが得られた。アルケノンから見積もった海洋表面温度(SSTUK)は9.3-8.7Maから中新世末まで一貫した低下を示し、中新世末期からは細かい増減変動を見せる。SSTUKは9.3Maから8.0Maでは平均26.0℃、7.7Maから6.5Maでは22.3℃、6.5Ma以降では18.9℃と推算された。これらの結果から日高堆積盆では比較的高温だったSSTが8.7Ma以降急な水温低下が発生しており、これまで報告されてきた7.7Maから6.6MaにかけてEASMの弱化による日本海域でのSST低下と連動すると考えられる。また、6.5Ma以降の寒冷化は太平洋域(ODP site 1208)から報告された黒潮流弱化による寒冷化の影響が示唆されている(Matsuzaki et al.,2020)。日高堆積盆は日本海と太平洋双方の影響を受けてきた海域と考えられるが、その影響の度合は時代により異なることが本研究の結果から示唆され、中新世/鮮新世境界において、日本海側の影響を強く受けるフェーズから太平洋側の影響を強く受けるフェーズへ移行したことが推察される。 C37 アルケノンの濃度結果では、寒冷化を示す層準にて相対的に高い値を示す傾向が見られた。特に6.5Ma以降の層準では堆積物1gあたり最大0.45μgを示す。これらは海洋表層の冷却による海洋循環の強化による基礎生産量の増大を示唆すると考えられる。
4.参考文献
・Kawakami. (2013) InTech 131-155.
・丸山ほか (2019) 山形大学紀要(自然科学) 19 15-24.
・Matsuzaki et al. (2020) Geology 48 (9) 919-923.
・Muller et al.(1998) Geochim. Cosmochim. Acta 62(10) 1757-1772.